鹿児島県医師会、わいせつ事件男性職員の常習ハラスメントを隠蔽|崩れる「合意に基づく性行為」

新型コロナウイルス感染者の療養施設で、鹿児島県医師会(池田琢哉会長)の男性職員が女性スタッフに対し強制性交の疑いが持たれる“わいせつ事件”を起こしていた問題に絡み、10月末に退職した当該職員(以下、本稿では「男性職員」。既報)が、別の複数の女性に対し常習的にセクハラやパワハラを行っていたことがハンターの取材で分かった。

わいせつ事件を受けて県医師会が設置した調査委員会に男性職員のハラスメントに関する証拠が提出され、事実関係が認知されていたことも判明。しかし医師会は、鹿児島県に提出した調査報告書や報告書提出後の記者会見で、ハラスメントの事実には一切触れず、性被害を訴えている女性と男性職員の間に「合意があった」とする見解だけを強調していた。

医師会上層部は、調査委設置以前から「合意があった」と公言していた池田会長の立場を守るため、男性職員によるハラスメントの実態を隠蔽し調査結果を歪めた可能性が高い。

◇   ◇   ◇

医師会の男性職員が起こしたわいせつ事件を巡っては、9月27日に医師会から塩田康一鹿児島県知事に提出された調査報告書や同日に開かれた医師会の記者会見で、同会顧問の新倉哲朗弁護士(和田久法律事務所)が、刑事事件として捜査中の事案であることを無視して「合意に基づく性行為だった」と断定。その上で、「一定の社会的な制裁を受けた」などとして「情状酌量の上、停職3か月」(報告書の記述)という軽い処分にしたことを公表していた。

医師会が、本来なら内規にある「諭旨退職・懲戒解雇事由」にあたるはずの事案を「停職3か月」という極めて軽い処分にした最大の理由は、調査委が、問題となった性交渉を「合意に基づくもの」と断定したからだ。だが、男性職員がセクハラ、パワハラの常習者だとすれば、当該職員の主張には重大な疑義が生じるだけでなく、療養施設などでの性交渉が、じつは日頃のハラスメントの延長だったとする見立てさえ成り立つことになる。そのため池田会長や顧問弁護士を含む医師会上層部は、別件のハラスメント被害をすべて隠して、ことさら「合意に基づく性行為だった」と喧伝したのではないのか?

では、男性職員は、どのようなハラスメントを行っていたのだろう。男性職員が退職するという情報を得て取材を続けていたハンターに寄せられたのは、ハラスメントに関する数々の証言と、それを裏付ける証拠だった。

■セクハラの証明

女性
女性
セクハラがひどい。このまま続くなら上に相談する。気持ち悪い。

 医師会職員とみられる女性から、SNS上でこのように厳しく追及されていたのは、新型コロナウイルス感染者の療養施設でわいせつ事件を起こした男性職員。関係者の話によると、男性職員は次のように返信していた。

すみません。やめます。失礼しました。きちんと謝ります。次は絶対ありません。すみません。やって良いことではないと理解しておりましたが。本当に申し訳ありません

 セクハラ行為は別の女性にも行っていたようで、被害が広がっていたことを示す記述もある。

女性
女性
派遣さんに抱きつくな。
女性
女性
みんな迷惑している。

 これに対して男性職員は――。

あなたが言う通り。間違いはありません。明日から心を入れ替えます

 殊勝な姿勢をみせる男性職員だが、被害を受けた女性の怒りは収まらず、強い言葉での非難が続いていた。

女性
女性
病気だと思うので治してください。
女性
女性
派遣さんにしたこととか、私が知らないと思ったら大間違いです。絶対許しません。

女性の怒りの前に、男性職員は“完落ち”。自分のセクハラが病的なものであることを認め、謝罪を繰り返していた。

全て私が悪い
診断と治療を受ける

この後に被害を受けた女性が放った一言は、男性職員のハラスメントが広範囲に、しかも常習的に行われていたことを示している。

女性
女性
みんな我慢してた。何度すみませんと言われても許さない。一生許さない。

■パワハラの証明

男性職員によるパワハラの証拠もみつかっていた。

被害者とみられるのは、新型コロナの療養施設に勤務していた女性の看護師。医師会の関係者らしき人物に、男性職員から“奴隷扱い”されたと告白し、話をするたびに動悸がすることや、メールを送信するだけでも「手が震える」と訴えていた。原因は、男性職員によるパワハラである。

興味深いのは、この被害者が男性職員同様に怖がっていた別の女性看護師(以下、A看護師)がいたことだ。被害にあった女性は、そのA看護師についても、話をするたび「動悸がする」ほど嫌な思いをしていることを打ち明けていたという。実は、怖がられていたそのA看護師こそ、調査委の聞き取りに対し、強制性交の被害を訴えている女性スタッフや、かつて女性スタッフとともに働いていた医療機関を悪しざまに語った人物。A看護師の証言が都合よく使われた結果、被害を訴えている女性スタッフについてのでっち上げられた悪評が、医師会関係者の間に広まっていることが分かっている。

パワハラ被害を受けた女性はA看護師と一緒に仕事することを拒んだというが、相談された問題の男性職員は「あまりわがままが過ぎると、勤務できなくなる」「勤務から外す」などと脅しともとれる言葉で勤務を強要していた。パワハラにあった女性看護師は、他にもいたとされる。

■虚構の証明

男性職員のセクハラやパワハラは、鹿児島県医師会が男性職員のわいせつ事件を調査するため設置した「調査委員会」の中で認定されていたという。しかし、医師会が9月27日に塩田知事に提出した調査報告書には、ハラスメントの事実は一切記載されていない。同日に開かれた医師会の記者会見でも、同会顧問の新倉哲朗弁護士が「合意に基づく性行為だった」と強調しただけで、男性職員がハラスメントの常習者であったことにはまったく触れなかった。医師会の男性職員による常習ハラスメントが、意図的に隠されたということだ。

調査委員会の結果を受け、医師会の懲罰委員会が男性職員に下したのは、「停職3か月の懲戒処分」。その前提については、医師会の調査報告書に詳しく記されていた。報告書の中の『職員の処分』の全文を以下に引用する。

第6 職員の処分

1 X職員の行為は、鹿児島県医師会調査委員会(以下「調査委員会」といいます。)の調査結果を前提にすれば、合意の上である蓋然性は高いと思料されるが、当該行為は、鹿児島県が借り上げ、新型コロナウィルス感染症患者が療養するために使用している宿泊療養施設内およびA医療機関内で行われており、鹿児島県から宿泊療養施設に関する業務委託を受けた当会に対する信用を失わしめるだけでなく、新型コロナウィルス感染症対策事業に協力する医療機関その他の医療機関、さらには鹿児島県民の信頼を損なう行為であり、極めて不適切な行為といわざるを得ません。

2 しかしながら、X職員は、これまで就業規則に反した処分に処せられるようなことはありませんでした。そして、X職員は、鹿児島市外の宿泊療養施設の立ち上げやその他の宿泊療養施設の運営や医療機関のクラスター問題に尽力したことも事実であり、宿泊療養施設の看護師からも評価されております

他方で、本件行為は、NHK等のマスコミで広く報道されました。報道機関の意図は、不明ですが、その報道内容は、一般人に、あたかもX職員がY氏の意思に反して無理やり強制わいせつ行為や強制性交行為を行ったと疑わせるようなものだったと考えられ、調査委員会の事実認定に反するものだったと考えられます。

当会としましては、X職員がマスコミ報道等によって、自らの非違行為を超えた重大な非違(犯罪)行為を行ったかの如く世間に疑われ、これまで客観的事実とは異なる行き過ぎた社会的な批判を浴び続けたことに関して、一定の社会的な制裁を受けたものと考えます。加えて、X職員は、当会に本件が発覚した後、令和4年2月15日から自宅待機命令を受けており、その期間は半年を超えております。

3 以上のように、X職員の行為は極めて不適切な行為であり、当会就業規則第51条の4の⑨「医師会又は職員個人の名誉や信用を著しく傷つけたとき」(論旨退職・懲戒解雇事由)に当該すると考えますが、前記2項で挙げた情状を考慮し、情状酌量の上、停職3か月の処分を言い渡すものです。

医師会の主張はこうだ。
1 宿泊療養施設における性行為は、「合意」に基づくものだった。
2 これまで男性職員が就業規則に反した処分に処せられるようなことはなかったし、宿泊療養施設の立ち上げや運営、医療機関のクラスター問題などに尽力しており、宿泊療養施設の看護師からも評価されている。
3 一定の社会的な制裁を受けている。
――以上の理由から 情状を酌量し、停職3か月の処分にする。

強制性交の被害を訴えている女性が男性職員を告訴し、これを受理した鹿児島県警が捜査を続けている中での医師会の調査結果は、誰が読んでも無理がある内容だろう。性被害を訴えている女性の人権を、平気で踏みにじる姿勢は醜悪と言うしかない。

セクハラやパワハラは、場合によっては犯罪として罰せられる行為だ。県医師会がどれだけ「人権」を軽んじる団体であろうと、いまのご時世、ハラスメントが就業規則に反していないわけがない。すると「(男性職員は)これまで就業規則に反した処分に処せられるようなことはありませんでした」という調査報告書の記述は事実上の虚偽。複数のパワハラ被害者が存在する以上、「宿泊療養施設の看護師からも評価されている」という話を信じる県民は皆無に近いだろう。当然、嘘と隠蔽によって組織防衛を図ろうとした県医師会・池田執行部による「(性行為が)合意の上である蓋然性は高いと思料される」という主張の信憑性は大きく揺らぐことになる。

一定の社会的な制裁を受けている」というもう一つの処分の前提については、これまでの配信記事で述べてきたとおり。男性職員の実名は報道されたことがなく、「一定の社会的な制裁を受けた」とする根拠はどこにもない。

県医師会による調査報告書の記載内容と記者会見での主張は、いずれも“虚構”と断ぜざるを得ない。わいせつ事件発覚直後から『合意があった』と言いふらした池田会長と側近、さらには顧問弁護士らは、会長の立場を守るため、調査委員会を使って虚構を既成事実化した可能性が高い。ハンターはその証拠も握っており、次週の配信記事で詳しく報じる予定だ。

(中願寺純則)

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