東京電力 清水社長らの「覚悟」のなさ

東京電力の幹部には、「国家・国民を守る」という意識や、身命を賭して事に当たる「覚悟」が欠如しているようだ。

11日に発生した東日本大震災によって、東京電力・福島第一原子力発電所の1号機から4号機までが極めて危険な状況に陥った。16日までに、原子炉建屋内の水素爆発、炉心溶融と、国内はもとより世界でも例の少ない重大な事態となった。最悪の場合、旧ソ連のチェルノブイリ原発の事故に匹敵する可能性さえ指摘されている。多くの国民に放射能の恐怖を与えている現実があり、何より、命は助かったものの被災地で困難な避難生活を送ることを余儀なくされている人々に、さらなる苦しみを与えているのだ。

政治の無能ぶりは言うまでもないが、事業者である東京電力の幹部には怒りを覚える。とくに、同社の清水正孝社長以下、幹部たちの「覚悟」が見えてこない。

数時間ごとに行なわれる東電側の記者会見では、担当社員が現状を確認しないままで会見に臨み、記者の質問に立ち往生する場面ばかり。テレビの映像を後追いする話ばかりで、不確かな情報、意味不明の説明、希望的観測の羅列が目立つ。

問題は、かかる事態を招来しながら、社長や副社長といった同社幹部が会見に姿を見せないことだ。

清水社長が国民に向けて言葉を発したのは、13日夜に行なわれた「計画停電」についての会見のみ。この時も福島第一原発については他の幹部に説明を任せており、謝罪というには程遠い内容だった。

その後、日を追うごとに福島第一原発の状況は悪化しているが、清水社長は一度も会見の場において、国民に対する説明責任を果たそうとしていない。社員まかせで顔を見せない東電幹部に、厳しい批判の声が上がる。

在京のある衆議院議員は、東電側の姿勢に憤りを隠さない。「政治家は、行けと言われれば福島に飛ぶ。その覚悟はある。しかし、東電はどうなっているのか!不十分かもしれないが、官房長官をはじめ政府側は不眠不休で震災対策や会見に臨んでいる。事業者である東電は、社長の会見は一度きり。情報は不確か。いい加減にしろと言いたい」。

たしかに、東電幹部の対応はお粗末極まりない。会見に姿を見せないのはもちろん、原発担当役員が福島に飛んだとの情報もない。福島第一原発の現場では、同社の社員や自衛隊員が命がけの作業を行なっているにもかかわらず、だ。

原子力発電所の建設は、国策で進められてきたものだ。国内電力の3分の1以上を原発に頼る現在、原発そのものが信頼を失い、立地地域との協力関係が崩れたとたん、国家の基盤がぐらつく。

東電は地域独占企業であり、国内第一の電力事業者だが、その座にあぐらをかいてきたため、企業倫理を欠いた体質になっている。東電幹部には、この「国難」とも言える今回の事態に対して、「命がけで挑む」という姿勢が皆無であり、「覚悟のなさ」が見て取れる。とても国策を担う企業とは思えない。

国内の原発事情に詳しく、著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)があるほか、チェルノブイリ原子力発電所の現地取材などを手がけてきたジャーナリストの恩田勝亘氏は次のように話す。「福島第一の5号、6号が1~4号と同じような状況になる可能性もある。そうなれば放出される放射能は、今以上に増え続ける。きょう、明日にチェルノブイリと同じようなことになるとは思えないが、東電は綱渡りでそうならないように押さえているだけだ。ここからが正念場ではないか」。「東電の体質的な問題は今に始まったことではないが、2007年の新潟県中越沖地震で東電・柏崎刈羽原子力発電所の事故が起きた時は、副社長クラスが現地で指揮にあたっていた。今回はそれがないようだ。当時より質が下がったということかもしれない。ここ数日の福島第一の状況を見定めるが、東電の不適切な対応は変わらないだろう」。

「最悪の事態」を回避する努力を続けるのは当然だが、まずは清水社長以下、幹部社員が、状況や見通しについての真実を語る必要があるだろう。

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