消えた防犯カメラ映像|鹿児島県警不当捜査・もう一つの「霧島署員ストーカー事件」(2)

2023年2月に鹿児島県霧島市で起きたクリーニング店で働く20代の女性に対するストーカー事件。鹿児島県警霧島警察署は女性から相談を受けた別の署の警部補(現在は退職。本稿では「警部補」)から報告を受け、さらには女性からの被害申告にも応じておきながら、いったん作成した「苦情・相談等事案処理票」のデータを削除していた。署員の犯罪行為に蓋をしようという魂胆だったとみられるが、同署の対応に不信感を抱いた女性が県警本部に苦情を申し立てたことで、次の工作に手を染めざるを得なくなる。重要証拠の隠滅だ。

■あるはずの防犯カメラ映像が・・・

昨年2月20日に女性の被害相談を受け、アドバイスをしていた別の署の警部補は同月23日、女性が勤務するクリーニング店がある商業施設の駐車場に、ストーカー行為を行っていた警官が車で入ってくるのを偶然目撃。クリーニング店の前を通過したあと、そのまま駐車場を出ていくまでを現認していた。警部補は、犯人を目撃したことを女性に伝え、身辺に注意するよう助言していた。

下の写真①が、女性が務めていたクリーニング店(今年になって閉店)。犯人の車はこの店舗の前を通過していた。実は、この店舗が入っていた建物の端には防犯カメラがある(写真②)。クリーニング店の前を通過していれば、犯人の車は確実に防犯カメラに写っていたはずだ。警部補は女性に注意を促し、霧島署による捜査の進展を待った。しかし、同署に動きはなく、被害女性にとっては恐怖の時間が継続する状況となっていた。

捜査に進展がなかったことから、被害女性は3月15日、霧島署に出向き防犯カメラの確認を含め霧島署としての善処を強く求めた。ところが、副所長と警務課長は、それまで「(犯人の)警察官は、(クリーニング店がある商業施設の)敷地内にあるダイソーに買い物に行っていた」としていた説明を一転させる。「2月20日から3月3日までの防犯カメラの記録には映っていなかった」――あり得ない言い訳と曖昧な態度に立腹した女性は、怒りを露わにして席を立ったという。

記者も現場に行き確認したが、犯人の車両が複合商業施設に入ってくるルートに防犯カメラに死角はない。映らないはずがないのだ。

何が起きていたかは瞭然。犯行が行われていたと推定できる時期の防犯カメラのデータだけが削除されたか、“映っていない”ことにされたかのどちらかだ。この段階で、ストーカーとしての犯行を裏付ける具体的な証拠が闇に葬られたとすれば、事件化を阻止するための隠ぺい工作だったと言わざるを得ない。その後の展開からすると、やはり問題の防犯カメラデータは抹消されたと考えるべきだろう。証拠の捏造や隠ぺいは、鹿児島県警の常套手段だ。

■紆余曲折の事件経過

ストーカー事件の存在をないものにするため、「苦情・相談処理票」のデータを消去するという“もみ消し工作”、次いで実行された具体的な証拠となる防犯カメラ映像の“隠ぺい”――。不正に走った霧島署と歩調を合わせるように、県警本部の捜査も停滞し、ようやく実況見分に踏み切ったのは事件発覚から5カ月以上経ってからのことだった。初めから立件する意思のない捜査である以上、送検されても「不起訴」となるのは当然。紆余曲折の事件経過をみれば、二転三転した説明やデタラメな対応から、いかに不当な捜査だったかが分かる。

鹿児島地検が不起訴処分を決めたのは、事件発生から1年も経ってからだった。その間、被害女性は何度も県警に説明を求めたり苦情を申し立てたりしていた。もちろん、犯人が近くにいるという恐怖からだ。霧島署に残されているべき「苦情・相談等事案処理票」がなかったことも、防犯カメラ映像が消え失せていることも指摘されていたはずだが、県警や検察は一顧だにしなかった。

ストーカー被害を示す具体的な証拠が隠ぺい工作によって葬り去られていたにしろ、検察が被害者と参考人の聴取を行ってから不起訴処分を決めるまでの時間はわずか1週間。捜査を尽くしたとは言えまい。警察・検察が一体となって、警察官の犯罪行為を隠ぺいした格好だ。新型コロナウイルスの療養施設において起きた「警察一家」絡みの強制性交事件で、警察の不当捜査が疑われていたにもかかわらず、検察があっさり不起訴にしたケースと構図が重なる。

クリーニング店に勤めていた被害女性は、犯人が不起訴になったことでその後も恐怖の毎日を送ることになった。しかし、今日に至るまで警察からは何の説明も謝罪もないという。“不起訴だから説明の必要はない”とでも判断しているようだが、書類送検の事実を隠していたことは事実。しかも、不起訴にするため、霧島署が証拠の隠滅を図っていたとすれば言語道断の所業である。

ところで、当該事案のもみ消しや隠ぺいに関わったと考えられるのは、当時の霧島署長で現在は県警本部生活安全部長の南茂昭氏、同署の警務課、県警本部の人身・安全少年課、そして野川明輝本部長だ。本田尚志元生活安全部長が北海道のジャーナリスト・小笠原淳氏に送ったとされる内部告発文書に記されていた霧島署員によるストーカー事件とほぼ同じ構図、同じ登場人物である。これが何を意味するか――。(以下、次稿)

(中願寺純則)

*昨年3月15日に霧島署に出向き説明を求めたのは、警部補ではなく被害女性でした。訂正いたします。(2024年7月18日 8時21分)

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