野川明輝鹿児島県警本部長が、警察組織ぐるみの証拠隠滅が疑われるストーカー事件で被害に遭った20代女性が謝罪と説明を求めた「申入書」を黙殺。3週間経った現在も連絡さえしていないことが分かった。被害女性の申入れは、記者会見や県議会で「謝罪」「お詫び」を明言した野川氏らの発言を受けてのもの。公言した自分たちの言葉に責任を持とうとしない腐敗組織トップの卑劣な姿勢が、被害女性にさらなる苦しみを与えている。
■警察組織が証拠隠滅
問題の事件は、明らかな「公益通報」を単なる情報漏洩にすり替えられ逮捕された本田尚志元生活安全部長が、北海道のジャーナリスト・小笠原淳氏に送った文書に記されていた「署員によるストーカー事件2件」の内の1件。
2023年2月に起きたこの事件は、同月19日、鹿児島県霧島市のクリーニング店で働く20代の女性に、霧島署に勤務する巡査部長が名刺の受け取りを強要。それ以前から巡査部長に待ち伏せされるなど付きまとわれていると感じていた女性は翌20日、別の署に勤務していた顔見知りの警部補からアドバイスを受けて霧島署の警務課長に被害状況を申告したが、同署は直後からもみ消しに動いていたことが分かっている。
もみ消しの手口は極めて悪質。相談初日(2月20日)にいったん作成された「苦情・相談等事案処理票」のデータが消去されたり、犯行の具体的な証拠となる防犯カメラの映像が消されるなど証拠隠滅が実行されていた。当然、検察が出した答えは「不起訴」。事件の真相が闇に葬られた疑いが濃い。
警察・検察によって、一度は事実上の“もみ消し”となった霧島署巡査部長によるスートカー事件。そこに光があたったのは、昨年まで県警の警部補として県民の暮らしを守ってきた男性に郵送されていた文書のおかげだ。ハンターが絡んだ2件に続く3件目の「内部告発」だった(*下、参照)
■逃げ回る県警トップに被害女性の悲痛な叫び
この文書を起点に、ストーカー被害に遭った女性と、事件に関係した複数の元警察官による証言から新たな疑惑に発展。県議会で追及された県警は、前述した防犯カメラ映像の消去という、これまで秘められていた事実を明かさざるを得なくなる。そうした経緯を経て飛びだしたのが、記者会見における南茂明元霧島署長と野川本部長の「謝罪」「お詫び」発言だった。その後、野川本部長は県議会で姿勢を一変させ謝罪を拒否(*既報参照)。被害女性は今月初め、一連の経緯を踏まえ、次の文案の「申入書」を野川本部長あてに送付していた。
鹿児島県警察本部
野川明輝本部長 殿申入書
本年8月2日の記者会見で、今年3月まで霧島署長だった南茂昭生活安全部長は、私が被害に遭ったストーカー事件について聞かれ、「私が霧島署長に在任中の事案であり、職員の軽率な行動と、被害者の信条に寄り添った対応を取れなかったことで、被害者に対して怖い思い、不快な思いをさせて、警察不信を招いたこと、当時の現場責任者として謝罪をしたいと思います。誠に申し訳ございませんでした」と述べたことが報じられています。
これを受けた形で貴殿は、同日の会見で、「被害者の方には警察に対して疑念や不安な思いをさせ、お詫び申し上げます。被害者の方から、被害者への説明が不十分であったこと、霧島署から本部への連絡がなかったことが結果的に不安につながった。今後はこのようなことがないように、しっかり取り組んで、理解を得られるように努力したい」と述べられています。
しかし、8月6日に行なわれた県議会総務警察委員会の集中審議において県議会議員からこの点について確認を求められた貴殿は、「被害者に対する個別の謝罪については、これは当事者間で行われるべきものでございますので、基本的には公の場において明らかにするものではないと認識してございます」と答弁されています。
1 そこでお尋ねですが、8月2日の会見で、貴殿は「被害者」と述べられていますが、その被害者とは誰を指していますか?また、「お詫び申し上げます」とは、誰を対象に発せられた言葉ですか?
2 8月6日の県議会質疑で貴殿は、一転して「被害者に対する個別の謝罪については、これは当事者間で行われるべきもの」と謝罪拒否ともとれる発言をされています。発言に整合性がないと感じていますが、この点についてご説明下さい。
3 6日の発言だと2日の「お詫び」発言とまったく違う姿勢ということになりますが、貴殿が言う「当事者間」とは、私と犯人の警察官のことですか?
4 貴殿は、「謝罪」については私に犯人と交渉しろとおっしゃっておられるのですか?
5 県警はこれまで、私に対して事件についての説明はもちろん、防犯カメラ映像の内、昨年2月18、19両日の静止画は残してその後の映像を消去したことなどまったく説明してきませんでした。県公安委員会から受け取った文書には、県警側からの報告として「防犯カメラなどの関係資料を精査しましたが、2月20日から少なくとも3月3日までの間、当該署員が、勤務先及びその直近の駐車場に接近した客観的な証拠は認められませんでした」とあります。県警はなぜ、公安委員会に18、19の両日の静止画はあるが、20日以降の画像は消去したと正確に報告しなかったのか、合理的な説明を求めます。
【結語】
私に対する謝罪と、1から5までの質問に対する回答を、早急に文書で発出していただきますよう、強く申し入れます。
昨年2月にストーカー被害に遭っていることを初めて県警・霧島署に相談して以来、まともな対応をしてもらえなかった被害女性が、県警に事件捜査の過程について説明と謝罪を求めるのは当然だ。
加害者とされる巡査部長は同月23日、クリーニング店の前で現職警官に目撃されていた。その姿を捉えられる位置に設置してある防犯カメラの映像が残っているはずだったが、県警の捜査結果は「映っていない」。県警の動きに不信を抱いた彼女が県公安委員会に苦情を申し立てたことに対し、同年6月に同委員会が発出した「苦情処理結果通知」は、《2月20日から少なくとも3月3日までの間、当該職員が、勤務先及びその直近の駐車場に接近した客観的証拠は認められませんでした。》――つまり証拠がないという警察の言い分を何の疑いも抱かず追認した内容だった。ところが、今年7月19日の県議会で県警は、“(昨年2月)18、19日の防犯カメラ映像には問題の巡査部長の車が映っており静止画として残したが、あとの画像は消去した”と白状する。
県警と公安委員会が、防犯カメラ映像の確認開始日を「2月20日」にしたのは明らかなごまかしだ。それ以前からの映像――とりわけ巡査部長が被害女性に名刺を押し付けた「2月19日」とその前日の「2月18日」の映像のことに触れていなかったのは、県警が意図的にストーカーの証拠を隠滅した証左だった。騙された格好の被害女性が、一連の経緯について説明を求めるのは当然だろう。
事件当時の霧島署長・南茂明氏は現在、ストーカー事案を担当する生活安全部長。その南氏が、公式の場で「謝罪をしたい」と明言し、野川本部長も殊勝に「被害者の方には警察に対して疑念や不安な思いをさせ、お詫び申し上げます」と言った。野川氏は県議会で前言を撤回し、「謝罪は当事者間で行われるべきもの」と豹変したが、県警トップとして被害者に対する説明責任はあるはずだ。それが、被害女性の当然の申入れを黙殺というのだから呆れるしかない。県警が繰り返す「反省」「改革」を信用する県民は皆無に近いはずだ。
腐敗組織に二度三度と打ちのめされてきた被害女性が、絞り出すように苦しい胸の内を明かした。悲痛な叫びと言うべきだろう。
昨年の事件以来、思い出すと蕁麻疹が出たり、髪が抜けて円形脱毛症になり恥ずかしくて美容室に行けなかかったり、寝る前に何十回も鍵をしたかどうか確認しに行ったり、何日も眠れない日が続いてたりと、そんな日常が当たり前になりました。ただただ普通の生活に戻りたい、それだけが私の願いです。
恐怖に耐えられず、自分で命を絶とうと考えたこともありました。霧島署、県警、公安委員会、なんのための組織でしょうか?私がまたストーカー被害に遭ったり、苦しみが続いて命を落としたりしたら、どう責任を取るのか教えて欲しいくらいです。本田(元生活安全部長)さんの事件から状況が変わり、多くの人から励ましの言葉をいただきました。おかげで何とか立っています。卑劣な行為には、絶対に負けたくないですから。
前にお話しした通り、今年の7月18日に県警の人身安全・少年課から突然電話がありました。「明日、県議会の委員会に野川本部長が出席しますが、あなたの事件について質問が出るかもしれません。事件のことを答弁してもいいですか」という内容でした。私はこれまで、ただの一度も事件のことについて何の説明も謝罪も受けていません。何度も求めてきましたが、ずっと黙殺されてきました。「そんなことは止めて下さい」と言わせたかったのでしょうが、私は隠すことは何もないですから、「話してもらって結構ですよ、ただし、本当のことを」と答えました。自分たちにとって必要なことはやるけれど、今回の申入れのように都合の悪いことは黙殺するということですね。被害者と向きあわない警察には不信感しかありません。
もう一つ、どうしても言いたいことがあります。自民党や公明党の議員さんたちは県議会の百条委員会に反対されています。その方々に聞いてみたい。あなたたちの子供さんやお孫さんが、性被害に遭ったとしても同じ態度をとられるのですか?弱者の苦しみが分かっているのですか?