札幌・民放の不適切取材疑いにBPO「問題ない」|「納得できない」と優生保護法被害者

旧優生保護法の強制不妊被害者が各地で起こした国賠訴訟を巡り、札幌の民放局が原告の男性への不適切な取材を指摘されていた問題で、男性から審査の申し立てを受けていた放送倫理・番組向上機構(BPO)放送人権委員会は16日、当時の取材・報道に問題はなかったとする審査結果を発表した。同日午後に会見を開いた男性は、委員会決定に「納得できない」と疑問を顕わにしている。

■“やらせ”の訴え、実らず

BPOが審査していたのは、札幌の民放局・札幌テレビ放送(STV)のローカル番組『どさんこワイド179』内で昨年4月に放映されたニュース。旧優生法の強制不妊手術被害者として国賠訴訟を起こした札幌市の小島喜久夫さん(79)が、当時受付が始まった「一時金」の受給を申請したとするスクープだった。

当初から国の一時金支給に批判的だった小島さんは放送後、訴訟代理人らに「記者に促されるまま申請してしまった」と打ち明け、2カ月後にBPO申し立てに踏み切った。これに対しSTVは「記者からのはたらきかけはなく、適切な報道だった」と反論している。

小島さんによるとSTVの記者は、申請受付の開始を小島さんに伝えた直後、申請用紙を持参して記入を促したという。翌朝にはタクシーを手配して申請窓口まで小島さんを送迎、記者が窓口に同行して受付を終えるまでの一部始終を撮影・放送した。一時金受給は小島さんにとって本意ではなく、のちに申請を取り下げるに到っている。

16日の発表でBPO放送人権委は、申請は小島さん自身の意思によるもので、記者によるはたらきかけなどはなかったとし、放送内容にも事実の歪曲はないと結論づけた。取材・報道に倫理上の問題はなく、人権侵害もなかったことになる。

■BPOのいう「踏み込みすぎ」の取材とは・・・

これを受け、BPO発表後に札幌市内で会見を開いた小島さんは「納得できない」と、改めて次のように訴えた。

「私らはシロウトで、新聞社やテレビ局の人に『こういうもんだ』と言われたら『そういうもんか』と思ってしまう。STVの人が家まで申請書類を持ってきて、当日もタクシーで迎えに来るということがなかったら、そもそも申請はしていない」

会見に同席した訴訟代理人らは、申し立てが認められなかった結果に疑問を呈しつつ、放送人権委の決定文に「補足意見」が添えられていたことを示し、「BPOは当時の取材に『踏み込みすぎ』があったと指摘した。これだけでも審理を申し立てた意義があり、メディアの皆さんには今後も適切な取材をお願いしたい」と訴えた。決定には不服申し立ての制度がなく、今回の結果は「受け入れるしかない」としている。

BPOの決定を受けたSTVは「当社の主張をご理解いただいた」との認識を示し、「引き続き被害者の方々に寄り添い、正確で公正な報道を継続していく」とコメントしている。

小島さんの国賠訴訟は本年9月に結審、来年1月に札幌地裁で判決が言い渡される。BPO申し立て以降、小島さんはSTVの取材に対応を控え続けているところで、訴訟代理人は「今後の対応については改めて検討したい」としている。

※ 16日の放送人権委決定は、BPO公式サイトで全文を公開中(全文は→こちら

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。
北方ジャーナル→こちらから
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