太平洋戦争中、軍部や戦争を批判した人は「非国民」と罵倒され、時には特高警察に拘束されて拷問まで受けた。新聞は戦意高揚に熱を上げ、デタラメな大本営発表をたれ流して国民を欺き続けた。その結果が荒廃した国土と敗戦だった。
他国の例は寡聞にして知らないが、この国では、事件や事故に関するもっともらしい言説が広まると、「右向け右」とばかりに異論を許さぬ風潮が醸成される。大戦中もそうだったが戦後も同じ。冤罪事件の背景に、暴走するメディアとそれを信じ込んで一方的に他者を攻撃する世論があることを忘れてはなるまい。
いま展開されている福岡県議会を巡る報道や一部のネット民による過激な主張は、まさに右向け右。戦前・戦中と変わらぬ風が吹き荒れている。渦中の蔵内勇夫県議会議長は議員辞職を表明したが、筆者はあえて風に抗う。
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尊敬するジャーナリストが聞かせてくれた話がある。その人の先輩は、「ジャーナリストの唯一の使命は、世の中が同じ方向に向かって走り始めた時に警鐘を乱打することだ。それができなかったから(戦争で)310万人が死んだ」と言って、報じる者の心構えを説いてくれたという。筆者はこの教えに同意する者だ。
最近、読者から「ハンターはなぜ県議会や県の現状を批判しないのか!」「告発者のマイナスばかり報じるのはおかしい」「告発者に不適切な行為があったからといって、カツアゲがなかったということにはならないのでは」「県会議長からカネでももらったのか」などといった意見をいただくようになった。中には「もうハンターは見ない」という残念な一言もある。言い訳するつもりはない。蔵内氏が辞職を表明したこともあり、これまでの取材経過を記しておきたい。
最初に県議会や県の高額な出張経費について報じたのは西日本新聞だったと記憶している。県議会議長や副議長の政治資金パーティーが開かれるたび、役所の部課長会がパー券を購入してきたことも同紙が暴いた。そこまでは評価に値しよう。しかしその後、西日本新聞とグループメディアのTNCテレビ西日本は、蔵内氏に対する過剰なまでの攻撃を続けてきた。きっかけとなったのが吉松源昭元議長による「カツアゲ発言」だったことは周知の通り。以来、蔵内氏は悪役として徹底的に叩かれ、吉松氏はまるで正義のヒーローでもあるかのように持ち上げられている。
最初に断っておくが、弊社の契約ライターは別にして、筆者は他のメディアの後追いは絶対にやらない主義。蔵内氏や自民党県議団のことは、公平公正をかなぐり捨てたオールドメディアと裏取りもせず人を非難するようなネット民にお任せする。ハンターが県議会を巡る金銭疑惑や旅費にまつわる話をやるとすれば、別の角度から見た記事しか配信しない。筆者がへそ曲がりであることもその理由の一つだ。
政治家絡みの事案を追う場合のハンターの取材手法は、まず対象となる政治家の「政治とカネ」を調べるところから始まる。政治家本人が出馬した直近の選挙の選挙運動収支報告書や関連政治団体の政治資金収支報告書を確認し、政務活動費や出張命令書などを開示請求で入手、すべてを精査して問題点を抽出する。カツアゲ発言直後は吉松氏に注目、いつも通りの手順を踏んだ。
同氏の公費出張に関する公文書は、県議会に対する情報公開請求の件数が多すぎて処理できないらしく、開示決定期限が延長された。部分的に順次開示され、最後は11月になる可能性もあるという。
一方、選挙運動費用収支報告書は期限内開示で入手済み。関連政治団体すべての政治資金収支報告書は、県のホームページからいつでも閲覧可能だ。そのため、まず吉松氏の政治団体に関する疑惑から配信することになった。以下に列挙する記事である。
・【速報】カツアゲ発言の吉松源昭元議長側に同僚県議から上納金2300万円|正義のヒーローに重大疑義
・「カツアゲ発言」元議長の矛盾|上納県議は吉松氏の会社の役員
不十分ながら開示された吉松氏の公費出張関連文書は5件分。その中にあったのが「ラブホテル」の領収書だった。災害復旧時などに宿泊施設が不足する事態ならいざ知らず、ゴールデンウイーク明けの平日に、ラブホを利用しなければならない理由などあるはずがない。
ハンターの取材要請を無視した吉松氏は、大手メディア「現代ビジネス」に対しては答えており、「露天風呂付の部屋があるホテルを検索した」と述べたという。わざわざ露天風呂付のホテルを探して泊まるというのは観光旅行。倫理観や規範意識が欠如していると言われてもおかしくあるまい。公費出張の際の宿泊費の原資は税金。県議団の旅費の方が問題だという声が聞こえてきそうだが、同じ構図であることに変わりはない。ある現役の県職員は、次のように話す。
「私たち職員なら、ラブホテルの領収書なんか清算してもらえませんよ。災害が起きた時などに支援に出向き、宿泊施設がないという場合なら認められるでしょうが、それはそれで理由を示して決裁を仰がなければなりません。県会議員だから許されるというのなら、褒められない立場利用。吉松さんなら許されるというのはおかしな話ですね。吉松さん自身が、特権意識を持っていらっしゃる証拠でしょう。少なくとも、私らの感覚からはズレている。おそらくですが、議会事務局もホテル名からはラブホテルだと分らなかったんじゃないですか」
実は、吉松氏の現代ビジネスへの説明には矛盾する点がある。同氏はこう語っている。
「いつも東京で泊まってるところがすごく高くて、2万円以上していた。狭い部屋に2万円も払うのはあれだなと、露天風呂付きの部屋という検索でこのホテルが出た。それで当日、現場に行ったら、ちょっと違ったなと。ファッションホテルだなと思った。けど、もう予約して、キャンセル料を取られるのでしょうから泊まりました」
前述したように、一部だけ開示された吉松氏の公費出張に関する公文書は5件。そのうちの1件にラブホの領収書があったわけだが、吉松氏は昨年5月のラブホ利用以後、計3回、東京の「議員事務所」を訪問している。そのホテルの領収書を下に示す。



昨年8月のホテル代は2万円台だが、11月は35,374円、今年1月には32,500円をいずれも港区新橋のホテルに支払っている。同ホテルを利用した経験のある人たちに聞いてみたところ、吉松氏が11月と今年1月に利用したのは、かなりグレードが高い部屋ではないかという。現代ビジネスへの「いつも東京で泊まってるところがすごく高くて、2万円以上していた。狭い部屋に2万円も払うのはあれだな」という話とは辻褄が合わない。広い部屋で露天風呂付なら高いカネを払ってもいいと言うのだろうか?吉松氏は“高額な海外旅行代金”を批判してきたはずだが……。
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蔵内氏や自民党県議団の幹部らは、現金授受を否定してきた。裁判で言うなら無罪主張だ。一方、吉松氏や副議長経験者である江藤秀之県議は「現金を渡した」ことを認めている。贈収賄事件に例えるなら、贈賄側が罪を認め、収賄側がこれを否定するという構図。罪を認めている吉松氏は辞職せずに、罪を認めていない蔵内氏に「辞めろ」と迫ってきたわけだ。自分は辞めないが人には辞めろでは虫が良すぎる。
何らかの事案で否認している人がいる場合、裁かれて白黒がつくまでは推定無罪。それが日本の法制度だ。重ねて述べるが、罪を認めた者がその職に居座ったまま、罪は認めないと言っている人に「辞めろ」というのは筋が通らない。吉松氏も江藤氏も、しょせんはカネでポストを買った人物。決して正義の味方ではあるまい。まず自ら県議のバッジを外し、蔵内氏に辞職を迫ってきたというのなら納得だ。しかし、西日本新聞を中心とする大手メディアの偏向報道と一部ネット民の扇動によって、無罪主張の蔵内氏が議員辞職に追い込まれた。一方で、賄賂とみられるカネを渡したと自認する吉松氏はヒーロー扱い。違法性が問われかねない政治資金処理を行ったり、公金でラブホテルに泊まったりして規範意識の欠如が疑われる人物が、県や県議会の税金の使い道を批判する資格があるとは思えない。本来なら吉松氏にも「辞めろ」というべきではないのか。
それにしても、新聞・テレビがスクラムを組み、無罪主張の人物を叩いて追い詰める様はこの国の暗部そのまま。オールドメディアは、いつから特高警察になったのだろうか。
(中願寺純則)















