数あるポータルサイトの中でもダントツに影響力があるのが、検索サイトYahooのトップページにある「Yahoo!ニュース」の見出しにあたるトピックス、通称『ヤフトピ』。国内では「ニュースのチェックはヤフトピ」が定着してしまった感じだが、アクセス数も桁違いで、月間で150億ページビューに上るという。その日本最大級のYahoo!ニュースのトピックスに、「異変が起きている」とある大手出版社の編集長が話す。
■「ヤフトピ」掲載に血道をあげる大手メディア
2020年「ニールセンデジタルコンテンツ視聴率」の「月間アクティブユーザー数・総合ニュースカテゴリー」でYahoo!ニュースは6,667万人というすさまじい数をたたき出している。2位のスマートニュースが2,129万人、3位の朝日新聞は2,000万人。両方合わせてもYahoo!ニュースに遠く及ばない。日本の人口からみれば2人に1人が見ている計算となり、まさにガリバーだ。
当然ながら、1本あたり15文字、8本が並ぶヤフトピを巡って、メディアは激しいバトルを展開している。ある大手新聞社のデジタルコンテンツ担当者は、こう打ち明ける。
「新聞、雑誌、テレビ、ネット専業のニュース媒体など、どこも目指すはヤフトピ。ここに掲載されるかどうかで、ページビューが一気に変わる。例えば、東京都内で殺人事件があったとの第1報は各社、速報します。ヤフトピにあがればページビューが50万とか70万に急上昇。上がらないと各社、内容はそう代わり映えしませんから10万にもいかない。ヤフトピ掲載は、メディアの死活問題と言ってもいい」
前出の出版社編集長も、ヤフトピの威力を認める。
「ヤフトピにあがれば、Yahooからメールが自動的に届きます。ページビューが一気に増えるので、システムなどの対応に気を付けてという意味です。メールが来ると編集部では拍手があがるほどです」
新聞や雑誌といった紙媒体やテレビといった既存メディアからの客離れが進む中で、どのメディアもネット上での「稼ぎ」に力を入れ出した。例えば「視聴率」3位の朝日新聞なら、ニュースを自社の「朝日新聞デジタル」で配信。「朝日新聞デジタル」のページビューが増えれば収入につながる。自社のページに呼び込むには、ガリバーのヤフトピに掲載されるか、されないかが生命線だ。
これは、Yahoo!ニュースへのニュース提供社、ほぼすべてに共通するビジネスモデルといえるだろう。その影響力のすさまじさは、今年1月27日に共同通信社が配信した『ヤフトピの見出し1文字増に』という記事を見れば、一目瞭然だ。
内容は、ヤフトピの1行の文字数が、「最大で14.5文字から1文字増やして15.5文字に変更される」というもの。ネットに関心がない層がみれば、これのどこにニュースとしての価値があるのかわからないだろうが、業界関係者からみれば、とてつもない大きな話題となる。
ヤフトピは、15分から20分ほどでニュースが入れ替わる。Yahoo!ニュースで仕事をしていたことがある編集者は、「緊急性、速報性がトピックスには優先される。あとそうでないニュースは社会的な関心、公共性を軸にして、斬新さ、信頼性、驚きなどを加味してトピックスにあげるニュースを決めます。私が働いていた時は5人でどのニュースにするるのか選んで決めていた」と自身の経験を語る。わずかな人間が選ぶヤフトピに掲載されるため、大手メディアは血道をあげているということだ。
■岸田政権が圧力?
では、本稿の冒頭で大手出版社の編集長が述べた「異変」とは何か――?
「提供社の多くが感じているのが、政治的、社会的なスキャンダルを取り上げない傾向が昨年末から顕著ですね。とりわけ、文春砲と呼ばれる、週刊文春のようなスキャンダルはトピックスに掲載される回数がめっぽう減った。それとは反対に、いわゆる、コタツ記事(十分な取材をせず、テレビやインターネット情報をコピペ、寄せ集め、見出しだけは立つが中身が伴わない記事を意味する)が次々とアップされるようになった。最初は、Yahoo!ニュースも影響力が大きくなりすぎて自制しているのか、訴訟でも抱えているのかと推測していた。こちらもヤフトピにどれくらいあがるかが社内での評価につながるのでそのあたりを取材してみたら、どうも政治的背景があるとの情報が伝わってきた」(大手出版社の編集長)
孫正義氏が創業したソフトバンクグループの代表的ブランドの一つであるYahoo!。今や日本だけではなく、世界的にも知られる孫氏が何か政治的なことに配慮しなければならないのか?
旧民主党の衆議院議員だった嶋聡氏は、落選後、ソフトバンクの社長室長に就任したことで知られる。同じく衆議院議員だった村井宗明氏は、Yahoo!の顧問になっていた時期がある。ソフトバンクに拾われた落選議員が、実は少なからずいる。デジタル業界に詳しい自民党議員が、こう解説する。
「ソフトバンクのようなネットビジネスから起業して大きく展開するようになった会社は、政治を横目で見ながらやっていかないと大変です。ソフトバンクなら携帯電話が主力事業の一つ。そうなればまず総務省ですよね。そして文部科学省や国土交通省、デジタル庁などさまざまな省庁や地方自治体との関係が不可欠。だから、ソフトバンクは落選した国会議員の面倒までみているのでしょう。政治とのつながりを重視せざるを得ないんです。そこに岸田政権が目をつけたということではないでしょうか。世界的にみても、ニュースポータルサイトがここまで影響力を有しているのは日本のYahoo!ニュースくらい。簡単に言えばヤフトピにさえスキャンダルがアップされなければ拡散しないし、大きなニュースにもならない。文春砲を放たれても、最小限に抑えることができる。それに岸田政権の背後にいる知恵者が目をつけ、ソフトバンクにプレッシャーをかけたことで、ヤフトピの選び方が変わったという話もあります」
前出の大手新聞社の担当者も「K社がYahooに圧力をかけているという話は聞いたことがあります。スキャンダル、スクープ系の記事がヤフトピに上がりにくくなっている実感があるのも事実。しかし、ヤフトピ頼りはすべてのメディアに共通しているので、とても盾突くことはできません」と実情を明かす。
昨年11月に政権を勝ち取った岸田文雄首相は、一部で「PR総理」と揶揄されている。知名度に欠けていた岸田首相は、自民党総裁選に勝つため大手PR会社のK社にSNS対策や総裁選の戦術、政権公約まで依頼していたことが知られているためだ。岸田首相の政治団体の政治資金収支報告書には、過去にK社への支出が記載されていたことが分かっている。
政権維持のために大手メディアではなく、ポータルサイトの影響力を狙ったという疑惑が浮上した岸田政権。大きな問題ではあるが、ヤフトピ「1強」を余儀なくされている大手メディアの体たらくこそ、より深刻ではないのだろうか。