不透明な業者選定プロポーザルを行っていたことが明らかとなった兵庫県芦屋市が、この問題を追及してきたハンターに、口頭での取材を拒否するという前代未聞の展開となった。市側に取材する場合は、その都度「文書」を提出するよう求めてきており、情報公開請求で入手した公文書についてのやり取りも同様に扱うとしている。事実上の取材制限であり、さらなる「疑惑隠し」と判断せざるを得ない状況となった。
■追及報道に音を上げた?
ハンターが追及してきたのは、芦屋市が令和6年に実施した「芦屋市道路公園施設包括管理業務」の業者選定プロポーザルにおける不透明な過程。二つの事業体(選定に漏れたA事業体と選ばれたB事業体)が公募に応じた同プロポーザルに関しては、ハンターの市への情報公開請求と取材によって、以下の事実が明らかとなっている。
・選定委員(同市の呼称は「専門委員」)が事業者の提案内容を採点した際の「手書きの個票」を請求したが、開示されたのは点数をデータとしてまとめた「2次評価シート」(*下の画像)で、当初、市はこれを「個票」と主張し手書きの個票には一切の言及なし。
・市は、事業者が選考過程に問題があったとして契約取消しを求めている裁判で採点過程を示す文書(2次評価シート及び手書きの個票)の提出を頑なに拒み、市議会議員への資料提供でも未提出。
・手書きの個票については、ハンターが「公文書毀棄」を指摘したとたん、一転して「開示する」の連絡。
・2次評価シートと最終結果の総合点が合致せず、精査したところ総合点の算出方法変更が判明。算出方法の変更を行った際の、だれが、いつ、どのような理由でそれを決めたのかを示す公文書は不存在。
・従来方式なら「5点差」だったものが、総合点算出方法を変えた「評価結果」では「13点差」に拡大。
・プロポーザル参加事業者に提出が義務付けられていた「障害者雇用状況報告書」を巡り、応募した二つの事業体の一方の報告書が行方不明になっていることについて、市は「提出されていないものと認識している」とあやふやな主張。もう片方の事業体の報告書に記載されている雇用障がい者の人数「1」には重大な疑義。
以上の事実を順を追って報じてきたが、選定された事業者の障がい者の数に間違いがあった場合は評価総合点が12点減り、従来型の点数算出方法なら逆の結果になること、さらには変更後の点数算出方法なら12点がなくなっても「1点差」で最終結果が維持されることなどをまとめ、6月30日に『芦屋市・疑惑のプロポーザル(6)|「障害者雇用状況報告書」と「13点差」の意味』を配信していた。同日、市長名でファックスされてきたのが下の6月30日付「取材対応方法について」である。

呆れたことに、口頭での取材を拒否し、質問があれば「文書」にしろという内容。不祥事を抱えた政治家の事務所がよくやる手法だ。何十年も行政機関と向き合ってきたが、口頭での取材を拒否する市役所など記憶にない。追及に音を上げた格好とも思えるが、まるで駄々っ子である。
芦屋市の言い分はこうだ。ハンターの記事に「不正」を前提とするような表現――「都合の悪い文書を隠す時の、役所の常套文句」「まだ隠さねばならないことのある証拠」――があり、それが《読者に対し本市が不適切な対応を行っているかのような誤解を与えかねない》のだという。
本サイトの記事の正確な記述は、“「個人情報だから」は、都合の悪い文書を隠す時の、役所の常套文句である”。選定過程の正当性を示すためには、黒塗りにしてでも開示すべき文書を出し渋る市の対応を批判したものだ。「まだ隠さねばならないことがある証拠だ」という一文も、市が個人情報を盾に不必要な非開示をしているからに他ならない。そもそも、誤解を招くようなマネをしてきたのは芦屋市の方なのだ。
取材は文書でという言い分には不同意だが、必要とあれば承知するしかない。話が先に進まないからだ。ただ、情報公開請求で開示された公文書については役所側に説明責任を果たす義務があり、一々文書でやり取りするわけにはいかない。目の前に開示された文書を置かれたら、内容の不備や語句の意味についてその場で聞くしかないからだ。そこで芦屋市が口頭取材拒否の連絡をしてきた6月30日、市に下の文面をファックスし、回答を求めた。
芦屋市長 高島崚輔様
前略
貴市からのメール拝読いたしました。取材は文書でという通知、承知いたしました。そこでお尋ねいたしますが、情報公開請求で貴市が開示した公文書について確認や説明責任を求める場合は当然口頭でのやりとりになるものと思料いたしますが、この点についてご回答ください。ニュースサイトハンター 中願寺純則

今回、市は「2次評価シート」を“個票”として開示したが、当然「手書きの個票はどうなった」と聞く。回答次第で「それはおかしい」となる。芦屋市は、そうした作業を全て“文書でやれ”と言っているのだ。時間がかかる上、大変な手間となる。悪質な取材妨害と言っても過言ではあるまい。
■報道関係者や識者からも厳しい批判
こうした事態をどう見るか――。新聞・テレビの記者、フリーのジャーナリストなどに感想を求めた。
【現場取材30年以上の全国紙記者】
行政対応としては、稚拙な、その場限りのものと感じました。こうした対応であれば、まずは市役所自体、自らの過去の質問に対する回答(記事への抗弁でも)を文書で公表すべきです。なぜ審査基準を変えたのか、その経緯を。そうした判断に至るまでのプロセスを、誰が決裁に関与したのか、つまびらかに、文書で回答をすべきかと思います。
【地方紙記者】
疑惑を認めたも同然の対応ですね。まともな行政機関のやることとは思えない。これ以上突っ込んだ取材を受けるわけにはいかないという組織としての意思が透けて見えるようです。
【東京のフリージャーナリスト】
文書という証拠に残る形でこうした通知を送ってしまえば、記事にされるに決まっている。それが分からなかったとすれば、芦屋市役所はかなりヤバい状況に追い込まれているとみた方がよさそうだ。口頭での取材をすべて断るというのは、どう言い訳しても事実上の取材拒否。情報公開での内容確認も同様に扱うという芦屋市の方針はもっと問題だ。そういう対応をするなら、取材時に録音すればいいだけの話。実際、そうしている自治体はいくつもある。
【テレビ局記者】
口頭での質問に答えないという取材対応は、伝えられないことがあるのではないかという疑念を膨らませるだけです。速報性も重視されるニュース報道への対応としては不誠実なもので、市民の「知る権利」を尊重するのであれば当然避けるべきでしょう。
【札幌市在住のジャーナリスト】
芦屋市の取材制限は、ハンターの報道内容如何にかかわらず不適切だと考えます。まず、制限の理由として記事中の特定の記述を例示している時点で「表現の自由」「言論の自由」を侵していることになり、私がかつて取材した「首相演説ヤジ排除事件」を彷彿とさせます。ヤジやプラカードの「内容」を問題視して市民を排除した警察の行為は、裁判で違法と断じられました。芦屋市が記事の「内容」を問題としてハンターの取材を制限する対応は、この警察の行為と本質的に同じです。地方自治体が憲法の保障する表現の自由を侵すことがあってはなりません。
そして、口頭あるいは電話での取材には応じないとしている点。これが適切だとするならば、同市はハンターに限らずすべての報道機関に同様の対応をしなくてはならなくなります。しかし実際、そのような対応を認める報道機関が存在するとは考えられず、市政記者クラブ加盟各社をはじめ地元報道はおそらく現在も日常的に口頭などで市への直接取材を行なっているでしょう。市長記者会見なども当然、文書のやり取りなどではなく口頭の質疑応答の形をとっている筈です。そこでハンターの取材に対してのみ文書でのやり取りを強いるのは、明々白々に公平性を欠く差別的な対応です。憲法で保障される「知る権利」は特定の報道機関のみが独占できるものではなく、国民全員に等しく与えられた権利です。
以上の2点により、今回の芦屋市の取材対応は不適切であり、ただちに撤回されるべきです。
感想を寄せてくれたのは、報道の第一線で長く権力と対峙してきた経歴を持つジャーナリストばかり。役所が報道機関に対し、口頭での取材を拒否する文書を発出したことなど「聞いたことがない」と口を揃える。ハンターは芦屋市の通知に従って「文書取材」を行うしかないが、ぜひ“まともな回答”をするようお願いしておきたい。
一連の動きについて、行政機関の取材対応や情報公開請求に詳しい市民オンブズマン福岡の児嶋研二代表幹事は、次のようにコメントしている。
「ハンターの記事は、芦屋市への情報公開請求で入手した公文書を精査し、取材結果を加味した上での論評だ。気に入らないから口頭でのやり取りを拒否するというのは、あまりに幼稚。説明責任を果たすつもりがないと言っているに等しい。記事中に添付された開示文書を見る限り、疑念を持たれてもおかしくないプロポーザルの進め方があったことは明らか。誤解を与えかねない記事の内容や表現があったとすれば、口頭取材お断りの文書を出す前にハンターと誠実に向き合い、間違いがあれば抗議するなり、訂正を求めるのが先だろう。口頭での取材を拒むということは、“物言えば唇寒し”の状態になったからではないのか。そもそも、情報公開は市民の知る権利に応えるための制度であり、その運用にあたって行政機関が口頭はダメだとか文書にしろだとか注文を付けること自体間違いだ。芦屋市は、報道機関の記者の後ろに、多くの市民の目があることを理解していない。こうした形での批判潰しを、決して容認してはいけない」
















