苦しげにいきさつを話す被害女性。目の前の彼女が綴り続けてきた記録をみて、目頭が熱くなった。強制わいせつの被害、それによって10年後に襲ってきたフラッシュバック、PTSD発症、勇気を振り絞って警察に被害を訴えるまでの経過、信頼して頼った警察による被害申告の取り下げ強制と絶望――。うつむく被害女性にかける言葉をさがしながら、こみ上げてくる県警への怒りを抑えることができなかった。
次から次へと明らかになる鹿児島県警の捜査拒否。何かと理由をつけて被害届や告訴状の提出を阻もうとする姿勢は、この腐敗組織特有のものだ。捜査拒否だけなら「ああ、またか」と呆れるところだが、県警さつま署が捜査拒否を正当化するため、被害を訴えてきた女性に被害申告の取下げを強要し、実際にサインまでさせていたことがわかった。明らかな犯罪行為である。

■スケジュール帳の記録 ―「こわい顔でせまられ続け」「泣きながらサイン」
被害女性が残していた記録が物語るのは、“警察官による強要”。さつま署の警察官は、女性が訴える性被害の内容に難癖をつけ、取下げ書にサインさせていた。下に被害女性が残した当日の記録の一部分を示す。

加害者に何も聞かずに捜査終了となるのは納得できなかった.そうさして処罰をしてほしいと訴えてるのをムリやり取り下げられるのはおかしい。サインをするようこわい顔でせまられ続け、「書類は保存されるのか」とやむなく聞いたら 「保存される」「サインするように」とのこと。泣きながらサインした。警さつに泣きねいりさせられたも同然.(原文ママ)
さつま署の担当警察官は、捜査を拒否しただけでなく、「取下げ書」なるものにサインするよう執拗に迫り、泣いている被害女性にペンをとらせたということだ。どうみても「強要」にあたる犯罪行為だろう。
女性が残している記録には、この日、さつま署の警察官が「証拠もないし、昔のことでこれ以上捜査するのは難しい」と述べたことも記されていた。
それから数年。事件は、あることをきっかけに被害女性の主張が通り、捜査、送検へと進む。さつま署の当時の判断がデタラメだったことは明白だ。つまりは、捜査拒否。県民の安心・安全を守るという重要な使命を負いながら、被害を訴えた女性と向き合わず、職務放棄したあげく、それを正当化するためのアリバイとして「取下げ書」を残したというのだから開いた口が塞がらない。関与した警官は、税金泥棒どころか本物の犯罪者だ。
■無視された「犯罪捜査規範」と警察庁
警察官が犯罪の捜査を行うに当たって守るべき心構え、捜査の方法、手続その他捜査に関し必要な事項を定めた「犯罪捜査規範」は、次のように規定する。
《警察官は、犯罪による被害の届出をする者があつたときは、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず、これを受理しなければならない》(第61条)
《前項の届出が口頭によるものであるときは、被害届(別記様式第6号)に記入を求め又は警察官が代書するものとする。この場合において、参考人供述調書を作成したときは、被害届の作成を省略することができる》(同条)
《司法警察員たる警察官は、告訴、告発または自首をする者があつたときは、管轄区域内の事件であるかどうかを問わず、この節に定めるところにより、これを受理しなければならない》(第63条)
説明するまでもなく、県警さつま署警察官の行為は犯罪捜査規範に抵触する。さらには、刑法上の「強要」にあたる暴挙とも言える。受理しないだけでなく、捜査拒否を正当化するため被害女性にさらなるダメージを与えたのだから、うやむやにしていい事案ではない。
全国の警察組織を統率する警察庁の刑事局長は、国会で鹿児島県警が捜査を拒否した強制性交事件について質問された際、こう答えている。
「都道府県警察におきまして性犯罪にかかる告訴がございましたら、要件が整っていればこれを受理し、速やかに捜査を遂げて、検察庁に送付する」
「性犯罪に関する被害の届け出がなされれば、都道府県警察においては被害者の立場に立ってこれに対応するべきであり、その際には例えば、警察が被害届の受理を渋っているのではないかというようなことを受け取られることのないように被害者に対する説明にあたってはその心情に配意するよう指導してきている」
被害女性は「告訴」の意思を示していたのだが、鹿児島県警には警察庁の指導が及んでいなかったのだろう。
では、さつま署がもみ消しに失敗したこの事件は、どのような経過をたどったのか。次稿から時系列で事実関係を追っていく。 (以下、次稿)
(中願寺純則)















