塀の中のコロナ対策 布マスク1枚/給付金に大騒ぎ

「マスクは洗って使っています」、「工場が閉鎖になりました」、「一時給付金でお祭り騒ぎです」――。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、究極の閉鎖空間と言える刑務所から近況報告が届いた。

■独居で「テレワーク」

筆者の呼びかけに応えて詳細なレポートを送ってきたのは、北海道・旭川刑務所に服役する60歳代男性受刑者。同所を含む道内の刑事施設は4月中旬から面会制限が続いているため、報告は書簡の形となった。今回届いたレポートは便箋7枚に及び、刑務作業を含めた日常生活の変化や施設内の感染対策、「特別定額給付金」をめぐる受刑者たちの思いなどが綴られている。

書簡によると、旭川刑務所では2月の時点ですでに感染対策が始まっていた。外部講師を招く行事やクラブ活動などが同月から相次いで中止となり、所内の囲碁将棋大会なども無期延期に。刑務作業の工場では、同時期から「窓を数ヶ所開けての換気」を実施していた。

《この頃はあまり寒くありませんが2月、3月は工場内に雪が舞い込んだり、マイナス10度以下の日もあり、かなり寒い思いをしました》

受刑者間の感染対策としては当初「手洗い」程度しかなく、マスクが支給されたのは4月に入ってからだった。とはいえそれも、一人1枚限り。

《市販の物では無く、どこかの工場で作った布製の物です。各人1枚支給になり、洗って使っています》

1枚きりの布マスクを、「入浴中の15分間以外」は常に着用し続けなくてはならないという。食堂では1卓3人掛けが2人掛けに変わり、講堂の椅子は2m間隔となった。移動時の間隔も空けられ、移動行進中に発声する「イチ、ニイ、サン…」の掛け声も中止。無音の行進は「慣れるまでは変な感じ」だったという。

4月27日からは、食事の調理など一部の作業を除き、刑務作業が行われる工場が全面閉鎖となった。現在は各自、それぞれの居室(独居)で作業教材による学習を続けている。旭川刑務所は全室個室の刑務所として知られており、現状はさながら「テレワーク」実践中のようだ。

■受刑者にも特別定額新型コロナ感染拡大後の“塀の中”を伝える手紙

目下、受刑者の話題の中心は特別定額給付金。当初「減収世帯に30万円」とされていた支給基準が「一人10万円」に変わってからは、所内が「お祭り騒ぎ」になっているという。獄中報告には、この臨時収入への複雑な思いが綴られることになった。

刑務所では衣食住の費用がかからない上、刑務作業により「作業報奨金」が発生する。誕生日やクリスマス、年末年始には普段よりも贅沢な食事を味わえる。犯罪者であるにもかかわらず、こうした待遇に加えて一時給付金まで受け取ってよいのか――。報告の主には、そんな葛藤があるようだ。

《もし、私が刑務所に入っていなくて外に居てこの事を知ったなら? たぶん怒り狂うと思います。「もっともっと大変な人がいるのに、あんなヤツらに何で支払うんだ!」と会う人に話し、SNSでもドンドン書き込みをすると思います。やはり、これはおかしいと思いますが、それを喜んでいる自分が居ることも事実です。かなり後ろめたい気持ちですが、ありがたく戴きます》

書簡にはこのほか、刑務官ら職員のストレスへの気遣いや、おもな日常のスケジュールなどが綴られている。施設では手紙類の「発信制限」があるため、レポート自体は4月29日までにまとめられていたが、刑務所が発送の手続きをしたのは5月14日(消印から)、札幌市に住む筆者のもとに封書が届いたのは同16日だった。

旭川刑務所は定員500人で、本年3月時点の収容数は211人(収容率42.2%)。犯罪傾向の進んでいる受刑者を収容している。刑務作業ではバーベキューコンロなどの金属加工品や木工品の製作を手がけるほか、受刑者の一部が市内の「西神楽農場」でジャガイモ作りなどの農作業にあたっている。

(※ 6月中旬発売の月刊誌「北方ジャーナル」で書簡の全文を公開予定)

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。
北方ジャーナル→こちらから

 

 

 

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