安倍派幹部立件見送りで注目される森元首相の扱い

年明けの7日、自民党安倍派の政治資金パーティー裏金事件で、衆議院議員の池田佳隆容疑者と政策秘書が政治資金規正法違反(虚偽記載)の疑いで東京地検特捜部に逮捕された。池田容疑者は、文部科学副大臣などを歴任しており当選4回、うち比例復活が3回という“魔の4回生だ。池田容疑者逮捕までは上出来だったが、特捜部への称賛はそこまで。呆れたことに、安倍派幹部の立件が見送られるとの観測が強まっている。では、もう一人の大物への捜査の手は届くのか?

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政治資金規正法違反で逮捕にまで至ったのは、2010年1月に小沢一郎氏の秘書で当時の衆議院議員、石川知裕氏らが立件された陸山会事件以来とみられる。その際、小沢氏は逮捕されず、「バッジ(議員)の石川までやりながら、小沢氏にはまったく手が付けられず赤っ恥をかいた」――特捜OBの弁護士はそう振り返る。のちに小沢氏は検察審査会で起訴議決を受け強制起訴となったが、無罪判決が確定している。

同様に特捜部が政治資金で自民党の派閥に突っ込んだのが、2004年に日本歯科医師連盟が自民党の平成研究会(現在の茂木派)に1億円の闇献金をした事件。「毒まんじゅう」という言葉が一世を風靡した。しかし、特捜部が政治資金規正法違反の不記載で起訴できたのは村岡兼造元官房長官(有罪判決確定)だけ。平成研の中核だった橋本龍太郎元首相や野中広務元官房長官らは立件に至らなかった。そちらの事件では、明確な「謀議」と「指示」が明らかにできなかったことが大きな壁になったとされる。

安部派は安倍晋三元首相亡きあと、会長を置かずに安倍派5人衆とされる松野博一前官房長官、萩生田光一前政調会長、世耕弘成前参院幹事長、西村康稔前経産相、高木毅前国対委員長らによる集団指導体制をとってきた。

2022年、安倍派の内部では、キックバックと政治資金収支報告書の不記載をやめようという話が浮上した。「安部元首相がグレーなことはどうなのかといい、その意を受けた事務総長の西村氏がキックバックを中止しようと動いた。しかし、参議院選挙も近く、世耕氏が猛反対。そのまま継続となった。その翌年、高木氏が事務総長に代わるとキックバックはこれまでのようにごく普通に行われた。会長がいない安部派の実質的な親分は森喜朗元首相。キックバックの恩恵にもっとも預かってきたのは森元首相であり、その威光にすがって大臣や国対委員長という出世コースを歩んできたのが高木さんだ」安部派の参議院議員は指摘する。

安部派の裏金事件は、元特捜部長の森本宏最高検察庁刑事部長が指揮を執っているといわれている。森本氏は秋元司元衆議院議員のIR汚職や日産のカルロス・ゴーン氏の事件など数々の難題を立件してきた人物。22年にはじけた、元電通役員の高橋治之被告の東京五輪談合も森本氏が積極的に捜査を命じたという。

東京五輪の談合事件で高橋被告は一貫して否認。現在も公判中だが、共犯者は有罪が次々に確定している。しかし、本来ならここに一人、特捜部が立件しなければならなかった大物がいる。それが東京五輪の組織委員会会長だった森元首相だ。

五輪参入を狙っていた紳士服メーカーのAOKI側から、病気見舞いという名目で200万円を受け取っている森元首相には、「口利き」などの関与が疑われ、その供述調書も裁判で明らかになったが、特捜部の手は届かなかった。森元首相はかつて、いわゆるリクルート事件で未公開株を受け取り、1億円あまり利益をあげたと報じられたこともあった。まさに「疑惑まみれ」の大物だ。

捜査関係者は五輪談合事件の際、「逃がした魚は大きかった」と悔しがっていた。

「安部派5人衆が危ない、西村氏か世耕氏かとメディアには出ている。しかし、陸山会事件、日歯連事件でも謀議と指示で、明確なものがなかったと本丸までいかなかった。先の2人もその点で本当に立件できるのだろうか。当時の会長、安部元首相が何も語れない今、非常にむつかしい。特捜部はそちらより、高木氏と森元首相の関係を狙っていると漏れ伝わる」(前出・特捜部OBの弁護士)

森元首相の地盤は石川2区、高木氏は福井2区と同じ北陸地方だ。世襲の高木氏は父親時代から、森元首相とは近い存在だったという。高木氏は現在も安部派事務総長であり、高額のキックバックを受け取っていたこともわかっている。高木氏もすでに特捜部の取り調べを受けている。

高木氏で知られるのは「パンツ事件」。好意を抱いていた地元の有権者でもある女性のパンツを盗んで、警察にしょっぴかれた。だが、高木氏の父が敦賀市長でもあったことで、窃盗事件は闇に葬られたと報じられている。森元首相と高木氏、どちらも捜査当局に狙われる背景があるのだ。ある安部派の参議院議員は、「キックバックの不記載、裏金化は森元首相時代からはじまっている。要するに森さんが編み出した錬金術。実際、森さんの紹介で派閥のパーティー券を売っていた議員もいる。森さんのことですから、好意で紹介なんてことは考えにくく、キックバックをきっちりとられたと愚痴る議員もいます。今の安部派の幹部は『ずっとやってきた慣例をそのまま踏襲しただけ』というのが本音。だから、安部派の5人衆も『世耕が悪い』『西村の責任』と罪の擦り付け合い。本当は『森元首相のせい』と特捜部に言いたいが、さすがに口に出せないそうですよ」とした上で、「高木さんはパンツを盗んで、もみ消してもらうような人物。西村さんや世耕さんのようなクレーバーさはゼロ。酒を飲み、座持ちがいいだけの人ですよ。高木さんも、キックバックのカネを森さんに現金で持参しているという報道があった。一番悪いのは誰か、わかるでしょう」

森元首相は東京五輪談合以外にも数々の「疑惑」や「失言」にまみれた人物だ。政治資金パーティー裏金事件が大きくなる直前、なぜか都内の超高級老人ホームに妻と引っ越したという。しかし、年末にはパーティーに出席して酒を飲んでいたことが報じられるなど、実のところは意気軒昂とみられている。

ちなみに、その老人ホームのホームページを見ると、少なくとも入居時に夫婦で3,000万円以上の費用が必要。さらに、夫婦で月々最低40万円以上かかるというから、まさに最高級の施設だ。

「西村氏や世耕氏より森元首相のほうがはるかに大物。特捜部にとって森元首相は、東京五輪談合事件はじめ因縁がある相手。安倍派の幹部ではなく、そちらをターゲットにしているかもしれない」(前出・特捜部OBの弁護士)

森元首相の立件こそ、国民が待ち望むところではないか。

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