ヤジ排除訴訟、鈴木知事は控訴判断に関与せず|「判決読んだのか」には回答拒否

前回の参議院議員選挙期間中の2019年7月に、札幌で安倍晋三首相(当時)が演説した際に起きたヤジ排除事件をめぐり、排除被害者2人が北海道に損害賠償を求めた裁判で、事実上敗訴した道の鈴木直道知事が一審・札幌地方裁判所の判決文を読んでいない疑いが浮上した。道は判決後の本年4月、札幌高裁に控訴しているが、この控訴を決めたのは事実上北海道警察で、当事者としての知事は決裁に関与せず、副知事に「代決」させていた。6月22日午後に招集された北海道議会本会議の一般質問であきらかになった。

◇   ◇   ◇

ヤジ排除訴訟では本年3月、札幌地裁(廣瀬孝裁判長)が道警による表現の自由侵害を認め、被告の道に賠償を命じる判決を言い渡している。6月の道議会でこの一審判決に関する質問を寄せたのは、菊地葉子議員(共産、小樽市)。同議員はまず、鈴木知事と道公安委員会委員長の小林ヒサヨ氏に対し「判決文を一度でも読んだのか」と尋ねた。

問いを受けた公安委の小林委員長は「判決文そのものを確認したわけではない」と答え、読んでいないことを事実上認めたが、鈴木知事は「概要などについて道警から報告を受けた」と述べるに留め、判決に眼を通したかどうかは明答しなかった。

再質問に立った菊地議員は「重大な答弁漏れ」を指摘し「しかとお答えください」と追及。だが知事はなおも明言を避け続け、さらに次のような事実をあきらかにした。

「道警察から、判決文も含めた概要などについて報告を受けた。その上で、訴訟事務を進めるために必要な決裁は、規定に基づき代決権者である副知事が『代決』した」

つまり裁判の被告である北海道は、知事不在で控訴を決裁していたのだ。答弁によると、控訴の方針は事実上道警が決定、知事部局では総務部がこの方針を追認し、副知事が決裁を「代決」したという。決定書は鈴木知事の預かり知らぬところで作成され、現在は道警に保管されている――。

菊地議員は再々質問に臨み、知事の姿勢を「訴訟の重要さをまったく認識していない」と指摘、「知事が傍観者であることは許されない」と批難した。しかしこれに対する知事の答弁は再質問時とほとんど変わることがなく「規定に則り適切に対応した」との繰り返しに終わった。

一方、判決を読んでいないことを認めた公安委の小林委員長は、道警から裁判の報告を受けた際の対応についても質問を受けている。これに答えていわく「法と証拠に基づいて適切に主張・立証を尽くすよう指導した」と委員長。司法に表現の自由の侵害を指摘されたにもかかわらず、警察を監督する立場の公安委員会ではなんら疑問の声が上がらなかったことがあきらかになった。

傍聴席からやり取りを見守っていたヤジ訴訟の原告・大杉雅栄さん(34)は、控訴の決裁が「代決」だった事実に苦笑し「知事は演説現場でヤジを聴いていた当事者なのに」と、その傍観者ぶりに呆れた様子。議場では菊地議員の質問中、与党議席のほうからたびたび「選挙妨害だ」「表現の暴力だ」などの不規則発言(ヤジ)が飛んでおり、耳にした大杉さんは「自民党はヤジを認めているのかいないのか、よくわからない」と、さらに苦笑を重ねることとなった。

ヤジ訴訟の控訴審、第1回口頭弁論の日時は現時点で未定。一審被告(控訴人)の道警は、新たな証人を立てて演説現場でのトラブル発生の可能性を主張するとみられている。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

 

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