検察の猟銃廃棄「考えられない」|北海道のヒグマ駆除ハンターが新たな国賠提訴

自治体の要請でヒグマを駆除して銃所持許可を取り消され、その処分の撤回を求めて起こした裁判で全面勝訴した北海道のハンターが8月中旬、国と北海道を訴える新たな国家賠償請求裁判を札幌地方裁判所に提起した。訴えは、駆除に使われたライフル銃を地元検察が「廃棄」していたことを受け( 既報 )、同対応の違法性を指摘するもの。原告のハンターは「考えられないことが起きていた」と、改めて捜査機関の対応を批判している。

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訴えを起こしたのは、北海道猟友会砂川支部長の池上治男さん(77)。本サイトなど既報の通り池上さんは2018年8月、地元自治体の要請を受けてヒグマ1頭をライフル銃で駆除した。何の問題もなかった筈の駆除行為は2か月後に突如「建物のほうへ撃った」なる疑いで鳥獣保護法違反などに問われることになり、警察が先のライフルなど4挺を押収、翌19年4月には公安委員会が銃所持許可を取り消してしまう。前後して鳥獣法違反などが不起訴処分に終わり(検察)、狩猟免許も維持されることになったが(北海道)、押収された銃は戻らないまま(公安委)。当事者の池上さんは銃の返還を求めて19年6月に行政不服審査を申し立てたが、これが20年4月に棄却されたため、同5月に処分の撤回を求める裁判を札幌で提起することとなった。

これも既報の通り、一審・札幌地裁(廣瀬孝裁判長=当時、以下同)は池上さんの主張をほぼ全面的に認め、21年12月の判決で被告の北海道公安委に銃所持許可取り消しの撤回を命じた。だが被告側の控訴により争いは札幌高裁へ移り、同高裁(小河原寧裁判長、実質的な審理は佐久間健吉裁判長)が24年12月に池上さんの主張を退ける逆転判決を言い渡す。これを不服とした池上さんが上告したことで、争いの舞台は最高裁へ。異例の弁論を設けた最高裁第三小法廷(林道晴裁判長)が判決言い渡しに到ったのは、もとの裁判提起から6年半余りを経た本年3月27日のこと。確定判決は、高裁決定を破棄して池上さんの訴えを改めて認める再逆転判決となった。これを受けて道公安委が池上さんに謝罪し、一部の銃を返還することになった経緯も、すでに本サイトで報じたところ。そして返還された銃の中に最も肝心の銃、即ち問題となったヒグマ駆除に使われた銃が含まれておらず、その1挺が検察によって「廃棄」されていたという事実もまた、本年4月以降の配信記事で既報の通りだ。

8月の新たな国賠訴訟提起は、この検察の対応の違法性を問うもの。提訴後の同17日午後に記者会見した池上さんは、問題の「廃棄」行為に改めて苦言を呈した。

「検察は、私が『所有権放棄書』にサインしたと言うけど、それがどんなものなのか充分に説明がないまま書かされた可能性があります。これは一審の裁判官も知らなかったんじゃないか。考えられないことで、怒りに燃えている」

原告代理人らによると、検察が廃棄の根拠としている『放棄書』は、別の猟銃の『仮領置書』などほかの複数の書類と同日に作成されていたという。多くの書類に紛れ込ませて池上さんに無理やり署名させた可能性が高く、代理人の中村憲昭弁護士(札幌)は「真意に基づかないで署名させたのは違法」と指摘。同じく平裕介弁護士(東京)は、廃棄の時期が不自然だったことを問題視する。

「検察が銃を廃棄したのは、池上さんが裁判を起こす前の2019年7月。行政不服審査を申し立ててからわずか1カ月後という“スピード廃棄”です。たとえ『放棄書』に署名があったとしても、不服審査を求めている以上は廃棄すべきではないのに」

この件で地元の札幌地方検察庁は本年5月、会見を開いて一連の経緯を説明している。当時の質疑応答で筆者が「行政不服審査請求があったはず」と指摘したところ、同地検からは「検察ではその事実を把握していなかった」との弁明が返された。今回の池上さんの提訴会見ではこれについて、平弁護士が「いずれにしても問題」との考えを示すことになった。

「検察が不服審査請求を把握した上で、公安委と連携プレーのように素速く棄ててしまった、そう疑われても仕方がない。仮に本当に把握していなかったのだとしても、その場合は審査請求の事実を検察に伝えなかった公安委の対応が問題ということになります」

廃棄された銃は、病気で亡くなったハンター仲間から池上さんが譲り受けたという思い入れの深い1挺。池上さんは会見で、改めてやりきれない思いを吐露した。

「私は法的なことはわからないけど、一般常識はわかる。国はこんなことして恥ずかしくないんだろうか。人を騙してはいけないというのは、小学生の子供でもわかることです」

7年越しの裁判でようやく銃所持許可を取り戻した熟練ハンターの闘い、第2幕がまもなく開けることになる。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

 

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