2022年、兵庫県洲本市が「ふるさと納税」の返礼品にしていた温泉券などの調達費が国が定めた寄付額の3割以下とする基準を超えているとして、総務省から2年間の制度除外にされた。第三者委員会がふるさと納税の実態調査を開始したがその後も次々と問題発覚。昨年11月、洲本市議会に、より強い権限を持つ特別調査委員会(以下、「100条委員会」)が設置された(既報)が、そこでの議論によって贈収賄や公職選挙法違反にも発展しかねない事案の概要が明らかになってきた。
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洲本市の上崎勝規市長は、2022年3月の市長選で初当選を果たした。上崎氏は、副市長時代から洲本市が出資する第三セクターでふるさと納税の返礼品を担当している「第一次産業振興公社」の社長も兼ねていた人物だ。
21年10月、洲本市はふるさと納税の返礼品として地元の素材を使った「おせち料理」2,000個を、大手旅行代理店JTBの関連会社に発注した。おせち料理は元日にあってこそ値打ちがあるもの。唐突に返礼品のラインナップに掲載したため申し込みは少なく、大量のおせち料理が余剰となった。
同年11月、上崎氏は次期洲本市長選への出馬を表明し、副市長を退任。発注権限がある10月から退任して「候補予定者」となる11月までのタイムラグを狙い、目を付けたのがおせち料理だった。
洲本市でふるさと納税を一手に担当していたのは、当時「魅力創生課長」だったS氏。同氏は、2020年にふるさと納税の寄付額を全国8位にまで躍進させた立役者と称賛されていた。
「S氏は洲本市が一気にふるさと納税で全国レベルになって『俺のおかげ』と言わんばかりでした。市役所の職員なのに、夏はTシャツ、冬はトレーナーというラフな格好で、肩で風切って歩いていた。とうてい職員には見えないような人物でした」と洲本市関係者が話す。
ハンターが入手したのは、洲本市の税金が投入されているおせち料理を、S氏が自由自在にしていたことがわかるメールだ。
21年12月16日、S氏が関係者に宛てたメールには次のように記されていた。
《シティプロモーションの一環で、12/31から元日にかけて、特にオートキャンプ場やログハウスを利用されている方に、お節料理をプレゼントしようと思うのですが、何セットくらい必要でしょうか。(3段重と1段重があります。100セットずつくらいでしたらどちらでも大丈夫です。)》
22年1月10には、洲本市の職員らにおせち料理の発送を指示するメールを発信していた。《3段重おせちの発注です。(337名+予備3個)》とあり、そのリストには洲本市在住の人物も入っている。その中のKという名前にピンときたので調べてみたところ、名産の淡路牛などを納入するふるさと納税事業者であることがわかった。前出の洲本市関係者がこう話す。
「Kさんの経営するグループ会社は、ふるさと納税事業者としては間違いなくトップの売り上げでした。Kさんは頻繁に市役所に出入りしており、上崎氏が市長になればS氏が副市長になり、益々事業者としての商売を拡大できることがわかっていはず。Kさんの会社には多数の洲本市民もいますので、そこにおせち料理をタダで提供すれば、ある意味贈収賄になりかねない。上崎市長がおせち料理を好き勝手にできるS氏を通して買収のネタに使っていたというのは、市役所では有名な噂話です」
バラマキ事例の一つとして、2022年1月に成人式を迎えた洲本市の若者たちに、おせち料理を無償で配布していたことがあげられる。ハンターが入手した洲本市の内部資料には《新成人への配布 350個 金額11340(1千134万円)》とあった。
るさと納税の返礼品だったおせち料理だが、実際に使われたのは発注された2,000個のうち730個。半分以上が目的外使用というデタラメぶりだった。
問題のおせち料理は、3段重と1段重の合計で440個が余剰となっていることが内部資料からもわかる。その一部が保管されていたのは、K氏の関係する会社の業務用冷蔵施設で、所在地は上崎氏の自宅の隣という分かりやすい構図だった。
おせち料理作戦が功を奏したのか、上崎氏は洲本市長選で初当選。22年4月に洲本市と南あわじ市のゴミ焼却施設を運営する事務組合「やまなみ苑」の管理者に就任する。
そして、同年4月14日のこと。上崎市長宅の隣にある冷蔵施設の前に洲本市の公用車が止まった。積み込まれたのは、余剰になっていたおせち料理約100個。洲本市の2人の職員は、「やまなみ苑」におせち料理を持ち込み焼却したという。洲本市魅力創生課は「やまなみ苑」に対して1,690円を支払っており、ハンターは伝票の写しも入手している。
上崎市長は、おせち料理を廃棄したことで選挙買収の証拠を消そうとしたのではないのか?前出の洲本市関係者は次のように語る。
「おせち料理を冷蔵施設に保管してれば保管料が発生します。しかし洲本市が支払った形跡はありません。K氏は、洲本市から新たな仕事を受注することを狙って、料理をタダにした疑いがあります。市長が、洲本市の消防関係者、医療関係者、市議らにおせち料理をバラまいていたという噂は、市役所で知らぬ者がないほどです。『おせち料理、うまかった』と自慢している市議もいるのですから呆れたものです。買収に問われかねない話ですよね」
洲本市は、ふるさと納税の問題について市民説明会を実施したが、その際、噂になっていたおせち料理の焼却処分について市民から質問を受けた市長は、「知りません」と回答。すると市民の一人から「お前の家の横に保管していただろう」と突っ込まれ、しどろもどろになったという。
こうした市政トップの態度に激怒した市民が、上崎氏を刑事告発した模様だ。数々の疑惑を抱える市長は、AERAdotの取材に《刑事告発されていることは知りませんでした》とシラを切ったという。
「AERAdotの記事が出た直後、上崎氏が『誰が告発した』と必死で洲本市職員や市民を対象に犯人捜しをしていると聞き、絶句しました。周囲には『刑事告発は知らない』と冷静を装っていますが、『まだ事情聴取もない』と事実上告発されたのを認めているんです。上崎氏が数時間市役所から席を外すだけで、『事情聴取ではないか』と職員がひそひそ話をするほど緊迫しています。上崎氏やS氏の指示に従ってきた竹内通弘前市長、浜辺学副市長らが刑事告発されるのは当然ですが、焼却のため料理を運搬したり、公文書に押印したり、新成人のリストをS氏にメールした職員も刑事告発されているそうで、かわいそうです。すでに検察が市役所に資料提供を求めてきたという話もあります」(前出・洲本市関係者)
ハンターは、刑事告発をした地元住民にたどり着いた。告発者は言う。「検察なり警察に事件にしてもらったほうがいいという職員が多数いて、その声に押される形で刑事告発した。疑惑はおせち料理だけではないが、捜査されないのは地元兵庫9区選出の西村康稔代議士(前経産相、安倍派元事務総長)の圧力ではないかという市民もいる。洲本市には自浄作用がない。捜査当局に期待するしかない」
確かに洲本市の疑惑は既報の通り、おせち料理だけにはとどまらない。ここに来て、返礼品の一つだった洲本温泉利用券の偽造も発した。
《兵庫県洲本市は17日、ふるさと納税の返礼品の「洲本温泉利用券」で偽造品が見つかった、と発表した。洲本署に相談し、同署が詐欺容疑で捜査している。市によると、昨年12月に匿名のメールで偽造品がネット上で出回っている、と市に連絡があった。調べたところ、年明けになって利用券記載の番号が本来のものと異なる複数の偽造品を確認できたという》(1月17日 朝日新聞電子版より)
洲本市の闇は底なしだ。