
2021年秋、鹿児島県医師会の男性職員(当時。2022年10月に退職)に性行為を強制されたとして、弁護士に付き添われて鹿児島中央署に告訴状を提出しようとした女性が門前払いにされた。応対した同署の警官は、「大丈夫ですから」などと、まず弁護士を騙して帰らせた上で、女性には再三「事件にならない」と申し向けて告訴断念を強要。いったんコピーした告訴状を署の駐車場まで追いかけて返すという異常な対応をとっていた。
後に県警は「受け渋り」などという都合のいい言葉を使って弁明したが、加害が疑われていた医師会の職員の父親が、数か月前まで同署に勤務していた警部補だったことが分かり、警察一家による「もみ消し疑惑」へと発展する。その後の経緯からすると「無罪」に向けた捜査が行われた可能性が否定できない。検察の判断は、予想された通り「不起訴」。この結果に引っ張られる形で、女性側が損害賠償を求めた民事訴訟でも敗訴となり(最高裁に上告中)、司法による救済は行われていない。
住民の安心・安全を守るための警察が犯罪行為の被害や相談を受けた場合、「速やかに捜査を遂げ、検察に送致する」(警察庁見解)というのが決められたルール。しかし、鹿児島県警は別の事件でも「門前払い」を繰り返し、被害を大幅に拡大させていた。
本シリーズで問題となる事件の罪名は「詐欺」。ハンターの調べで、鹿児島中央署が結婚詐欺の被害相談を受けながら4年間放置していたことや、被害者が少なくとも9人いて、そのうちの何人かは県警の不作為のせいで被害に遭っていたことも明らかになっている(既報)。繰り返すが、県警が詐欺被害を拡大させたということだ。以下、その詐欺事件を巡る取材結果を報じていく。
■騙しの手口
2016年、鹿児島県内に住むAさんは、マッチングアプリを通じて知り合った日高洋(*詐欺で逮捕起訴され公判中)という男性と、「結婚」を前提に交際するようになる。
日高は地場銀行本店の法人営業部に勤務していると話した上で、「元妻の父親が銀行の役員だったおかげで自分は出世が早かった」「部下の仕事までこなしているので周りから信頼されている」「銀行内に派閥争いがあり、頭取派ではない自分は力を持たねばならず、そのためには、毎月ノルマを上回る成績(預金獲得)を残す必要がある」などと語り、Aさんが協力するよう誘導。銀行の裏手を待ち合わせ場所に指定し、実際に行員然とした振る舞いで通用口から出てきたこともあったという。Aさんが日高を信じたのは無理もない。

ただ、「あれっ?」と感じる場面もあったという。Aさんは銀行の名刺をくれるよう何度も頼んだが、日高はその都度、「銀行員の名刺は天文館などで悪用されやすいので会社が管理している。簡単には渡せない」「近いうちに昇進するから、その時に渡す」「親御さんと会う時に渡す」などと誤魔化し続け、代わりに免許証を見せて信用させていた。
日高によると、2016年の法人営業部所属から17年には参事補、18年には参事に昇進。19年にはさらに一つ役職が上がり、役員就任の準備に入ったと聞かされていた。実は役員就任という話が、その後の犯行――役員になるために株を取得しなければならないとして600万円を詐取――につなげる伏線になっていたことがわかるのは後日だ。
残された記録や録音データから浮かび上がる日高の姿は希代の詐欺師。「自分は離婚したが、銀行はそのことを知らない。家庭がないと信頼されない」「(Aさんと)早く結婚して料理を作って欲しい」「近い将来、知事選に出馬したいが、そのためにも妻が必要」などと思いつくままに嘘を並べていた。
交際を始めてまもなく、日高は「毎月銀行員としてのノルマを達成しなければならない。銀行には『親族枠』というものがあり、利息が高いのでその枠を使ってノルマ達成に協力してほしい」などと言葉巧みに申し向け、Aさんから100万円単位の現金を騙し取るようになる。そこから先はまさに泥沼。Aさんは、あれやこれやと理由を付けられ、2016年から2019年までの約3年間に28回、1億円近い現金を日高に渡していた。騙しの言い分と回数、金額の主なものを示す。
・親族枠預金 ⇒ 16回で4,500万円
・毎月のノルマ達成 ⇒ 2回で650万円
・前妻との息子がレースで事故を起こし、一時的に銀行のカネを流用したため穴埋めが必要になった ⇒ 500万円
・Aさんと住む家を建てるため妹の土地を購入したいが、早く買わなければ妹が不動産屋に土地を売ってしまう ⇒ 3回で2,300万円
・新築する家に設置する太陽光パネルを半額で購入した。住宅ローンで返すから一時立て替えてほしい ⇒ 200万円
・ノルマに追われて銀行のカネを流用した。懲戒免職を避けたい ⇒ 500万円
・役職に就くためには引退する役員が持つ株を購入して引き継がなければならない。知事選に出るためにも役職が必要 ⇒ 600万円
よくもまあ、次から次へとカネを引き出すための嘘が出てくるものだ。普通なら「おかしい」と気付くはずだが、日高による騙しのテクニックは小説で出てくる悪役以上に手が込んでいた。
ある時は、自動車ディーラーの店頭で、堂々と銀行名、勤務部署を誇示。落ち着いた態度から、到底嘘をついている人間には見えなかったという。日高は「銀行の法人部を通じて(車を)購入すると、新車を新古車価格で手に入れることができる」などと説明。購入が決まると自分に現金を預けさせていた。その後の確認で、実際には日高が被害者から預かった現金をディーラーに持参しただけで、「銀行員」であることを信じさせるための手口に過ぎなかったことがわかる。
ここでもう少し詳しく、「銀行マン」であることをAさんに信じ込ませるため、日高が話していた内容を示しておきたい。虚実ないまぜの詐欺師の手口だ。
・銀行本店(建て替え前の本店)裏の階段を、スーツ姿で颯爽と降りてきた日高。その後、一般人が知らないような本店にある金庫について詳しく話す。
・Aさんに書いた「借用書」の用紙は、銀行で使用しているものと説明。
・銀行のATMについて何度も話す。仕組みについて詳しく、ゴールデンウイークや正月等にATMに不具合があったときに備え管理職が1人出勤しなければならないので旅行に行けないとぼやく。
・銀行のCMが15秒で200万円かかることや、起用したタレント等について裏話をもっともらしく話す。
・県立体育館の立地に関する裏話や東開町のガソリンスタンドの倒産や地場有名企業のビル建設などについて、一般人が知らないような事を話す。
・元妻の父が銀行の役員だったため、自分は昇進が早く、離島勤務も半年だけだった。『日高』に姓を変えたのは、全て昇進のためだったと説明。(*離島勤務の話は、自分の父親が島の小学校に勤務していた時のことだった)
・不正防止のため銀行の監査部や金融庁が、自分たちのロッカーや携帯を見ることがあるので携帯にロックはかけられない。そのためメールにお金に関することは書かないようにと繰り返し話していた。
・部下の結婚記念日や誕生日等は全て手帳に記録し、その日は部下を早く帰すと話す。そのため部下や部下の妻達から信頼を得ており、それが仕事にもつながるが、部下の仕事を処理するため仕事が終わらずにまだ帰れないとよく言っていた。
・平日の夜や休日も部下や同僚と勉強会をしているので、休日も忙しい。部下の家でやることが多いので、結婚して自分たちの家を建てたら、玄関からすぐ入れる部屋で勉強会をやりたいと夢を語る。
・テラー(女性行員)が話題にしているリップクリームが良いからと1本をAさんに渡す。「同僚の行員が……」という話はよくしていた。
・銀行の本店建て替えで移転する際、それぞれの部署の異動先について話す。自分は“●●●会館”に移ったと言っていた。(*これはまったくの嘘)
・大手酒造会社の工場が完成したとき、役員と一緒にセレモニーに参列したと話す。
・銀行の福利厚生事業だとして、ソフトバンクホークスの試合チケット2枚をAさんに渡す。
・銀行の本店が出来る前に、そこに入る予定の飲食店について話す。
・ノルマを大きく達成したことから、法人部の参事補佐に昇進したと話す。新聞の人事異動欄を確認したが載っていなかったので本人に尋ねると、同じ部署内でのスライドだからと説明。
・法人部の参事に昇進し、兼務ではあるが秘書が1人つき、職場が個室になったと話す。
・銀行のカレンダーを持ってくる。自分が写真の構図をアドバイスしたと自慢。
・銀行が預金のお礼として渡している食器用洗剤やラップを何度もAさんに渡す。
・ノルマが達成出来ないと沖縄支店の支店長として転勤させられ、3年帰って来られなくなると説明。その後、ノルマ達成をしたので行かなくて良くなったが、自分の代わりに行った同僚が買ってきた沖縄土産(海ぶどう)と称してAさんに渡す。(*直後、同時期にドン・キホーテで同じ商品があったことを確認)
日高のこうした嘘八百に基づく言動によって「日高は銀行幹部」であると信じ込まされ、多額の現金を騙し取られていたAさんだったが、交際が3年を過ぎる頃から疑念を抱くようになる。
きっかけとなったのは、2018年頃に日高がマッチングアプリに登録していることがわかったこと。Aさんに問い詰められた日高は、「こういうことにうとい後輩のために自分が登録しているだけ。相手が見つかったら後輩につないでやる」などと後輩思いの上司を演じてごまかしていた。Aさんは、この時点から日高とのやり取りの詳細を残すようになる。
19年9月には別の女性の存在が発覚した。そこから日高に被害を受けた女性たちとつながるようになり、日高が離婚しておらず、Aさんから騙し取ったカネで娘と高級車「レクサス」を購入していたことなどが明らかとなる。「返す」と約束して借りた現金を、日高が一向に返そうとしなかったことも「詐欺」を疑う大きな要因となった。この間、Aさんは地場銀行に連絡し、日高が行員でないことを確認するに至る。

以上は事件の大まかな動きだが、ここに来て、実は日高が自分の家族まで巻き込んで犯行を重ねていたことも分かってきた。もう少し、日高による大胆かつ卑劣な詐欺の手口を見ておきたい。
(中願寺純則)

22-150x112.jpg)





-150x112.jpg)







