鹿児島県警による事件隠ぺい疑惑を受けて今月19日に開かれた県議会の総務警察委員会で、県警側があたかも「処分」であったかのように答弁した内容が、実は正式な記録として残らない、“形だけ”のものだったことが分かった。実効性のない対応だったことになり、県議会側がけむに巻かれた格好だ。
■処分台帳に記載なし
問題の答弁は、第三の「内部告発」で改めて注目されることになった、霧島署員によるストーカー事件に関する質問に対して発せられた。
2023年2月に起きたこの事件の被害者は、鹿児島県霧島市で起きたクリーニング店で働く20代の女性。霧島署は女性から助けを求められた別の署の警部補から事案の申告を、さらには女性本人からも被害相談を受けながら、「苦情・相談等事案処理票」のデータを消去したり、犯人が映っているはずの防犯カメラ映像を隠滅するという手口で、事実上の事件もみ消しを図っていた。
警官の非違事案であることから、本部長指揮。霧島署が証拠隠滅を実行し、野川明輝本部長指揮の下、県警組織をあげて事件のもみ消し、矮小化を図っていた可能性が高いことが分かっている。
・消された処理票データ|鹿児島県警不当捜査・もう一つの「霧島署員ストーカー事件」(1)
・消えた防犯カメラ映像|鹿児島県警不当捜査・もう一つの「霧島署員ストーカー事件」(2)
・頻発したもみ消し・隠ぺいの背景|鹿児島県警不当捜査・もう一つの“霧島署員ストーカー事件”(3)
・被害女性と一問一答|鹿児島県警不当捜査・もう一つの「霧島署員ストーカー事件」(4)
19日、県議会総務警察委員会でこの事件について聞かれた県警は、本件に関する警察関係者への対応を次のように答弁した。
・2023年6月に霧島署長(現在の県警本部生活安全部長)、副署長、警務課長に対し「業務指導」
・本年3月、ストーカー行為を行っていた霧島署の巡査部長に「口頭厳重注意」
・同月、霧島署警務課長に改めて「口頭厳重注意」
あたかも「処分」を行ったと言わんばかりの答弁だったが、「口頭厳重注意」も「業務指導」も、正式な記録である『処分台帳』には残らない。本当に実行されたかどうかさえ分からない話なのだ。
まず、「懲戒処分」とは、職員の服務上の義務違反に対して、任命権者が、公務員関係の秩序を維持するために、国家公務員法第82条または地方公務員法第29条に基づき行う制裁的処分で「免職」、「停職」、「減給」、「戒告」の4種類がある。
懲戒に及ばない程度のケースに対して行われるのが「監督上の措置」と称されるもので、「訓戒」と「注意」があり、鹿児島県警の場合は「本部長訓戒」と「所属長訓戒」、「本部長注意」と「所属長注意」がある。
ハンターが県警への情報提供で入手していた令和元年から今年6月までの「懲戒処分」「訓戒処分」「注意処分」それぞれの台帳を確認したところ、霧島署関連の「注意処分」は1件もなかった。
県警が県議会で正式答弁した「口頭厳重注意」が台帳に記載されないはずがない。おかしい。警察官の処分を所管する県警警務部監察課に確認したところ、「口頭厳重注意」は監督上の措置に至らないもの――つまり「処分」ではなく、さらに「業務指導」は、その口頭厳重注意にも至らないケースのことだという。
すると、県議会で県警生活安全部人身安全・少年課が県議会議員の質問に答えた際に述べた事件当時の霧島署長、副署長、警務課長に対する「業務指導」、本年6月にストーカー行為をはたらいていた霧島署の巡査部長に行ったという「口頭厳重注意」、同月に行った霧島署警務課長に対する「口頭厳重注意」は、いずれも記録に残らない――つまり昇進などに何の影響も及ぼさない形だけの対応だったことになる。実際に指導や注意が行われたという証拠がない以上、県議会の場における県警側の発言は、虚偽の疑いさえある。「やってます」という印象を与えるための弥縫策だったとしか思えないが、県議会も県民も、ずいぶんなめられたものである。
当該事案は、初動捜査にあたった霧島署が苦情・相談等事案処理票を消去したり、防犯カメラ映像という重要証拠の隠滅までしてもみ消し、隠ぺいを図ったものだ。その結果、犯人は「不起訴」。腐敗組織を挙げて無罪放免にしておきながら、わざわざ実効性ゼロの「口頭厳重注意」などというインチキ処分を報告したのは、後ろめたいところがあったからに違いあるまい。
(中願寺純則)
*初稿で、霧島署長(現在の県警本部生活安全部長)、副署長、警務課長に対し「業務指導」が行われた年を2022年と誤記しておりました。正しくは「2023年」です。訂正しております。(7月26日 08:00)