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争いが上告審へ持ち込まれたヒグマ駆除をめぐる裁判で2月下旬、当事者双方が最高裁判所の法廷に足を運んで最後の主張に臨んだ。地元公安委員会に猟銃所持許可を取り消されて7年半が過ぎる北海道・砂川市のハンター池上治男さん(76)が上告人として改めて「正常で安心してハンターが活動できるように」と訴え、最高裁が(審理を高裁へ差し戻さずに)自ら司法判断を示す「破棄自判」を強く求めた。
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本サイトなど既報の通り、北海道猟友会砂川支部長の池上治男さんは今から7年あまり溯る2018年8月、地元自治体からヒグマ駆除の要請を受け、住宅近くに出没した個体1頭をライフル銃で駆除した。現場にはバックストップ(弾止め)となる高さ約8メートルの土手があり、臨場した警察官らが発砲を前提に付近住民へ屋内待機を促すなどして安全が確保されていたが、この駆除行為の2カ月後に突然、警察は池上さんに銃刀法違反などの容疑をかけ始める。示されたのは「建物に向かって撃った」なる理屈。警察は8メートルの土手の存在を無視し、高低差を欠いた平面図を根拠にヒグマ駆除の功労者から猟銃を取り上げてしまった。結果的に事件は不起訴処分となったものの、押収された銃はその後も池上さんに返却されず、猟銃所持許可を扱う北海道公安委員会もこれに追随して銃所持許可を取り消してしまう。裁判は、同処分を不服とした池上さんが公安委を相手に処分撤回を求めて提起したものだ。
これも繰り返し伝えている通り、一審の札幌地方裁判所は原告側の主張をほぼ全面的に認め、公安委の処分に「裁量権の濫用」などを指摘。池上さんは発砲に抑制的で当時の駆除行為にもなんら問題はなかったとして、公安委処分の撤回を命じる判決を言い渡した。しかしこれを不服とする被告側の控訴により、争いは札幌高裁へ。審理にあたった同高裁が2年半ほどを費やして導いた結論は、一審の命令をあっさり覆す逆転判決だった。高裁は、池上さんの撃った弾丸が「跳弾するおそれがあった」などとして公安委処分を支持、さらにはその公安委でさえ主張していない「人に当たる危険があった」なる独自の理屈を持ち出して熟練ハンターの訴えを退けた。池上さんは、ただちに上告。一昨年1月までに訴えを受理した最高裁は、高裁判決を覆すために必要な弁論を開く決定を出すこととなり、昨年暮れに関係者へその判断が伝えられたところだった。
その弁論が最高裁第三小法廷(林道晴裁判長)で設けられたのは、2月27日午後のこと。当事者双方が傍聴席を背にして裁判官らと向かい合う独特の造りの法廷で、上告人の池上さんが改めて意見陳述に立ち、公安委処分を取り消す再逆転判決を求めた。
「物理・数学の理論を無視したような跳弾があるとすれば、誰にも銃を使用することなどできません。全国の多くのハンターがそれを理解しているので、札幌高裁の判決を批判しているのです」
続いて訴訟代理人の中村憲昭弁護士(札幌)らが最高裁に「破棄自判」を求める意見を述べ、ハンターの公益活動の重要性を改めて強調した。
想定外の椿事が起きたのは、この直後のこと。上告人側の陳述を受け、裁判所は争いの相手方である被上告人、つまり北海道公安委員会にも同様の陳述を促した。ところが公安委側はこれに、口頭での反論を拒否する姿勢を見せたというのだ。公安委側被上告人代理人の曰く――
「書面を提出しているので、陳述はしません」
法廷でその様子を目の当たりにした池上さんによると、これには裁判官たちも小さからぬ不快感を示し、林道晴裁判長が強い口調でその姿勢をたしなめることになった。ここに及んでようやく、公安委の代理人がしぶしぶながら弁論要旨の読み上げに応じたという。
最上級審の審理はこの1回の弁論をもって終結。判決は、ちょうど1カ月を経た3月27日午後に言い渡される。
稿を閉じるにあたり、上告人・池上治男さんの意見陳述の全文を以下に採録しておきたい。
私は、池上治男です。
私は北海道猟友会砂川支部支部長、上砂川部会長、鳥獣保護委員、自然生態監視員、生物多様性監視員を務めています。
本件発砲行為当時、砂川市宮城の沢では母子羆、牡羆が数日間にわたり出没を繰り返し、住民に恐怖を与えており、箱罠を設置し猟友会、砂川市、砂川警察署が警戒にあたっていました。
そうした状況下で早朝、砂川市から「羆が住宅のすぐ前に座り込んでいるので駆除して欲しい」と要請がありました。当日は私の出動担当でなく、ほかのハンターの担当でしたが、砂川市からそのハンターに要請したが出られないということで、私に要請がありました。
現場に到着した時に警察官、砂川市の職員、要請を断ったハンターも来て、警察官から現場状況の説明を受けました。子羆が木に上っているのを目撃したということでした。私の状況分析で「その羆はまだその木の下周辺に隠れているはずだ。子羆だから母羆の所に行くはずだから、撃つ必要はない」と伝えました。
しかし「家のすぐ前にいたり住民が怖がっているので、どうしても射殺して欲しい」との要請がありました。
この時は、ほかのハンターが担当でしたので私が撃つ必要はないものと考えていました。
「じゃ、どうしても射殺するんだね」と話していた時に、その木の下付近から、その子羆が下の道路を横断し、畑の方へ行くのを私が発見しました。
担当ハンターがすぐに追いかけ、警察官、砂川市職員が付近の住民避難に向かいました。私も、そのハンターの補助のために畑の方に追いかけました。畑に降り立った時に、その子羆が斜面にいました。しかしそのハンターは、子羆がどこにいるか見失っていました。
「そういえば彼は右眼がよく見えない」ということを思い出し、彼に「私が交代するから、子羆が上の道路を横断するか見張って」と伝えました。
住民避難、斜面にいる羆と建物の射線等、充分に確認し、立ち上がった羆が私の方に向かって来ようとした時に「撃つぞー」と言って1発で倒しました。
無事そのオペレーションは終了し、斜面からその子羆をそのハンターが上の道路に運び、私も道路上に移動、その場で「何も問題なかったね」と終了宣言をしました。
警察官、砂川市職員も「駆除が終わり、よかったね」ということで散会しました。
にもかかわらず、発砲行為から2カ月近く経過した後、私は銃刀法違反の容疑で取り調べを受けることとなりました。
取り調べ時は何度も、調書の書き換えを担当者がしていました。
現場検証の際、捜査官から「人を撃ったのと同じだ」とも言われました。
これは羆駆除したハンターに対する最大の侮辱でした。「もしそこに羆でなくヤクザがいたら撃つかい?」という、意味不明のことも言われました。
私の撃った1発の弾丸を、警察は金属探知機で付近を捜しましたが、発見されませんでした。
「跳弾」という言葉が独り歩きしています。ライフル銃から発射された速度は、等速直線加速運動で一瞬にして獲物に命中します。ピンポン玉のような遅い速度であちこちに飛び跳ねることは決してありません。物理・数学の理論を無視したような跳弾があるとすれば、誰にも銃を使用することなどできません。全国の多くのハンターがそれを理解しているので、札幌高裁の判決を批判しているのです。
北海道猟友会の会長も、本件現場を見に来ました。彼も「これで銃を取り上げられるのであれば、有害駆除はできない」と述べていました。全国のハンターからも同様の声が寄せられています。「自治体から依頼されて公益活動に従事しているのに、猟銃所持許可を取り消すのはおかしい」という怒りの声が多く寄せられています。
私は、何年にもわたって農家、地域住民の安全を念頭に、ハンターを続けてきました。銃を持たないハンターの汚名を返上、正常で安心してハンター活動ができるようにしていただきたい――。
(小笠原淳)
| 【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |









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