7月19日、兵庫県議会では斎藤元彦知事の内部告発にかかる「文書問題調査特別委員会」(百条委員会)が開催された。この日、勇気ある内部告発に踏み切った元西播磨県民局長のW氏が出席予定だったが、7日に自殺していたことが判明。この日は、生前、元局長が家族に託していた百条委員会あての「陳述書」や録音データを、資料として認めるかどうかの審議がなされた。
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公開されたのは、11枚の「陳述書」と《兵庫県議会文書問題調査特別委員会 委員の皆様Wの妻〇〇でございます》という書き出しではじまる元局長の妻のメッセージ。
《主人がこの間、県職員の皆さんのためを思ってとった行動は、決して無駄にしてはいけないと思っています。主人は最後の言葉を残していました。そこには一死をもって抗議するという旨のメッセージとともに、19日の委員会には出頭できないが自ら作成した「陳述書」および参考の音声データの提出をもって替えさせてほしい》とあり、それらを公表するようにと求めるものだった。
W元局長の陳述書から、すでに既報している本サイト既報の記事を熟読してくれていたことがよくわかった。
内部告発にある《知事選挙に際しての違法行為》には、斎藤知事の側近である4人の県幹部が、知人らに対して投票依頼など事前運動を行っていたと記されていた。それは公職選挙法や地方公務員法に触れる行為だ。
県幹部から投票依頼を持ち掛けられたという兵庫県内のある会社経営者で、地元商工会でも活動する有力者Xさんに取材したところ、次のように証言している。
「ハンターの記事で内部告発文を見た時、『俺のことを言っているやん』と直感しました。内部告発に名前の出ているうちの2人から、私はハッキリと『知事選は斎藤で頼む。商工会でも応援してほしい』という趣旨のお願いをされましたから。保守分裂で話題になり、金沢氏の陣営からも支援を求められていました。うち1人に対して『金沢さんの方からも言われている』と難色を示すと『知事は斎藤に決まりや。こっちを応援しないとえらいことになるぞ』――。県民にそんなこと言ってええのかと思ったので、とてもよく覚えています。内部告発は事実。選挙前に県職員が選挙運動していいのかなと思いました」
Xさんが、その場でスマートフォンを取り出し3年前のカレンダーをタップしたところ《〇〇から知事選で斎藤支援の連絡があり、ごまかそうとするとえらいことにといい、困ったものだ》と入力されていた。
W元局長はハンターの報道について、「陳述書」で《※ニュースサイトHUNTERにおける職員2名による商工関係者X氏に対する投稿依頼についての記事あり》と書き込んでいる。そして、事前運動をしていた県幹部については《斎藤知事就任直後から「自分達は別格、何をしても怒られない」と公言して憚らない。「将来の副知事を既に約束されている」と周囲に漏らしており「以前からの知人」というだけでは通じない》と斎藤知事と県幹部の事前運動を厳しく糾弾していた。
また、本サイトで指摘した阪神タイガースとオリックスバッファローズの優勝パレードに対する寄付集めでは、《兵庫県の割り当て分の収入見込みが厳しい状況にあり、知事、片山副知事が手分けして県内の頼みやすい企業への協賛金を必死で依頼》、《令和5年12月11日のトークイベントの席上で、〇〇が「知事から直接(寄付を)依頼された」と言われていた》などとパワハラまがまがいのカネ集めが行われていたことがよくわかる。
この点についてX氏からは、以下のような具体的な証言を得ている。
「優勝パレードに寄付した信用金庫がうちの会社の取引金融機関です。昨年12月の忘年会で信用金庫の幹部と話した時に、『兵庫県は、小さな信用金庫にまで寄付を求めてくる。すぐ返事しないでいると補助金がついた。そのお礼で寄付した。いい宣伝にはなったが、露骨だ』とぼやいていました。ハンターの内部告発記事などをSNSで送信してやったら、すぐに電話があって『こんなことが表沙汰になったら大変だ』と声は上ずり、すっかり動揺していました」
また、すでに明らかになっている兵庫県内の有名企業から高級トースターを贈答させていた件については、別の部長がすでに兵庫県警の取り調べに応じていることが県議会で明かされている。陳述書では《「後日、ちゃんと相手方に送らせた」》と“おねだり”していたことを明かしている。
斎藤知事のパワハラ事例は山盛りで、ある式典での井戸敏三前県知事への対応では《斎藤知事が「なぜ井戸さんを式典に呼ぶのか」と担当部局に詰問。かなり後ろの端の席を用意させた》いった具合。《職員に対するハラスメントは県政に関する重要事項とか施策遂行上の問題といった次元ではなく「知らなかった」「気に入らない」「配慮が足りない」「生意気だ」「自分より目立った」という知事個人にとっての不都合、不満が原因となった叱責、罵倒である》、《「そうですね」と答えた職員に「そうですよ、じゃないだろ」と机を叩いて罵倒》、《大名行列並みの随行者を従えての出張。その上、現場で気に入らないことがあれば、随行者を罵倒》と次々に明かされている。事実なら辞任が妥当だろう。
陳述書の具体的な内容から、内部告発の信用性が格段に高まる状況。百条委員会で認められるのも当然だ。ところが、日本維新の会所属の岸口実県議は百条委員会にクレームをつけた。「SNSなどで自分が最後にW氏と電話で話をしていたと書かれている。携帯電話の番号も知らず事実誤認。W氏が電話をしていたのか、事実だったのか、その方が問題だ。百条委員会でW氏と接触していた人がいれば申告すべき」と述べたのだ。
だが、ハンターで既報の通り、W元局長を死に追いやったのは、百条委員会で要求したパソコンのデータを全面開示と主張した維新だった可能性がある。元局長は全面開示を拒んでいたからである。また、百条委員会で調査するのは内部告発の文書についてであり、岸口氏がW氏に電話をしたのか、していないのかなど、個人的な問題を調査するのが目的ではない。まったく見当違いの維新・岸口氏の発言に、奥谷謙一委員長も「本件と関係ない」と切り捨てた。
県議会の中からは、「百条委員会で抵抗すればするほど、『維新はおかしい』ととられかねない。やはり何かあるのではないかと勘繰りたくもなる」といった声さえ上がっている。
内部告発しながら無念の死を遂げたW元局長のためにも、百条委員会において斎藤知事に関する問題の究明がなされるべきだ。それを妨害することは許されない。注目すべきは、議論の行方と知事の去就である。