バイオマス発電の推進を訴えた佐々木允県議会議員の議会質問が起点となる形で計画がスタートした「田川バイオマス発電所」の事業認定までの過程で、環境に影響を与える可能性がある大型施設建設には必須となっている「事前の住民説明会」が、開かれていなかったことが明らかとなった。
事業者である南国殖産(鹿児島県)側は、2019年11月7日に田川市内で「住民説明会」を開催したと国に報告していたが、これがとんだインチキ。実は、近隣3区の区長だけを田川市内の和食料理店に呼び出しての単なる「宴会」で、料理だけでなく酒まで振舞われていた。事業を所管する経済産業省九州経済産業局は、ハンターの開示請求に対し、この事実を隠蔽するため公表済みの文書を黒塗りにするという暴挙に出た可能性が高い。
■インチキ住民説明会を南国殖産と国が隠蔽
下は、田川バイオマス発電の事業者である南国殖産側が、九州経済産業局に提出した「バイオマス燃料の調達及び使用計画書」の中の、『地域社会に対する対応』という項目があるページ(*赤い囲みはハンター編集部)。ハンターの情報公開請求に対して開示された同文書では、他の項目も含め、記載内容がすべて黒塗り非開示となっていた。
これでは、近隣住民に対する説明が実施されたのかどうかが分からない。前述したように、環境への負荷が想定される施設建設において、住民説明会は不可欠となるべきステップ。九州経済産業局が、この部分を隠したことで、事業許可への疑念が生じる状況となったことは言うまでもない。
事業の正当性が証明できる証拠を、わざわざ黒塗りにして疑いを招くという不可解な対応。怪しいと考え、田川市でバイオマス発電所建設計画に反対する地元住民に取材するなか、ハンターの記者は、関係者から渡された資料の中にとんでもないものを見つける。それが下のコピーだ。
ハンターに開示された文書では黒塗りにされた説明会の記述が、隠すことなく開示されていた。こうしていったん開示された文書が、のちに非開示になるなど聞いたことがない。当然、九州経済産業局を追及した。
説明を求めた記者に、当初「後にも先にも開示箇所は変わらない、国会議員が求めても同じものしか出さない」と断言していた九州経済産業局エネルギー対策課の金森優介課長補佐は、地元住民が2021年に入手していた上掲の文書を突き付けられしどろもどろに――(既報)。経産省側はその後、「開示請求があれば、その都度開示する内容を変える」と情報公開制度の根幹を揺らすような主張を持ち出し、組織を挙げての隠蔽に走っている。
■「近隣住民説明会」「理解を得られた」は真っ赤なウソ
一昨年、地元住民に開示された問題の文書を、改めて確認しておきたい。「(6)地域社会に対する対応」には、次ように記されている。
説明年月日:令和元年11月7日(第一回)
説明方法:近隣住民説明会
地域住民の反応:煙や火災、騒音への懸念があったが、丁寧に説明を行い理解を得られた。
対応策等:煙に関しては、蒸気以外の煙は排出しない仕様であることを説明。騒音には防音対策、粉塵には飛散防止の囲いや建屋等の建設等の建設、大型トラックの走行に関しては通学時間を避けるなどの対策を行う。
また、火災防止のためにチップヤードやボイラーの管理を厳格に行い、警報器や消化器の設置を行う。
令和元年11月7日に「近隣住民説明会」が開かれ、「丁寧に説明を行い理解を得られた」とある。もっともらしく「対応策」とやらも記されているが、会合の実態はまるで違っており、記述内容は事実上の“でっち上げ”だったことが分かっている。この日の集まりは、関係者の“顔合わせ”を兼ねた「宴会」。住民説明会などではない。
下は、宴会が開かれた田川市内の老舗日本料理店。南国殖産側の呼びかけに応じて地域から参加したのは、バイオマス発電所建設予定地周辺に位置する三つの自治会の区長3人と、計画推進の立場を鮮明にしていた2名の水利組合関係だけ。他の一般住民は誰ひとりいなかった。
会合に参加したある区長によれば、案内された部屋に入ると、すでに宴会用の料理が並び酒の用意もあったという。南国殖産側から「今日は顔合わせ」という趣旨の発言があり、すぐに乾杯。事業内容を質そうとしても、南国殖産の計画に賛意を示していた地元関係者が「まあ、まあ」と遮ってビールを継ぎ足すという状況だった。「地元説明会なんて真っ赤なウソ。宴会を説明会と偽って許可の申請をしており、詐欺的な手法に怒りを覚える」――うまく利用された形の区長は、そう憤る。
■「住民説明会」非開示要請は南国殖産
ハンターが田川のバイオマス発電事業の認定過程について九州経済産業局に情報公開請求をかけたのは昨年10月。同局エネルギー対策課は、「(認定)申請者の意見」を確認するとして開示決定期限を1カ月延長。実際に開示・非開示の決定がなされたのは12月15日だった。
九州経済産業局がいう「申請者」は、南国殖産とその現地法人である田川バイオマスエネルギー。住民説明会の記述に関するハンターへの黒塗り非開示は、南国殖産側の意向に従ったものだった。経済産業省は、説明責任を放棄して、事業者の言いなりになったということだ。
この点について南国殖産の担当者に確認を求めたところ、住民説明会の記述などについて「非開示」の意思表示をしたことを認めた上で、詳しい理由などについては「これ以上お話することはありません」として事実上の取材拒否。あやしい事業認定であることを、自ら白状した格好となっている。
■「政・官・業」癒着の構図
経済産業省資源エネルギー庁が作成した「事業計画策定ガイドライン(バイオマス発電)」には、遵守事項として11項目が挙げられており、そのなかに「再生可能エネルギー発電事業に関する情報について、経済産業大臣に対して正確に伝えること」という一項がある。
さらに、遵守事項に違反した場合については《本ガイドラインで遵守を求めている事項に違反した場合には、認定基準に適合しないとみなされ、再エネ特措法12条(指導・助言)、第13条(改善命令)、第15条(認定の取消し)に規定する装置が講じられることがある》と明記されている。
南国殖産側が認可申請にあたって経産省に提出した「バイオマス燃料の調達及び使用計画書」の中の住民説明会に関する記述は、「宴会」を「説明会」にすり替えた虚偽の内容。遵守事項違反で、認定を取り消すべきケースだと言わざるを得ない。田川市民を愚弄する南国殖産側の姿勢だが、なぜか経産省は申請内容の瑕疵を認めようとせず、事案の隠蔽を貫く構えだ。
バイオマス発電を推進すべきと議会で主張した政治家。その政治家と発電事業者の代理人となった弁護士の親密な関係。事業認定を行う経産省の、「住民説明会」を巡る隠蔽工作――。政・官・業による癒着の構図が、そこにある。「闇」は深い。