元警部・稲葉さんが札幌で子ども食堂|やなせたかし氏の「正義」に共感

北海道警察の不適切な拳銃捜査などの告発で知られる元警部の稲葉圭昭さん(72)がこの夏、地元・札幌で「子ども食堂」の取り組みを始めた。今のところ「食堂」に使える場は確保できていないが、調理した食事を利用者のもとへ届ける形でスタートし、おもに一人親世帯などの10数人から引き合いがあるという。お腹をすかせた子たちに食事を分け与える正義を説いたアンパンマン・やなせたかし氏の考えに強く共感する稲葉さんは「今後もできる範囲で続けていきたい」と、新たな取り組みに意欲を見せている。

◆   ◆   ◆

稲葉さんが子ども食堂の構想を練り始めたのは、本年初頭のこと。それまでにも貧困支援などに関心があり、自身が日ごろから携わる飲食業のノウハウを社会貢献に活かせないかと考えていたところ、子ども食堂への思いを打ち明けた知人から「それは本当の正義」と背中を押されることになったという。

「やなせたかしさんの説く『正義』の話を聴き、本当にそうだと実感したんです。この世で唯一の正義は、お腹をすかせた子に食べ物を与えることなんだと。まったくその通りで、自分が警察官だったころの『正義』は誤っていたんだと思いました」

4月に地元の札幌市へNPO法人設立の認証を求め、5月中旬に認証を得た。子ども食堂運営とともに薬物依存症回復支援も謳った法人の名は『希望』。設立時点で「食堂」といえる場を確保できていなかったが、用意した食事を利用者に届けることはできると判断し、6月上旬にもっぱら配達の形で食事の提供を始めた。

「知人が経営する事業所にシングルマザーが何人か働いていると聞き、支援を申し出たところ『ぜひ』ということになりました。中にはお子さんが3人いるお母さんもいて、働きながらの子育ては本当に大変だと想像できます」

手の届く範囲で支援の輪を拡げ、現在の利用者は10数人ほど。当面は配達のみの体制で、2週間に一回程度のペースで「食堂」を続けていく考え。先のやなせさんの言葉を伝えた知人も飲食業に就いており、稲葉さんの思いに共感して食事を提供してくれているという。稲葉さん自身、毎朝暗いうちから台所に立ち、妻とともに切り盛りする惣菜店で扱うサンドイッチなどを調理する日々。子ども食堂のための作業も「まったく苦にならない」という。

「配達だけだから、食べている子たちの顔をまだ見たことないんだけど、食べてくれてるところを想像しながら調理するのは楽しいですよ。サンドイッチとかスパゲティ、カレー…。子供中心のメニューになるけど、子供の苦手な野菜もたっぷり入れてあげて」

子供の貧困は本来、国なり自治体が解決に取り組むべき問題。民間のボランティアがそれを担わなくてはならない状況について、稲葉さんは「むしろ民間じゃないとできないと思う」と冷静だ。

「今のこの国に正義を期待しても仕方ないですよ。やっぱり、民間の自分たちができる範囲で少しでもいい社会にしていかないと」

法人の名『希望』には、そんな思いが込められているようだ。

「それと、やっぱり食事は希望なんですよ。自分が刑務所にいた時、週に1回、土曜日の朝に出てくるパンとコーヒーがささやかな希望でした。たったそれだけで『今日もしっかりやろう』『来週も頑張ろう』という気持ちになれる。そういう希望を、子供たちと共有したくて」

稲葉圭昭さんは1976年に北海道警察入り。90年代半ばから銃器捜査に携わるようになり、組織的な不正捜査に巻き込まれることに。捜査の過程で起こした覚醒剤事件で有罪判決を受け、免職。刑務所に服役後は飲食業や探偵業に従事し、併せて厚生労働省関連の「依存症予防教育アドバイザー」として薬物依存症者や家族などの支援に携わっている。道警の不正捜査をめぐっては、違法なおとり捜査で銃所持事件の犯人に仕立てられたロシア人男性の冤罪を証言し、同事件の無罪判決確定を導いた。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

この記事をSNSでシェアする

関連記事

最近の記事一覧

  1. カツアゲ発言で福岡県議会の金銭授受問題に火をつけた吉松源昭県議会議員が、蔵内勇夫県議会議長の不信任決…
  2. 福岡県大任町に関する報道を始めて5年が経過した。発端となったのは、2021年6月に大任町と田川市に対…
  3. ハンターから業者選定プロポーザルの疑惑を追及された兵庫県芦屋市が、口頭での取材や開示情報に関するやり…
  4. 福岡県大任町(永原譲二町長)が町内で進める義務教育学校の整備事業のうち、土木工事11件の平均落札率が…
  5.  長年愛読してきた西日本新聞だが、堕ちるところまで堕ちたというしかない。8月2日朝刊第二社会面右肩の…




LINEの友達追加で、簡単に情報提供を行なっていただけるようになります。
ページ上部へ戻る