違法捜査問う裁判で札幌地裁が全国初の取り調べ映像提出命令

無罪事件の元容疑者が警察の違法捜査による被害を訴えている裁判で、裁判所が元容疑者側の「文書提出命令申し立て」を受け、取り調べの様子を記録した映像の提出を捜査機関に命じる決定を出した。取り調べ映像の開示命令は極めて異例で、元容疑者の代理人によれば全国で初めて。

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3月30日付で文書提出命令を出したのは、先の違法捜査を問う裁判を指揮する札幌地方裁判所(谷口哲也裁判長)。裁判はもともと、札幌市内で起きた事件で容疑をかけられた女性が提起したもので、代理人らによれば事件を調べた北海道警察の捜査員らは女性の黙秘権を侵害し、また私物の『被疑者ノート』を無断で持ち去って“検閲”するなどの不当捜査に及んだという(本サイト既報)。女性と当時の弁護人は一昨年12月、道警に計160万円の賠償を求める訴訟を起こし、審理の過程で昨年5月、当時の取り調べ映像の開示を求める「文書提出命令」を裁判所に申し立てた。

映像開示を求める理由を、原告側は「(取り調べの違法性を判断するには)捜査員の発言内容だけでなく語気や声量、表情、雰囲気、挙動などから総合的に判断する必要がある」と説明、これに被告の道警は「(違法性の判断は)証人尋問などで立証可能」「映像の開示は今後の同種事案の捜査へ支障をきたす」などと反論していた。裁判所は今回の決定で警察側の反論をほぼ一蹴し、「尋問では取調官らが口裏合わせをするおそれがある」「同種事案の捜査に支障をきたすとは認められない」などと指摘、映像開示を拒むことは「裁量権の濫用」にあたると結論づけた。

開示命令の対象となるのは、一昨年6月23日から7月12日までの間にほぼ毎日行なわれた取り調べを記録した映像で、のべ約25時間分に及ぶ。元容疑者の女性は逮捕3日後には黙秘権行使を申し出ていたが、当時の道警の捜査員らはこれを聴き入れず、その後も連日取り調べを続けた。連続3時間を超える聴取があった日もあり、代理人らによれば捜査員らは「黙っていたら『あの時言えばよかった』と後悔する」「弁護士が何を言っても、あなたは大人だから自分で判断できる」などと供述を迫り、マスク越しにわかるほどの大きな溜め息をついたり、強く机を叩き続けるなどの不当行為に及んだという。

映像データは現在、道警から札幌地方検察庁に渡っているが、同地検が今回の命令に応じるかどうかは現時点で定かでない。原告代理人らは「取り調べ映像の提出命令は全国で初めてのはず」と札幌地裁の判断を評価しつつ「捜査側が即時抗告(異議申し立て)をする可能性もあるが、高裁で抗告が却下されたらそれも新たな前例になってしまうので、検察は今後の影響を検討しているところなのではないか」と話す。もとより取り調べの録音・録画は違法捜査を防止する建前で始まった取り組みで、今回のケースについても原告側の主張が事実かどうかは映像を確認すればたちどころにわかることだ。

特別抗告の期限は4月第一週に迫る。文字通りの「可視化」を命じる決定に対し、捜査側の抵抗がどこまで続くかが注目される。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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