被害女性と一問一答|鹿児島県警不当捜査・もう一つの「霧島署員ストーカー事件」(4)

 警察組織によるもみ消しや証拠隠滅の疑いが出ている、2023年2月に鹿児島県霧島市で起きたクリーニング店で働く20代の女性に対するストーカー事件。事件捜査の初動を担うはずだった霧島署は、野川明輝本部長指揮下の県警本部と連携し、「苦情・相談等事案処理票」のデータを消去したり、犯人が映っているはずの防犯カメラ映像を隠滅するという手口で、事実上の事件もみ消しを図っていた。

 1年半近く被害を訴えてきた女性(以下、「Aさん」)は21日、県警への不信感と、いまだに続く犯人への恐怖について涙まじりにハンターの取材に応えた。

■県議会前日、県警本部から突然の電話

――19日に県議会の総務警察委員会が開かれ、改めて霧島署員によるストーカー事件のことが取り上げられました。前日に何かあったと聞きましたが?
Aさん:18日に突然、県警人身安全・少年課の捜査員から連絡がありました。「明日、県議会の委員会に野川本部長が出席しますが、あなたの事件について質問が出るかもしれません。事件のことを答弁してもいいですか」というような内容でした。

――これまで、事件のことについて県警からの連絡は何回くらいあったのでしょうか?
Aさん:私は、事件のことについて何の説明も謝罪も受けていません。何度も求めてきましたが、ずっと黙殺されてきました。

――県警には何と答えたのですか?
Aさん:隠すことは何もないですから、話してもらって結構ですよと答えました。ただし、本当のことを話してください、と。実際のところ、「そんなことは止めて下さい」と言わせたかったのではないでしょうか。そんな気がしました。そのあと、総務課からも電話がありましたから。

――県警の総務課からですか?
Aさん:はい、県警の総務課から、同じ内容の電話でした。呆れて話すこともありませんでした。

■事件発生当時の状況

――嫌なことを思い出させて申し訳ありませんが、霧島署への相談初日――つまり昨年の2月19日前後の経過を改めておうかがいします。よろしいですか?
Aさん:二度とこんな事件が起きないよう、できるだけのご協力をしなければいけないと思っています。結構ですよ。

――犯人のことを認識したのはいつでしたか?
Aさん:じつは、職場の先輩から「注意した方がいい人がいる」と教えられていました。で、2月19日の前の段階で、私の車のそばに不自然に駐車している車があって、なにか見られているなと感じていました。あ、この人がそうなんだとわかったのは、19日にその男性が、霧島署の巡査部長の名刺を押し付けてきた時でした。

――どのようなやり取りでしたか?
Aさん:私の勤務シフトや出身地、付き合っている人はいるかなど、個人情報をしつこく聞かれ、携帯の電話番号を手書きした名刺を押し付けられました。もちろん、受け取りませんと断ったのですが、無理やり押し付けられました。受け取りたくなかったのですが、ちょうどお客様方が帰宅される頃で、一番忙しくなる時間帯。男性の後ろには別のお客様が並んでいましたから、名刺を受け取るしかなかったんです。ようやく帰るまでは、ずいぶん長い時間に思えました。私は、これ嘘だったんですけど、彼氏がいて週末はいつも一緒に出掛けてると言ったんです。付きまといをあきらめてくれると思ってそう言ったんですが、まったく効果なく、お構いなしにいろんなことを聞いてきました。

――その日は、県外の実家に帰ったそうですね。
A:とにかく怖かったんです。自分が住んでいるところを知られるのではないかという恐怖。頭の中がおかしくなりそうでした。

■警察に絶望し苦しんできた日々

――翌日には別の署の警察官に相談して、Aさん自身が霧島署に被害相談に行かれてます。その経緯と、霧島署でAさんに応対したのは誰でしたか?
Aさん:はい、よく来店されるお客様がいらして、警察官の制服をクリーニングに出されていたので、思い切って話しました。霧島署の人だと思い込んでいたので、名刺を返してもらおうと考えたのですが、別の署の方だというのは後日知りました。すぐ相談に行くようにという連絡があったので、2月20日に霧島署に出向いたのです。応対したのは警務課長の○○○さんです。

――どのような対応でしたか?
Aさん:一通り話を聞いて、『調べて連絡します』ということでした。霧島署の巡査部長から押し付けられた名刺は、その時に警務課長に返しています。気持ち悪かったのでコピーも取っていません。そのあと、霧島署には、その巡査部長が23日にクリーニング店のある商業施設に来ていたことも伝えています。

――それから、事態はどう動きましたか?
Aさん:何の連絡もないので電話すると、「会議で忙しかった。名刺を渡したことは認めているが、23日は、クリーニング店がある商業施設内のダイソーに行っただけだと話している」という回答でした。えっ、その程度の話?と驚きました。

――そこで本部に苦情を申し立てた?
Aさん:そうです。もう県警本部しか頼れない状況でしたから。最初に相談に乗ってもらった警察官の方からアドバイスをもらって、それ以降、何度も本部に相談しました。

――しかし、事態は動かなかった?
Aさん:あとはハンターで記事にされた通りです。ただ、改めて申し上げておきたいのは、県警本部の総務課とは何十回も話しましたが、その時の記録も一切残っていないということ。そして、霧島署の初期対応が二転三転する際、私が嘘をついていると言わんばかりの、バカにした態度をとられたことは、どうしても話しておきたいと思っていました。絶対に許せません。

――ところで、Aさんは、県警の杜撰な事件対応について県の公安委員会に苦情を申し立てられ、回答をもらっておられます。回答の中に、“防犯カメラなどの関係資料を精査しましたが、2月20日から少なくとも3月3日までの間、当該署員が、勤務先及びその直近の駐車場に接近した客観的な証拠は認められませんでした”という記述がありました。
一方、19日の県議会では、18,19日の防犯カメラ映像には問題の巡査部長の車が映っており、静止画として残したが、あとの画像は消去した旨を答弁しています。ハンターでは証拠画像を隠滅したと報じていたのですが(既報)、Aさんは、どうみますか?
Aさん:私に名刺を渡した日と、その前日の映像は残っているということですよね。そんな説明は、これまで一度だって聞かされていません。私に対しては、県の公安委員会が、正式文書の中で「防犯カメラなどの関係資料を精査しましたが、2月20日から少なくとも3月3日までの間、当該署員が、勤務先及びその直近の駐車場に接近した客観的な証拠は認められませんでした」と通知してきています。18日と19日の静止画のことを私に知られると、具体的な証拠だとして騒がれると思ったんじゃないでしょうか。事実の隠ぺいですよね。そもそも、警察は最初、2月23日に犯人がダイソーに行ったと認めていたのに、あとになって「行っていなかった」と言い出しました。どれもこれも支離滅裂。証拠隠滅は明らかです。ずいぶん、姑息なことをやっていたんだと呆れています。警察署も県警本部も信じられないとなると、どこを頼ればいいのでしょうか?私は、本当のことを知りたいし、犯人を改めて罰してほしいと訴えたいです。

――検察は不起訴にしましたが、検事調べの様子を覚えていますか?
Aさん:女性の検事さんでしたが、事情を聞かれたのはほんの1時間程度。私の話を、「はい、はい」という軽い感じで聞いていました。防犯カメラの映像が消されるなど、具体的な証拠がなくなっていたわけですから、事件ではないと思い込んでいたんではないでしょうか。私の話を真剣に聞いていなかったのは確かでしたから。検察官は、2月18日と19日の防犯カメラ映像に、犯人の車なり人物なりが映っていたことを知っていたのでしょうか?ぜひ、確認してもらいたいと思います。

――鹿児島県警に言いたいことは?
Aさん:事件からずっと、友達と会う、親と会う、買い物に行くといった普通の暮らしができませんでした。気が休まる時間がなかった。何一つ解決せず、毎日恐怖を抱えて生きていくのがつらかった。お風呂に入るにも、鍵をかけたどうか何度も確認するほどだったんです。警察は助けてくれないという絶望感から、死にたいと思ったこともありました。そんなことがずっと続いてきたんです。これを機に、ぜひ真相を明らかにしてほしいと願っていますが、県警はまず、映像が残っていたことを含めて、これまでの事を謝罪すべきではないでしょうか。

■判明した証拠隠滅の手口

 下は、記者とAさんとのやり取りの中に出てくる、苦情申し立てに対する鹿児島県公安委員会の結果通知である。

 2月20日から少なくとも3月3日までの間、当該職員が、勤務先及びその直近の駐車場に接近した客観的証拠は認められませんでした。》とある。防犯カメラ映像の確認開始日を「2月20日」にしたのは、明らかなごまかし。それ以前からの映像――とりわけ巡査部長が被害女性に名刺を押し付けた「2月19日」とその前日の「2月18日」の映像のことに触れていないのは、県警が意図的にストーカーの証拠を隠滅した証左だろう。県警の虚偽を見抜けなかった公安委員会は、無能と言われても文句は言えまい。

 公安委員会は《県警察に対して関係職員に迅速かつ十分な対応を行うよう厳正に指導することを要請》したとあるが、県警が《迅速かつ十分》な対応をとったのは、事件隠ぺいのための措置だった。

 

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