北海道・羊蹄山の湧き水で知られる後志管内京極町で、現職町議らがミャンマー人の農場労働者たちを日常的に虐待していた疑いが持ち上がった。地元労働組合に保護された被害者らは8月下旬に会見を開き、農場で常態化していたという暴行や暴言、セクシュアルハラスメントなどの実態を訴えた。
■劣悪環境の「寮」はネズミの巣
8月21日午前に札幌市内で告発会見を開いたのは、京極町内の農場に「特定技能労働者」として雇用されているミャンマー国籍の男女6人(10歳代~30歳代)。本年5月から7月にかけて順次来日し、農場の寮に住み込みで働き始めたという彼らの証言によると、現場では雇用初日から事実上の経営者らによる虐待が始まり、毎日のように暴力などのハラスメント行為が重ねられたという。
「来る日も来る日も叩かれ、やってもいないことで叱責されたりした。胸の上のほうを小突かれたり、お尻を叩かれたりもした」(女性従業員)
「毎朝起きると『今日は何でどう叩かれるのか』と、恐怖の中で生きてきた。これから次の仕事を得られてもまた同じいじめに遭うのでは、と恐れている」(男性従業員)
「契約書には休みがあると書いてあったのに、働き始めたら会社の都合で休みがなくなったりした。仕事が少ない日は『怠けている』と言われた」(同)
「寮は『きれいな所』と言われていたが、2つあるトイレのうち1つは詰まっていて使えず、もう1つもひどい汚れで掃除しないと使えなかった。冷蔵庫や炊飯器もカビだらけで、すべて自分たちで掃除した。最初の1週間はガスも通っていなかった。2人一室の相部屋で、月に一人2万円の家賃を取られた」(女性従業員)
支援にあたった弁護士らによれば、ミャンマー人従業員たちが就職した5月から8月中旬までの間、休日は6日しか与えられなかったという。寮の環境も劣悪で、男性部屋の炊事場にはネズミが居ついていた。

虐待の実態はミャンマーの人たちのコミュニティを通じて北海道外の支援者に伝わり、そこを経由して札幌地域労働組合に情報がもたらされた。地域労組はまず、32人いたというミャンマー人労働者のうち女性4人を救出して保護、会見の前日にはさらに男性2人を保護し、計6人が札幌市内にある教会へ身を寄せることとなった。先の女性4人は8月までに労組に加盟し、20日付で農場の運営法人に要請書を提出、暴力行為の即時停止や謝罪、団体交渉の実施などを求めた。同労組の鈴木一顧問は「労組として雇用主に『暴力をやめろ』と求めることになるとは……」と呆れる。
「賃金未払いとか不当労働行為とかで団体交渉を申し入れることはあるが、暴力をやめるよう求めるのは初めてのこと。ミャンマーの人たちが日本人を嫌いになったとしても、もっともなことだと思う。私たちの暮らしというのは、外国人労働者がいないと成り立たない。彼らの人権を守ることは、つまり私たちの社会を守ることだ」
地域労組は法人への要求と前後し、深刻な暴力を受けた男性の被害を地元警察に刑事告訴したほか、現場の実態を調査して必要な措置を講じるよう出入国在留管理庁に要望を寄せた。
■農場運営の町議は取材拒否
関係者によると、農場を切り盛りしているのは地元・京極町の町議会議員を務める60歳代男性とその息子2人の計3人。同親子は今から4年あまり溯る2022年3月、「技能実習生の人権を著しく侵害した」として入管庁と厚生労働省に技能実習計画の認定を取り消されていた。この処分により以後5年間にわたって外国人労働者の受け入れを認められなくなったはずだが、町議親子は同処分のわずか47日後、知人を名ばかりの代表に据えて別の農業法人を設立し、新たにミャンマー人労働者を受け入れることになった。現在の法人は外国人を支援する「登録支援機関」も兼ねており、いわば虐待が疑われる当事者自らが被害者支援を標榜している状況。これに支援者らは「適正なセーフティネットが機能していない」と指摘、制度の抜け穴を問題視している。

農場の実質的経営者である現職町議は、筆者の問いかけに「取材はお断りしている」。また同町議の長男とみられる男性は「収穫が忙しくてコメントどころではない」と話し、虐待疑いを否定も肯定もしていない。札幌地域労組は先の申し入れへの回答期限を8月28日とし、問題の農業法人に誠実な対応を求めているところだ。
(小笠原淳)
| 【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |















