北海道で自衛官らの裁判が佳境|パワハラ自殺訴訟は10月にも二審判決へ
北海道の裁判所で7月下旬から8月上旬にかけ、自衛隊のハラスメントや安全配慮義務違反などを問う複数の裁判の口頭弁論が相継いだ。いずれも自衛官やその家族が組織の問題を追及して提起したもので、この秋にも尋問や判決言い渡しなどを迎えることになる。
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7月31日午前に札幌地方裁判所(小野瀬昭裁判長、元芳哲郎陪席判事、河村紗穂陪席判事)で提訴後10回目になる弁論があったのは、現職自衛官が実名を明かして提起した賠償請求訴訟。現在北部方面総監部に勤務する中村俊太郎・1等陸尉(52)は、射撃訓練などの騒音業務で難聴を発症したとして一昨年の夏にその訴えを起こしていた(既報1)。その中村1尉は今回、自ら国へ情報公開請求をして入手した公文書を証拠提出し、職場の安全配慮義務違反などを改めて指摘することとなった。
原告側が情報公開法に基づく文書開示請求で入手したのは、陸自衛生学校が1999年に作成していた騒音性難聴についてのレポート。『各職種隊員の音響性聴覚障害とその予防法に資する研究』と題された40ページあまりの報告書によると、陸自は騒音業務による難聴発症の可能性を早くから把握しており、現場では充分な対策がとられていないとして具体的な予防策の必要性を認識していた。ところが実際の訓練の現場ではこの報告が顧みられず、隊員の難聴を予防する措置が充分に講じられていなかったという。原告側は今回改めてこの事実を指摘し、かねて主張してきた陸自の安全配慮義務違反などを裏づける資料として同レポートを証拠提出。被告の国はこれを含む原告側の主張に改めて反論するとして、10月上旬までに新たな書面をまとめる考えを示した。
月を跨いで8月5日午後には、公益通報を「テロ行為」扱いされて人事などで不利益を蒙ったという現職自衛官(50歳代男性)の裁判で、札幌地裁(吉川昌寛裁判長、濱岡恭平陪席判事、山守晧己陪席判事)が11回目の弁論を開いた。おもな証拠調べが一段落した同裁判で関係者らの尋問が開かれることが決まった経緯は、本年5月に配信した記事の通り(既報2)。今回の弁論では、元職を含む自衛官4人、及び原告本人、計5人の尋問の日程が決まった。原告を除く4人の顔ぶれについて、既出の情報を下に再掲しておく(役職や階級は当時)。
・M三佐(陸上幕僚監部ワークライフバランス推進企画班)=匿名通報の内容を市ヶ谷から北部方面へ漏洩した人物
・O一佐(北部方面混成団長)(現在退官)=いわゆる犯人捜しを指示したとされる人物
・W一佐(同 副団長)(現在退官)=通報のきっかけとなったパワハラの加害者
・M一佐(同 第1陸曹教育隊長)=OやMの指示で通報者を特定し、原告男性に「自白」を迫った人物
被告の国は原告に対するハラスメントの事実関係をすでに認めており、裁判が賠償命令に到るのはほぼ確実。問われるのは一連のパワハラなどの組織的責任がどれほどの規模に及ぶかといった問題で、原告代理人らは「退職者にもパワハラの責任を問える前例を、この裁判がつくることになる。賠償についても、逃げ得を許さない『求償(当事者自身へ賠償を求めること)』に期待したい」としている。
この弁論から一夜明けた8月6日午後には、ハラスメントや退職妨害を苦に自殺した若手自衛官の遺族が起こした裁判の(既報3)控訴審初弁論が札幌高等裁判所(角井俊文裁判長、山原佳奈陪席判事、立野みすず陪席判事)で開かれ、即日結審した。訴えを起こした川島五月さん(60)は「一審判決には納得できていなかった」と、高裁で自衛隊の組織的責任が充分に認められることに期待している。
既報の通り、川島さんの長男・拓巳さん(当時19)は陸自白老駐屯地に勤務していた2012年10月、先輩隊員からの「しつけ」と称するパワーハラスメントなどを苦に自殺した。亡くなる前には自ら退職を申し出、母の五月さんも駐屯地まで出向いて息子を連れ帰ろうとしたが、上官らが辞意を認めず、不本意な勤務を強いられ続けることになったという。拓巳さんの死から7年あまりが過ぎた2020年4月に到って防衛省に賠償を求める裁判に踏み切ったのは、先んじて申し立てていた公務災害認定がことごとく退けられたため。原告には母の五月さんに加え、拓巳さんの弟や妹たちも名を連ねた。組織的な安全配慮義務違反を否定する国側は、原告側が提出を求める文書をいわゆる“のり弁当”状態で出し続けるなどの抵抗を続け、裁判は結審までに5年以上の時間が費やされることとなった。
審理にあたった札幌地裁は本年1月、遺族の主張を認めて国に110万円の賠償を命じる判決を言い渡す。ただ、同判決では「パワーハラスメント」の事実を認めつつ、それらは「いじめにあたらない」と結論づけるなど、遺族として承服しがたい部分があり、またたび重なる退職妨害と自殺との因果関係も認定されなかった。これを不服とした原告側は引き続き法廷で争う意向を示し、控訴。今回の高裁初弁論で控訴人(遺族)側は改めて自衛隊の安全配慮義務違反を指摘し、パワハラや退職妨害と自殺との因果関係についても適切な評価を求めた。一方の国は控訴棄却を求め、審理は初回の弁論で終結、年内に二審判決が言い渡される見通しとなった。結審後に記者会見に臨んだ川島五月さんは、支援者らを前に真っ当な判決への期待を述べた。
「1月の判決には、到底納得できませんでした。今日の代理人の陳述でそこをしっかり言っていただき、ありがとうございますという気持ち。親が子供をしつけることは世間一般で認知されていますが、自衛隊の『しつけ』はまったく別のもので、もっと暴力的。そういう事実が前の判決には含まれていなかったので、今回はちゃんと含まれるよう、切に願っています」
奇しくも時期を同じくして直近の弁論があった陸自隊員らの裁判は、原告代理人によれば全国各地の自衛隊関係者らの耳目を集めているところだという。
現職自衛官の公益通報をめぐるパワハラ裁判の尋問は9月9日午後に、同じく現職が提起した難聴裁判の次回弁論はさらに1カ月を経た10月15日午前に、いずれも札幌地裁で開かれる。自殺自衛官の遺族が起こした裁判の控訴審では判決言い渡しの日時が10月上旬に指定されたが、同日は控訴人(一審原告)代理人の多くが別件により法廷へ足を運べないため、日程が変更される可能性がある。
(小笠原淳)
| 【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |















