救われぬ「いじめ重大事態」の被害者|鹿児島市教委第三者委員会、3年過ぎても結論出せず|沈黙続ける下鶴市長

 2021年5月、ハンターは鹿児島市立伊敷中学校で令和元年(2019年)に起きたいじめに関する記事を配信。複数のクラスメートによる“いじめ”によってターゲットになった女子生徒が転校を余儀なくされるという事態に発展したにもかかわらず、伊敷中と鹿児島市教育員会が共謀して真相を闇に葬っていたことを報じた。誰がみても、いじめ防止対策推進法が規定する「重大事態」にあたる事案だったが、報道までの1年半、「いじめは解消」とする虚偽報告がまかり通っていた。

 その後、2件の「重大事態」について報じたが、計3件の内「鹿児島市いじめ問題等調査委員会」(以下、第三者委員会)が報告書を公表したのは1件だけ。1件は当時の市教委と第三者委員会の姿勢に不信感を抱いた被害者側が調査報告書の受け取り自体を拒否、残りの1件についても意味をなさない会議が繰り返され、結論が出ない状況となっている。いじめ撲滅を目的に設置されたはずの第三者委員会が、被害者と被害者家族に苦悩を引きずらせている現状が、ある。

■学校と市教委が「重大事態」を隠蔽

 最初に明るみになったのは、2019年(令和元年)に鹿児島市立伊敷中学校で発生した複数のクラスメートによる“いじめ”。同校や鹿児島市教育委員会が共謀し、真相を闇に葬っていたことが判明している。担任や校長が保身に走ったのは明らかで、被害者である女子生徒が学期途中で転校に追い込まれたのをいいことに、「いじめは解消」したとする虚偽の記録を残して幕引きを図っていたことが分かっている。

 この件を追及したハンターの報道をきっかけに、次々と市内の小・中学校における重大事態の隠蔽が発覚。被害児童・生徒の保護者が、個人情報開示請求によって入手した文書から、歪む教育現場の実態が浮き彫りとなる。

 同年にハンターが報じた、重大事態として認知あるいは認知に向けた調査が必要とされたいじめは4件。このうち、転校や通学校の変更を余儀なくされた過去のケースが伊敷中の事例を含めて3件となっていた。いずれも「重大事態」に該当する悪質ないじめだったが、市教委への情報公開請求で入手した『いじめの実態報告』では「いじめは解消」となっており、当時の学校側と市教委青少年課が共謀して実態を隠したのは明らかだった。

 悪質な隠蔽の手口は他にもあった。下は、2018年(平成30年)に市内谷山にある小学校が作成した『いじめの実態報告』。ハンターが開示請求して入手したもので、問題となったのはNO11 のケースである。6年生のクラスでいじめを受け、学校と市教委が解決に動かなかったことから、やむなく学区変更を願い出た児童のいじめ事案に関する記録なのだが、『学区の対応』という欄に黒塗りの箇所がある(赤い囲みはハンター編集部。画像下に拡大)。

 伊敷中のいじめを報じたハンターの記事を見た保護者が改めて市教委に個人情報開示請求して入手した『いじめの実態調査』の『学校の対応』欄には黒塗りがなく、「本児童保護者から重大事態の申し立てがあり」と記されている。これによって、当初ハンターの情報公開請求に対応した市教委の青少年課が、意図的に前掲の黒塗り部分を隠していたことが明らかとなった。隠蔽を主導したとみられる当時の青少年課課長・猿渡功氏に反省する姿勢は皆無。報道をきっかけに埋もれていた「重大事態」が次々に発覚したが、同氏は責任も取らぬまま小学校長に転出している。

■悪質暴行、3年過ぎても未解決

 重大事態の隠蔽が報じられたことを受けた市教委は、第三者委員会を設置。3件のいじめについて関係者の聞き取りなどを進めたが、初動の遅れや学校と市教委の虚偽報告といった悪材料ばかりが揃っていたため調査は迷走。結果、被害を受けた子供とその保護者は、第三者委員会の歪んだ調査によって二重の苦しみを背負うことになる。

 伊敷中で起きた“いじめ”が隠蔽されていた問題を巡っては、第三者委員会や市教委の動きが信頼できないとして、被害者生徒の保護者が同委の調査継続を辞退。いじめ防止対策推進法が定めた「いじめの重大事態」を認めようとしなかった鹿児島教育界に強い不信感を抱いた保護者が、結論を待たずに“三くだり半”を突き付けるという極めて異例の事態となった。

 伊敷中の事例に続いてハンターが報じたのは、2020年に鹿児島市立伊敷台中学校で起きたいじめの重大事態だったが、これは“いじめ”というより「暴行事件」(県教委関係者の見解)。当該事案の被害者が受けたのは、一歩間違えば死に至ることが確実な暴力だった。

・首を吊り上げた形で絞める。
・お姫様抱っこして3階の教室から落とそうとする。
・両手で頭を押さえて扉などに打ち付ける。
・高所恐怖症を知った上での肩車。
・「死ね」、「殺すぞ」、「きもい」、「消えろ」、「臭い」といった日常的に繰り返された暴言。

 加害者が、被害者の頭を扉などに打ち付けるという暴行現場を現認したのは同中の教員。20年9月のことだ。その場で被害者と加害者の特定ができていたにもかかわらず、中途半端な指導が行われたせいで暴行は止まず、恐怖を感じた被害者家族は県外に緊急避難する。この件が重大事態と認められたのは暴行発覚から約9か月後の21年7月。そこから2年半経っても第三者委員会の調査報告は未完のままだ。22年7月にいったん答申案(調査報告)が作成されたが、内容は作り話、矮小化、責任逃れのオンパレード。第三者委は被害者側からダメ出しをくらい、凍結するというドタバタ劇を演じていた。下に、報告書の記述と真相の、大きな相違点だけをまとめた。

 いじめの発生からまもなく3年5か月、被害者は救われていない。下に、これまでの動きをまとめた。

 時間の経過とともに人の記憶は薄れるもの、関係者は関わり合いになることさえ避けるようになる。聞き取り調査は進まず、被害者に何度も確認を求めるという非常識な展開に――。さらに加害者側は「いまさら認めたくない」という気持ちになったらしく、被害者が仲良くしていた友人を巻き込んで責任逃れとも思える姿勢に転じたという。初動で「重大事態」を隠蔽したツケが、被害者に回ってきたということだ。いじめ発生当時の学校と市教委青少年課、そして第三者委員会に責任があることは言うまでもないが、今日まで誰も被害者に謝っておらず、調査の遅れによって心的ストレスは増すばかりとなっている。

■サッカー場建設には熱心だが・・・

 いじめ防止対策推進法は、重大事態が発生した場合、当該自治体の首長に報告するよう義務付けている。鹿児島市のトップは、2020年の市長選で多くの期待を受けて当選した下鶴隆央氏。しかし市長は、ハンターが報じてきた重大事態の隠蔽や、第三者委員会の失敗を知りながら、いじめの被害にあった子供たちに手を差し伸べることも、寄り添うこともしなかった。

 下鶴市長が熱を上げているのは、市議会も容認していない鹿児島港本港区北ふ頭でのサッカースタジアム建設計画。同港区ドルフィンポート跡地に新総合体育館の整備を進める鹿児島県との対立が続く状況だが、駄々っ子のようなマネはたいがいにして、政治家としての責任を全うするのが先だろう。いじめを受けて心や身体に傷を負った上、教育者の仮面をかぶった卑劣な大人たちに“事件”を隠蔽された子供の痛みや苦悩が理解できないというなら、下鶴氏に市長としての資格はない。

 2021年のハンターの報道をきっかけに相次いだ「重大事態」。市教委によれば、それまで「0件」だったものが報道のあった2021年に11件、22年に4件、23年に3件が認定され、本体6人のいじめ問題等調査委員会委員を臨時に増員し、3チームで対応しているという。

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