
鹿児島県警が、県医師会の男性職員(当時。2022年10月に退職)に性被害を受けたとする女性の訴えをもみ消そうとしてから4年が過ぎた。この件に絡む形で二人の警察官が情報漏洩の疑いで逮捕されたことが、別の現職警官たちによる数えきれないほどの性犯罪発覚や野川明輝本部長(当時)による不祥事隠蔽疑惑につながっていったのは周知の通りだ。県警は「再発防止策」を策定して逃げ切りを図る構えだったが、不祥事は止まらず、組織への信頼は地に落ちた。
最悪なのは、ハンターに不当な家宅捜索をかけるなど2件の情報漏洩事件を指揮していた警察庁キャリアの捜査二課長(当時)が、当該事件の捜査情報を漏らした上、女性記者への不同意性交で告発されたこと。なぜか二課長は逮捕もされず「不起訴」となり、停職1か月という軽い処分で終わった。警察組織の闇は深い。
警察や検察は「謝る」ということを拒絶する組織だが、そのためには事件の真相をねじ曲げることさえ厭わない。鹿児島県警も同様で、その中の一つが枕崎署の現職警官による盗撮事件だった。
■県警公表「時系列」への疑念
野川元本部長が隠蔽を指示したとされる事件の一つが、本田尚志元生活安全部長の「公益通報」によって暴かれた枕崎署員による盗撮事件だ。この盗撮犯が逮捕されたのは2024年5月13日だが、県警はその約1か月前の同年4月8日、別件の地方公務員法違反事件(守秘義務違反)の関係先としてハンターに対する家宅捜索を行っていた。その際に押収したパソコンのデータから偶然見つけたのが元生安部長の告発文書。県警は、組織を揺るがしかねない事態に直面する。
元生安部長が、ハンターで記事を執筆している北海道のジャーナリスト・小笠原淳氏に郵送した公益通報文書は計10枚。下に、1枚目の「闇を暴いて下さい」と、2枚目の「鹿児島県警の闇」と題する文書の一部を示す。


警察組織内の不祥事を隠蔽したとなれば一大事。間違いなく本部長の首が飛ぶ。警察組織としては「公益通報」を認めるわけにいかない。あわてた県警は、「鹿児島県警の闇」に記された4項目についての対処方針を決める。
(1)の霧島署員によるストーカー事案は、事件化を断念するよう被害者を説得して話がついているからそれで押し通す、(3)と(4)については大した問題にはならない――そう考えたであろう県警が問題視したのは(2)の盗撮事件だった。現状のままなら「隠蔽」への批判は必至。批判をかわすため、無理なシナリオが出来上がる。
なりふり構わぬ県警は、いったん見逃していた盗撮犯を逮捕し、“隠蔽を否定できる形”を整える。元生活安全部長の国家公務員法違反(情報漏洩)容疑での逮捕は、盗撮犯逮捕から2週間ほど後となる5月末。つまり、盗撮犯逮捕は、「公益通報」を否定するための必須条件だったとみるべきだろう。ここで、県警が公式発表した枕崎署員による盗撮事件の時系列を確認しておく。

県警が公表した盗撮事案の「認知」は2023年12月19日。同日、「署長指揮事件」として捜査を開始したとされる。その6日後の12月25日に犯行現場周辺に設置されていた防犯カメラの画像を回収。以後、画像の精査と捜査を翌年の3月まで続けたことになっている。同月27日には署内で「教養」と呼ばれる研修を実施。3か月も経った24年3月に容疑者が浮上したとして報告書を作成し、5月1日から10日にかけて警官の非違行為を捜査する場合の「本部長指揮」に移行。わずか3日後の13日、犯人逮捕に至る。
結論から述べるが、公表された時系列は県警がひねり出した虚構。つまりは“でっち上げ”だと考えざるを得ない。大きな矛盾がいくつもあるからだ。
まず、時系列の中の23年12月22日付の記述。首席監察官が県警本部長に事案を報告したことになっているが、これは現職警官が犯行に関わっていることが分かったからだ。犯人が現職警官でなく一般人であるなら、よほど大きな事件でもない限り本部長への報告は必要ない。しかも報告したのは「警察の警察」と言われる監察の、それもトップ。事態を重くみていた証拠だろう。この段階で、枕崎署や県警幹部は犯人が現職警官であることを把握していたことになる。通常なら、ここから「本部長指揮」だが、そうなっていない。
問題は、本部長の指示がどのようなものであったにせよ、盗撮犯が現職警官である疑いが浮上していたにもかかわらず、地域社会向けではなく署内での不必要な「教養」を実施したことだ。これによって犯人に「気を付けろ。分かっているぞ」と教えたことになる。教養が、以後の犯行を止める目的だったことは明白。隠蔽の第一段階と言えるだろう。
次に25日の記録。この日になってようやく防犯カメラの画像を回収したことになっているが、それまでの動きとの整合性はない。県警が犯行に使用された車両や犯人を割り出したのは、防犯カメラの画像を確認できたからだ。12月25日から始まった犯人の特定作業に3か月もの時日を費やしたと説明しているが、そうなると3日前の22日に本部長にあげられた報告や実施された「教養」との矛盾が生じる。犯人が誰か判明していない段階で、本部長への報告や署内向けの教養をやる必要などあるまい。しかも、防犯カメラの画像確認を始めた2日後には、再び署内向けの「教養」を行っている。辻褄が合わないことは、子供でも解かる。
おかしな展開は続く。容疑者が浮上したとされるのは2024年の3月。呆れたことに、ここでハッキリと現職警官が犯人だと分かっていながら、「本部長指揮」になるのはさらに約1か月半も後の5月1日から10日の間だという。それまでは「署長指揮」(*下の画像参照)。県警への情報公開請求で入手した他の警察官不祥事に関する捜査資料を読み込んでみたが、「本部長指揮」となるのは事案の報告が上がってすぐのケースがほとんど。枕崎盗撮事件の扱いだけが異例なのだ。

以上、述べてきた通り、盗撮事案認知から防犯カメラ画像の確認、それによる犯人特定で本部長指揮になった時期までの時系列には矛盾が多すぎる。そこで改めて見直したのが、元生活安全部長が北海道の小笠原氏に送付した公益通報文書の記述である。
■公益通報「原本」にあるアンダーライン上の記述
小笠原氏の許可を得て、初めて枕崎盗撮事件について記された同文書原本の一部を下に示す(*赤い矢印はハンター編集部)。

注目したのは、《枕崎署の対応》の項目にあるアンダーラインが引かれた箇所――「同車両は枕崎署の捜査車両」と「捜査員も特定」だ。アンダーラインでこの部分の記述を強調したのは、もちろん元生安部長で、前後の記述はこうなっている。
被害申告はなかったが、同トイレでは、過去にも40代の女性から盗撮容疑事案の相談(トイレ利用中、カメラは見ていないが人の気配を感じたというもの)があったことから、トイレ付近の防犯カメラ映像を回収し、犯行時間帯の映像を精査したところ、容疑車両が特定されたが、同車両は枕崎署の捜査車両であった。さらに同時刻の捜査車両を使用していた捜査員も特定された。
県警が公表した時系列によれば、事案認知は2023年12月19日。同日には署長指揮事件として捜査を開始したと主張している。この時点で「刑事事件」の可能性があることが共有されていたというわけだ。これは“犯人が写り込んでいた”防犯カメラの画像を確認していなければ成り立たない。
告発文書にある通り、盗撮事案の相談者は犯人と犯人が乗って逃げた車両=白い車を見ており、時間も分かっている。犯人特定のための確認作業は容易だったろう。枕崎署の幹部は、カメラ画像からあぶり出されたのが署員であることに愕然となったはずだ。
おそらく枕崎署は、規定に従って同日か、遅くとも翌日の20日までには県警本部に速報していたとみるべきで、県警が公表した「本部長への報告日=22日」は後付けの『虚偽』である可能性が否定できない。
「容疑車両は枕崎署の捜査車両」「捜査員も特定」という報告は、盗撮事案を所管する「生活安全部」に速報された。その報告を受けた同部のトップは、不当に逮捕・起訴された本田尚志元生活安全部長。隠蔽されたことで義憤にかられた同氏は、別の事案を含めた公益通報文書を作成し、北海道の小笠原氏に郵送する。本田元部長が「同車両は枕崎署の捜査車両」と「捜査員も特定」をアンダーラインで強調したのは、早い段階で犯人の特定ができていたことを伝えたかったからだろう。枕崎事件についての告発の概要はこうだ。
・2023年12月中旬 枕崎市内の40代女性が公園のトイレ内に入った際、スマートフォンのようなものが見えたため声を上げたところ男が走って逃げたと通報。女性はパトロール強化を要望。
・同トイレにおいて過去にも盗撮容疑事案の相談があったことから、付近の防犯カメラ映像を回収し、犯行時間帯の映像を精査。容疑車両が枕崎署の捜査車両であることを確認し、同時刻に車両を使用していた捜査員を特定。
・同署は警察職員による盗撮容疑事件と判断し、県警本部刑事部へ通報。
・本部指揮事件であることから本部の指揮を受け、早急に当該職員のスマートフォンを差し押さえて画像を解析し、事情聴取、強制捜査へと向かう方針で検討していたところ、本部から「静観しろ」との指示。
・事件は隠蔽されたが、枕崎署は再犯を防ぐため、全署員に対し「盗撮防止」の教養を実施。
・令和6年春、当該職員が人事異動で配置換え。
元部長は枕崎署の速報先を「刑事部」としたほか、「静観しろ」と指示したのも当時の刑事部長だったと記している。これに対し、県警は刑事部に関する記述部分を「虚偽」だと説明してきた。確かに速報先や「静観しろ」の指示を出したのは当時の刑事部長ではない。“刑事部”もしくは“刑事部長”が「虚偽」であることは確かである。しかし、告発者の氏名や関係部署が虚偽であろうとなかろうと、告発文書に記載された「隠蔽」が事実なら、それを伝えようとした行為は「公益通報」に他ならない。逮捕された本田元生安部長が勾留開示請求の法廷で明らかにしたように、速報を受け不当・違法な捜査指揮を行ったのが野川明輝元本部長ならば、同元部長が罪に問われる謂れはない。本田氏の公判は、年内に始まる見込みだ。
(中願寺純則)















