ヒグマハンター「重要な1挺」返還されず|検察「廃棄」で当事者が怒り心頭

 ヒグマを駆除したハンターの猟銃所持許可をめぐり、公安委員会の所持許可取り消し処分が最高裁判所で違法認定された問題で(既報)、裁判を起こしたハンターのもとへ返還されるべきライフル銃1挺が「廃棄」されていたことがわかった。代理人を通じて地元検察からその事実を伝えられたハンターは「あまりにもおかしな話で、とても納得できるものではない」と、憤りをあらわにしている。

■「適法に廃棄」に重大な疑義

 「私は一貫して『銃を取られるのはおかしい』と言い続けてきたはずだ」――そう怒りを込めるのは、北海道猟友会の砂川支部長を務める同市の池上治男さん(77)。本サイトなど既報の通り、池上さんは自治体の要請でヒグマを駆除した行為を銃刀法違反や鳥獣保護法違反などの罪に問われ、のちに容疑が晴れたにもかかわらず北海道公安委員会からライフル銃の所持許可を取り消された。

 これを不服として公安委を訴えた裁判では一審の実質全面勝訴、二審の逆転敗訴を経て本年3月、最高裁判所が改めて当時の処分を違法と断じる再逆転判決を言い渡し、公安委処分の無効が確認されたところだった。確定判決を受け、4月上旬に北海道警察の保安課長が池上さんのもとを訪れて公安委の謝罪文を代読。押収していた銃を「返還」するに到った。

 これも既報の通り、捜査機関が池上さんから差し押さえた猟銃は計4挺。うち2挺はすでに返還されているが、その時点で持ち主の池上さん自身が銃の所持を認められていなかったため、同2挺は取り扱い資格を持つ銃砲店に保管されることに。残る2挺のうち、4月9日の謝罪時に返還されたのは1挺のみ。最後の1挺がどうなったのか、この時に公安委・道警からはとくに何の説明もなかったと池上さんは明かす。

 「それが最も大事な銃なんですよ。警察が問題とした駆除行為に使ったのが、まさにその銃なんだから。…それに、私にとっても個人的に最も思い入れのある銃だった。2017年に亡くなったハンター仲間の“形見”なんですよ。彼が倒れた時に、病床で『使ってくれ』と頼まれ、その場で譲り受ける約束をしたんです」

 不審に思った池上さんは謝罪翌日の4月10日、訴訟代理人を務めた中村憲昭弁護士(札幌)ら弁護団を通じて銃の行方などを捜査側に照会。当時の銃刀法違反疑いなどを調べた札幌地方検察庁から回答があったのは、4日後の14日だった。曰く、「適法に廃棄しました」――。

 中村弁護士によると、地検の担当者は「『所有権放棄書』に本人の署名をもらった」との理由で「適法な廃棄」を執行したと説明したという。だが、そもそも銃の所持許可を求めて裁判まで起こした人が廃棄に同意するとはおよそ考えにくい。訝った中村弁護士が『放棄書』の署名を確認させて欲しいと求めると、地検は対応を拒否したという。

 「先方の理屈では『不起訴記録なので閲覧・謄写はできません』と。つまり、今の時点では本当に『所有権放棄書』なるものが存在するのかどうか、またそれに池上さんがサインしたのかどうか、客観的に確認できないんです」

 池上さん自身には、放棄に同意した記憶はない。それどころか、先の銃刀法違反などの不起訴が決まった直後、本人が警察を訪ねて返還を求めていたのだという。

 「不起訴が決まってすぐ、砂川警察署(のち滝川署と統合)に行って『返してくれ』と言ったんだけど、相手は『不起訴といっても起訴猶予とかの場合もあるから、まだ返せない』って言ってきた。少なくともその時点で、私が銃を返してもらいたがっているということは相手もわかったはず。それをわかっていて、どうして廃棄できるのか…。さっきも言ったように、あの銃は私にとって特別な銃だったんだけど、それだけじゃないでしょう。裁判にまでなった駆除行為に使われた銃ですよ。警察・検察が調べた銃刀法違反疑いの重要な証拠品じゃないですか。私にとっても警察にとっても、最も廃棄してはならない銃だった。それをあっさり廃棄するなんて考えられません。証拠湮滅、あるいは捏造。袴田事件とかに通じる大変な不祥事だと思いますよ」

 裁判提起前から、池上さん側は警察の「異常な処罰感情」を指摘していた。とにかく気に入らないから罰を与え、銃を取り上げてやろう――。よもやその後の行政訴訟で7年あまりを経て完敗を喫するとは夢にも思わず、当局は問題の銃をかなり早い時期に廃棄していたのではないかと、池上さんらは疑っているところだ。とうに存在しない銃の行方を問われ、答えを返すまでに4日間を要したのも面妖だったといえ、そもそも4月9日の謝罪時に廃棄についてまったく説明がなかったのも不自然だった。

 参考までに、裁判提起までの経緯を時系列でまとめておくと以下のようになる。

2018年8月  池上さんが砂川市の依頼でヒグマを駆除

同年10月  北海道警察が銃刀法違反などの疑いで池上さんを在宅捜査、銃4挺を押収

2019年2月  道警が北海道公安委員会に猟銃所持許可取り消しを上申、池上さんを書類送検

同年3月  札幌地方検察庁滝川支部が不起訴処分を決定、道警が池上さんの銃返還要求を拒否

同年4月  道公安委が池上さんの銃所持許可取り消し処分を決定

同年6月  池上さんが行政不服審査請求を申し立て

2020年4月  公安委が審査請求棄却

同年5月  池上さんが札幌地方裁判所に行政裁判を提起(2027年3月、最高裁で勝訴判決確定)

 上のどのタイミングで今回の銃が「廃棄」されたのか、所有者の池上さんはいつ廃棄に同意したのか。中村弁護士が検察にそれを尋ねると、担当者はいずれについても「捜査の都合でお答えできない」と答えを拒んだという。

 当事者の池上さんは「私が廃棄に同意した憶えはないし、もしそれとわからないようにうまいこと言ってサインさせたのなら『騙し討ち』だ」と憤りを隠さず、「だいたい、不起訴になったら廃棄していいなんてルールがあるのか」と、検察の手続きの適正性を疑っている。

 「廃棄」の詳細な事実関係について、弁護団は引き続き当局に必要な確認を求めていくとしている。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

 

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