再審制度見直し巡る法務・検察の本音と他人事の高市首相

今月16日、再審制度を見直す刑事訴訟法改正案が衆議院を通過、審議の場は参議院に移っている。「一歩前進」との声もあるが、内容が不十分であることは明らかだ。

■法務・検察の本音

法務省は当初、裁判所が再審開始決定を認めた場合、検察が不服申し立てをできる「抗告」制度を残す方針だったが、4月7日の自民党法務部会と司法制度調査会の合同会議で、稲田朋美元政調会長による「1ミリも私たちのいうこと聞かないじゃないですか」で始まった“稲田の乱”によって事態は急展開する。

稲田氏ら良識ある自民党議員の激しい抵抗にあった法務省は5月7日、抗告を原則禁止とする修正案を提示。最終的に自民党側が折れたことで、高市内閣は5月15日に修正案を閣議決定する。しかし、法務・検察の抵抗を厳しく非難してきた多くの議員は「まだ納得できない」と話す。

稲田氏は、「十分な理由があれば例外で抗告ができるという点が盛り込まれた。全面禁止ではない」と指摘するが、法務省幹部は「このあたりで決着できてよかった」と胸をなでおろす。

現役検事にとっては先輩にあたるヤメ検の、ある弁護士(検事正2度、最高検部長、法務省幹部経験)は、後輩たちの声を代弁するように本音を語る。

「再審制度の見直しで助かった。これがもし、通常の刑事裁判や捜査の在り方の見直しとなったら、とても受け入れられなかった。法務・検察が一番怖かったのは、検察控訴の禁止にまで世論が流れること。検察の控訴が禁止されるなんてことになれば、無罪判決がどんどん増えてしまう」

日本の刑事訴訟制度では、地方裁判所の一審で無罪判決となっても検察が控訴できる。高等裁判所の二審でさらに検察側控訴が棄却されても、最高裁に上告可能だ。いわゆる「三審制」である。

実は、長く続いているこの制度、世界を見渡せば極めて珍しい。アメリカやヨーロッパでは一審で無罪判決となればそれで終わり。検察の控訴自体が禁じられている。

「二重の危険」「一事不再理」ともいわれるもので、1度無罪が確定すれば同じ罪で再び裁判にかけることはできない。

世界の多くの国々において、検察の戦いは法廷での「一発勝負」が大勢だ。だが、日本では1度無罪になっても、2度の上訴権で検察が裁判所に「救われる」というケースが山ほどある。

刑事弁護を専門とする弁護士の間からは次のような話が聞こえてくる。

「地裁では証拠を吟味した上で、一審無罪を出してくれる。だが、高裁に行くと検察の言いなりで逆転有罪というケースが少なくない。諸悪の根源は高裁であり、そこが裁判所なのか、検察なのかわからないところだ」

弁護士の間では、「再審は針の穴を通すより難しい」と言われてきた。再審開始決定になっただけで、マスコミ報道も大きくなる。それほど稀なことなのだ。ある法務省幹部は、踏み込みの浅かった再審見直しの議論を評価し、こう開き直る。

「再審決定はめったにない。抗告が原則禁止というところで収まって実は安堵している。これが、通常の刑事裁判の上訴権などに及んだら大変なことになっていた。今回は、袴田事件はじめ再審から冤罪確定となったケースで盛り上がっただけ。再審に限定された論議だったので助かった」――これが法務・検察の本音だろう。ふざけているとしか言いようがない。

■「証拠開示」の問題点

再審制度の見直しでもう一つの争点となっているのが「証拠開示」。袴田事件における第二次再審請求審の即時抗告審で袴田さんが着用していたという下着のネガフィルムが証拠開示されたが、事件発生から1年2か月も経って味噌タンクから発見されたという下着の色の鮮明さに疑義が示され、これが再審決定の決め手となった。

9年近くの服役後、2025年に再審無罪となった福井事件の前川彰司さんのケースでも、検察側の証拠に明らかな齟齬が見つかっている。

前川さんが殺人事件の犯人とされたのは「血のついた前川を見た」という数々の証言。いつそれを見たのかがポイントだった。ある証言者の供述調書には「ある民放テレビ番組を見た日と一致している」と記されていたが、再審開始で検察が証拠として出してきた捜査報告書によって、民放テレビ番組の放映日がまったく違っていたことが判明。証言の信頼性が大きく損なわれ無罪につながった。

今回の再審制度見直しでは、証拠開示について、裁判所が再審請求との「関連性や必要性」を考慮して認めた場合のみ開示されることになっている。証拠開示の範囲は全面公開ではなく「不当に狭くならないように留意」とされており、重要な証拠が隠される恐れがある。

また開示された証拠の「目的外使用禁止」も盛り込まれており、これも問題だ。袴田事件では、証拠の捏造を示すネガフィルムがマスコミで広く報道されたことで世論が沸騰し、無罪につながったが、法務・検察は「隠す」のに固執した。

自民党と法務省の激しい議論が続いていた4月、弁護士でもある泉房穂参議院議員は、再審制度見直しについて高市早苗首相に「再審法は、最終的に総理が決断するしかない」と迫った。しかし高市首相は「政治決断で決めていいことではない」と一蹴。議論は噛み合わなかった。自民党の旧安倍派の議員がこう解説する。

「高市総理にとっては、衆議院で316人に増えたものの、自民党議員の中に危ない橋を渡っている連中がいるのはお見通し。ある程度法務・検察の意向を踏まえて着地点を探さないと、いつ特捜部に逆襲されるかわからない。もちろん、ご自身を含めて。本音を言うと、検察の機嫌を損ない、面倒な話になることが怖かったんじゃないですか」

この解説が事実なら、一国の総理としてあまりにも情けないと言うしかない。

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