鹿児島県警察が職員の非違事案(懲戒処分などがあった事案)の捜査記録の開示を拒んでいる問題で、開示請求人である筆者の審査請求(不服申し立て)を受けた県の第三者機関はこれまで3回、審議の場を設けたが、本稿配信時点で未だ答申に到っていない。24日午後には4度目の審議が予定されており、そこでも答申が出なかった場合、もとの公文書開示請求から1年4カ月、審査請求からは丸1年が過ぎてなお結論がまとまらないことになる。
◆ ◆ ◆
筆者が鹿児島県警に問題の開示請求をしたのは、昨年3月13日。先にハンター編集部が入手していた同県警職員の不祥事の処分記録(2019年1月から2023年1月までの『懲戒処分台帳』『訓戒処分台帳』及び『注意処分台帳』)をもとに、各台帳に記録された不祥事のうち事件捜査の対象となった事案について各件の捜査記録の開示を求めたものだ。
懲戒などの処分があった不祥事には、法令違反として捜査の対象になっている事案が含まれている可能性が高い。実際、筆者は地元・北海道警察への定期的な開示請求でそれを裏づける記録を入手できており、また鹿児島県警と同じ九州管区警察局に属する福岡県警への請求でも同様の開示決定を得た実績がある。いずれもそれぞれの道県の情報公開条例に基づく対応で、趣旨を同じくする条例をもつ鹿児島県でも同じ対応ができるはずだった。
求める文書がつつがなく開示されれば、鹿児島県警の不祥事対応の適正性を検証することができる。たとえば処分台帳に「盗撮」などと記録されている事案があれば、それは県迷惑行為防止条例違反などの疑いで捜査の対象となっていなくてはならない。処分の記録と捜査の記録とを突き合わせれば、それが適切に捜査されたかどうかを確認できるわけだ。
ところが請求2カ月後の5月8日付で伝わった鹿児島県警の結論は『存否応答拒否』。対象文書が存在するかどうかを答えることはできない、という決定だった。示された理由は、「存否を答えること自体が、個人の権利利益を侵害するおそれ及び、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると認められ」るため。取ってつけたような理屈、と評価せざるを得ない。先述のように北海道警や福岡県警は対象文書を適切に開示できており、その決定によって北海道や福岡県で「個人の権利利益」が侵されたり、「公共の安全と秩序の維持」に支障が生じたりなどはしていないのだ。鹿児島県警は、あからさまに不自然なゼロ回答でいったい何を隠そうとしているのか。
拒否決定2カ月後の昨年7月23日、筆者は同決定を不服として鹿児島県公安委員会(石窪奈穂美委員長)に審査請求を申し立てた。請求は第三者機関の県情報公開・個人情報保護審査会(野田健太郎会長)に諮問(意見伺い)され、同年9月に県警側が「弁明書」を、請求人の筆者が「反論書」を提出、この時の反論書で筆者は「審査委の手を煩わせることなく自ら再考を」と鹿児島県警に呼びかけたが、県警がこれに応じることはなかった。
弁護士や元新聞記者など5人の委員からなる審査委が初めてこの件を審議したのは、年明けまもない本年1月24日。2時間ほどの会議を経て出された結論は「継続審議」。さらに2カ月後の3月27日には2度目の審議が設けられたが、ここでも答申には到らなかった。3回目の審議はさらに2カ月後の5月22日に予定され、県から報道各社への広報資料でも開催が告知されていたが、なぜか当日になって筆者の請求事案のみが議題から外されることとなる。翌6月26日に持ち越された3度目の会議の結果はやはり「継続審議」となり、本稿配信時点で結論はまとまっていない。
繰り返すまでもないが、審査委らに求められているのは県警の「存否応答拒否」決定が適切だったかどうかの判断。筆者は先の反論書に北海道警や福岡県警の対応がわかる資料を添附し、検証の参考に供している。合理的な判断力のある県民であれば3度も会議を重ねるまでもなく容易に適否を判断できるはずだが、毎度の結論はなぜか「継続」。事務を所掌する県学事法制課によれば、とくに審議の回数の上限などは決まっておらず、今回の対応については「長いと言えば長いが、たまたま時間がかかっているだけではないか」との認識。3度目の会議が突然延期された理由は不明で「あまりあることではない」という。
請求対象となる文書の作成期間は、不正の隠蔽を疑われて特別監察の対象となっている野川明輝・現本部長の在任期間と大きく重なる。仮に告発された隠蔽行為が事実だとすれば、県警は今回の「存否応答拒否」でその客観的な検証を困難にせしめ、文字通り隠蔽に隠蔽を重ねたことになるわけだ。
県情報公開・個人情報保護審査会の4回目の審議は24日午後2時から、県行政庁舎9階の会議室で開かれる(⇒ )。会議は非公開で、傍聴不可。筆者の請求事案が答申に到るかどうかは、もとより定かでない。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |