2022年に事故死したタレント・仲本工事さんの妻が、近く複数の週刊誌に損害賠償を求める裁判を起こす。根拠のないバッシング記事やそれらに基づいたインターネット上の誹謗中傷などからの被害を訴えるもので、いわゆるジャニーズ裁判で週刊誌『週刊文春』を勝訴に導いた弁護士が訴訟代理人を引き受けることになる。先んじて上梓された手記では朝日新聞の元記者で同紙の特別報道部長を務めたジャーナリストが構成を担当しており、報道の自由の体現者らが報道被害を告発する争いに注目が集まりそうだ。
■仲本さんの妻を追い詰めた週刊誌報道
週刊誌『週刊新潮』などを相手どり損害賠償請求訴訟を起こすのは、2012年に仲本工事さんと結婚した歌手の三代純歌さん。先の手記などによれば、三代さんは22年秋ごろから同誌などに「モンスター妻」と報じられ始め、存在しない愛人との関係や仲本さんへの虐待、自宅の「ゴミ屋敷」化など、身に憶えのない“事実”を発信され続けた。
自宅などを直撃する記者に反論を寄せても聴き入れてもらえず、「うそを平然とつく人」などと書かれ、仲本さんの急逝も相まって一時は死を考えるほど追い詰められたという。
複数の週刊誌がほとんど同時に共通の逸話を掲載したり、記事見出しや本文がほぼ同じ文言になっていたりしたこともあるといい、手記では逐一、当時の報道へ反論しているほか、週刊誌各誌が情報源としていた人物を特定し、悪意あるストーリーに基づいた報道を強く非難している。
■「書く側」の守護神が「書かれる側」の代理人に
今回、問題を法廷に持ち込む決意を固めたのは、いわゆる報道被害に泣き寝入りせざるを得ない人たちが多くいる事実を知るに到り、「誰かが声を上げなくてはならない」と考えたため。本年1月下旬に陽の目を見た手記は、趣旨に共感した元朝日新聞記者・依光隆明氏が三代さんへインタビューを重ね、聞き書きの形でまとめ上げたものだ。
近く提訴する裁判で三代さんの代理人を引き受けるのは、いわゆるジャニーズ裁判で『週刊文春』の代理人として実質勝訴を勝ち取った実績などで知られる喜田村洋一弁護士(第二東京弁護士会)。「書く側」の言論の自由を守ってきた専門家が「書かれる側」に寄り添って言論の暴走を喰い止めようとする構図には、各方面から注目が集まると思われる。関係者によれば、原告の三代さんは訴えを起こすにあたり、次のように話している。
「SNSでの誹謗中傷による自殺が相次いでいますが、私は亡くなった人の気持ちが少しわかります。売るために週刊誌がでたらめな記事を載せる。その記事がSNSに火をつけ、的になった人をさらに追い詰める。多くの場合、的になるのは私のような弱者です。そのような負の連鎖に私は一石を投じたいと思いました」
27日午後、東京都内で記者会見を開いて提訴を発表する予定。先の『週刊新潮』に加え、『女性自身』及び『週刊女性』の計3誌を相手どることになるという。
三代純歌さんは高知県出身の歌手。2001年ごろに仲本工事さんと出会い、12年に結婚したが、週刊誌報道が過熱するさなかの22年10月、不慮の交通事故で仲本さんと死別した。仲本さんは、三代さんを週刊誌記者からガードするため三代さんの切り盛りする飲食店に駈けつける途中、高齢男性の運転する車に轢ねられて亡くなった。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |