不当な捜査指揮で事件の実相をねじ曲げ送検する警察――。汚れた組織とグルになり被害者そっちのけで有罪率「99.9%」を優先させる非常識な検事――。その先にあったのは、予想通りの「不起訴」だった。
■流出した「事件処理簿一覧表」
ハンターは昨年10月、鹿児島県警幹部による不当な捜査介入について報じた。問題視したのは、強制性交の疑いで鹿児島中央署に告訴状を提出された男性が、逆に被害者の雇用主を名誉棄損で訴えた件の捜査指揮だった。
この件の捜査を指揮した中央署の当時の署長は、現在の県警刑事部長・井上昌一氏。同氏は、鹿児島西警察署が対応すべき名誉棄損事案を強引に中央署で処理させ、先に表面化した強制性交事件を捜査中だった強行犯係の警察官に対応させるという異常な捜査指揮を行っていた。その証拠が、県警内部から流出した下の2枚の「告訴・告発事件処理簿一覧表」である。いずれの事案も「署長指揮」と明記してある。
一覧表の記述から明らかな通り、中央署強行犯係が同一人を“被疑者”として『取り調べ』しながら、同時に“被害者”として『聴取』を行うという、テレビドラマでもあり得ない事態を招いていた。
さらに、二つの事件に関する捜査が行われていた間、強制性交の疑いが持たれていた男性の父親が、現役の警部補として中央署に在籍していたことも判明。子供でさえ“警察の正義”を疑いかねない暴走に、県警内部からも「不適切な捜査指揮だ」「捜査をやり直すべき」といった声が上がる事態となっていた。
警察は送検の際、起訴の必要性について意見書を付けるが、問題の強制性交事件が通常なら起訴を求める「厳重処分」の事案であるにもかかわらず、中央署は“上層部”の意向で、ワンランク落とした「相当処分」を付していたことも分かっている。
■問われる刑事部長の責任
上掲の文書がハンターに委ねられたのは、「警察一家」の身内が訴えられた本筋の強制性交事件を矮小化し、被害者と被害者側の関係者に攻撃を加えようとする県警幹部の姿勢に、現場の捜査員たちが危機感を抱いたからに他ならない。内部の反乱だ。そうした警察官たちに同調する関係者が確信をもって口にしていたのは「強制性交事件は不起訴になる」という予測。何度も検察庁に足を運ぶ井上刑事部長の姿を確認していたという関係者の間では、「(井上刑事部長が)強制性交事件を不起訴にするよう(検察に)働きかけている」という噂さえ出ていた。
性被害を受けた人の苦しみをよそに、警察一家擁護のため、署長権限をもって事実上の事件もみ消しとなる不当な捜査指揮を行った可能性がある井上刑事部長。異常とも思える動きについてある県警OBは、次のように話す。
「井上が中央署の署長だったのは一昨年の4月から昨年の春まで。署長就任直後に、西署管轄の事案を自分の署に処理するよう命じている。あってはならない捜査指揮だ。加害者とされた男性の父親が、警部補として中央署に在籍していることも知っていたはず。つまりは確信犯的な管轄無視だった。世間は、警察一家の擁護に走ったとみるだろう。守ったのが県民の命や尊厳ではなく身内だったとすれば、最低の警察官、最悪の刑事部長と言うしかない。強制性交事件を巡る県警の姿勢は、国会で二度にわたって批判された。この半年あまりの中央署の動きをみれば、刑事部長になっていた井上がプライドを傷つけられ、被害者側に憎しみを抱いた可能性さえある。県警内部では、井上の言動に批判的な声が少なくない」
■検察の不正義
歪められた捜査に基づく送検資料によって予断を与えられた検事が下した答えは、案の定「不起訴」。“正義”という言葉を忘れた捜査幹部たちが、痛めつけられた弱者の人生を狂わせているのが鹿児島県の現状と言えるだろう。
ハンターは昨年11月、県警内部から流出した前掲の文書を鹿児島地検に届け、捜査が歪められた可能性を指摘したが、検事に聞く耳はなかったらしい。検察が優先するのは、被害にあって苦しむ人の救済ではなく、有罪率「99.9%」の実績。「秋霜烈日」が聞いて呆れる。