緊急インタビュー|話題の書『女帝 小池百合子』の著者・石井妙子氏に聞く

いま最も注目を集めている作家といえば、話題のベストセラー『女帝 小池百合子』(文藝春秋)の著者である石井妙子氏だろう。同書は、小池東京都知事にまとわりつく“うさん臭さ”の背景を、丁寧な取材と深い洞察力で見事に描き切った力作だ。

その石井氏と長年の友人だというのが、財政難に喘いでいた幕末の薩摩藩を救った調所笑左衛門の7代目にあたる調所一郎氏。ハンターと縁の深い調所氏に、石井氏のインタビューをお願いした。東京都知事選挙の真っ最中、女帝の作者は何を語るのか――。

石井妙子いしい たえこ
1969年神奈川県茅ケ崎市生まれ。白百合女子大学卒、同大学院修士課程修了。
5年にわたる綿密な取材をもとに『おそめ』を発表。伝説的な銀座マダムの生涯を浮き彫りにした同書は高い評価を受け、新潮ドキュメント賞、講談社ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞の最終候補となった。『原節子の真実』(新潮社)で新潮ドキュメント賞を受賞。他の著書に『日本の血脈』(文春文庫)、『満映と私』(岸富美子との共著/文藝春秋)、『日本の天井 時代を変えた「第一号」の女たち』(KADOKAWA)などがある。

■描いたのは小池氏の「実像」

――『女帝 小池百合子」は凄い売れ行きです。石井さんが書き手として小池百合子に向き合うことになったきっかけは月刊誌からの原稿依頼だったそうですが、一冊の本をまとめるまでのめり込んだのは正義感からですか?

石井:いいえ。執筆を開始する時は小池百合子がどういう人物かまったく見えていませんでした。四年前、小池氏が都知事選に出馬してからというもの、大変な「小池百合子フィーバー』が起こって、テレビは朝から晩までワイドショーなんかで彼女を取り上げていました。東京都の悪政を改革してくれる救世主だと信じたからです。特に女性たちが熱狂しました。小池氏が自民党の男性議員をなぎ倒して都知事という地位に就いたことに溜飲を下げ、女性として小池氏の活躍を誇らしく思ったからでしょうね。

――男性である私も「なかなか面白いことにはなりそうだ」と期待したことを覚えてます(笑)。

石井:そんな時に、「小池百合子を書いて欲しい」と月刊誌の編集部から依頼されたわけです。ところが調べ始めてみると、次々と疑問が沸き起こってきた。彼女の言うことを鵜呑みにしていいのか、あまりにも嘘が多いのではないか、そう感じました。

月刊誌の記事を書き上げた後、単行本化の依頼があり、そこでさらに本腰を入れて調べたのですが、違和感はますます増していきました。次々と想像もできない事実が明らかになっていく。ちょっと私も面食らいました。

それでも、「この人を都知事の座から引きずり降ろさなければいけない」という正義感で、この作品を書いたわけではありません。小池百合子とは、どういう人物か、どうしてこういう人物が生まれたのか。あくまでも実像を描くことが作家の使命であり、その人物をどう評価するかは読者に委ねたい。暴露本、批判本と評されることも多いのですが、私の思いとしては、あくまでも実像を描いた、という感覚です。

■メディアは共犯者

――そうでしたか。あとメディアの問題点も書かれてますね。《小池百合子は日本社会の、とりわけ日本のメディアの甘さをはっきり感じ取り、『大抵の嘘は見抜かれない。自分が語ることをそのまま信じて活字にする男の記者たち。彼らが喜ぶ話題を考え投げてやればよいだけだ。新聞で活字になればそれは事実として世間に認定される』》――それは現在のメディアの状況においても変わらないどころか、さらに酷くなっているように思えます。本書はそうした風潮への怒りのメッセージでもあるように感じたのですが……。

石井:為政者の嘘を見破り、指摘するのが本来の役割であるのに、小池氏の場合を見てみても、メディアは完全に共犯者になってしまっています。

嘘をわかっていてかばったのか、気づけなかったのか。私は後者だと思いますが、中には前者だった人もいるでしょう。

男性記者の中には若い女性に対して、メディア界における自分の力を誇示して見せようと振舞うタイプも多い。まあ、記者に限りませんが、社会的地位のある男性には、そうした傾向があるのは確かです。それでメディアの男性たちは小池さんがテレビや新聞に取り上げられるよう、積極的に協力した。結果、小池氏は社会的な信用を得ていったのです。多くの人はテレビや新聞に出ている人を無条件で信用し、崇めてしまいます。

こうした傾向は、平成に入ってから、より強くなっているかもしれません。外見重視になり、テレビで顔を売ることで、いろんな道が開けていく。中身のない空虚な人が増えていると感じます。本当のプロというか、本業のしっかりしている人が少なくなっていて、男女ともに、テレビに出ることで名前と顔を売って世渡りをしていく人が増えているように思えます。

政治家像も平成の30年間で大きく変わりました。『女帝』を書くためには平成の政治史を振り返らなければならなかったのですが、平成の始まりは竹下登さんが首相でした。

やがて、平成時代の特徴として、二世三世が大臣の位に就くようになる。地盤、看板、カバンを彼らは、初めから手にしている。それに対抗できるのは、知名度の高い、人気者だ、ということになって、テレビに出ている有名人が担がれたり、自ら政界入りを望んだりするようになっていく。これも世襲政治が生んだひとつの現象なのでしょう。テレビの著名人がすべて悪いとは思いませんが、テレビ画面の中のイメージと実像の間に、ズレがないか、注意深く見極める眼は持つべきだと思います。

テレビが選挙に与える影響は、やはり大きい。どうテレビが取り上げるかでだいぶ左右される。これも平成時代の特徴のひとつです。テレビは、瞬間的に発言しないと番組が成り立たない。じっくりと考えて、絞り出すようにして話すと、何だか間が合わないんですよね(笑)。だから反射神経が良くて、ペラペラと話せる人が好まれる。でも、問題は発言の中身ですし、また、言ったことをきちんと実行する気持ちがあるか、責任感があるかどうか。そこは有権者がよく見極めなくてはなりませんし、報道機関はもっと検証や調査を尽くすべきだとも思います。為政者や候補者の言うことを、テレビや新聞がただ流すのでは、報道とは言えず、広報と変わらなくなってしまいます。

インタビュアーを務めた調所氏と石井妙子氏は長年の友人

■女性を描く理由

――女性の人生に光をあてることに執筆活動の大半をかけてこられたようですが、その理由について、お聞かせ下さい。

石井:最大の理由は私自身が女性だからだと思います(笑)。当事者として女性の問題を考えたい、女性の歴史を知りたいという思いが強くあり、女性史の勉強をしたいと思いました。それが昂じて、女性の人生を書く作家になったという感じです。

――小池さんを題材にされた『女帝』を書かれた経緯については、石井さんご自身が著作の中で明らかにされています。ただ、これまでの他の作品の主役はご高齢だったり、亡くなったりしている「過去の人」でした。それらの作品と違って、本作で取り上げた小池さんは現役の政治家です。この点について、何か思うところがあったのでしょうか?

石井:これまで私は、自分の祖母にあたる世代の女性たちを書いてきました。私はその世代の女性たちに、戦争の時代を生きた女性たちに、とても惹かれるんですね。しなやかで強く、深い人生観を持っておられる方が多い。私たちの世代とはまったく違います。そうした先輩女性たちの生き方に感銘を受け、もっと深く知りたいと思う。それが執筆の動機になっていました。

ですが、編集者の方からは、「現代の人も書いて欲しい」と前から言われていて、「女性初の都知事となった小池百合子を書いて欲しい」と頼まれました。実は最初は気乗りしなかったんです。小池都知事に惹かれる気持ちはなく、政治という世界にも特別な興味が持てなかった。ですが、せっかく言ってくださったのだからと思い、仕事として引き受けて書きました。それがきっかけです。その後、のめり込んで取材するようになりましたが。

(つづく)

【インタビュアー】調所一郎(ずしょ いちろう)
昭和35(1960)年生まれ。母方は内務官僚一家、父方はマスコミ(電通、読売テレビ)一家という環境で育つ。慶應義塾大学経済学部卒。民間シンクタンク大樹総研(たいじゅそうけん)執行役員等を経て現在はコンサル会社スプラウトグループ取締役。著書に薩摩拵(さつまこしらえ)(里文出版)、永久国債の研究(光文社・財務官僚らと共著)、刀と日本語(里文出版)がある。

 



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