三つの衆議院補欠選挙がはじまった。最も注目されるのは東京15区。柿沢未途氏の公職選挙法違反事件を受け選挙を余儀なくされたことで自民党は不戦敗、公明党も動かないという異例の選挙戦だ。そうした中、人気を誇ってきた小池百合子東京都知事の足もとが大きく揺らぐ状況になっている。
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4月13日、14日の両日に行なわれた東京15区の情勢調査の数字は、以下のような結果だった。
・酒井なつみ(立民) 30.9
・金沢ゆい(維新)11.9
・飯山あかり(保守)10.9
・乙武洋匡(無) 8.3
。須藤元気(無)5.5
・秋元 司(無)4.4
・吉川里奈(参政) 3.6
立憲民主党の酒井氏が大きく2位以下を引き離す状況だ。驚くのは、東京都の小池知事が特別顧問のファーストの会と国民民主党が推薦している乙武氏が4位と大苦戦していることだろう。
乙武氏は選挙戦直前の演説で、聴衆から女性スキャンダルについてヤジが飛び「5股じゃない、5人と不倫だ。前提が違う」と食って掛かり、自ら不倫騒動を再燃させ、ネットでもバズってしまった。
選挙戦初日、乙武氏のスタートはJR亀戸駅前だったが、そこで「つばさの党」から補選に出馬した根本良輔氏と鉢合わせ。乙武氏は、警官が大量に動員され、騒然とした中で演説した。「やりたいのは建設的な政治、そして寄り添う政治です」と訴えるが、嫌気がさした聴衆が次々にその場から去っていった。
マイクが小池知事に渡ると、ようやく聴衆が戻り始め「乙武さんは五体不満足ですが、政治では皆様を満足させます」――得意の小池節だったが、思ったほどの勢いはない。ある自民党の東京都連幹部はこう話す。
「乙武氏は、過去の選挙でも自民党か維新かと注目され、結果としては落選。維新だ自民党だと変な駆け引きをするので、選挙に詳しい者からすると新鮮味がない。それ以上にスキャンダルが注目されすぎて浮動票がとれない。世論調査の結果をみてもなるほどと感じますね。ただ、小池知事がバックについているので、そのご威光でどこまで巻き返せるか。小池知事が公明党に話をつければ、当選圏に浮上してくる」
都議会では小池知事をガッチリと支えている公明党。しかし、「乙武氏は避けてほしいと言っていたのに、一方的に小池知事から『よろしくね』と通告があった。まったくこちらの意向は無視ですよ。うちの婦人部は怒っているので、小池知事が頼んできても、乙武氏の票はそう伸びない」と公明党の関係者は言う。
小池知事は、ここで敗れると7月に投開票が予定されている東京都知事選挙の戦略が大きく揺らぐ。東京15区で圧勝して、自民党から候補は出させないという展開に持ち込めない。そこへ、東京都の元特別顧問、小島敏郎氏の内部告発で学歴詐称問題が再燃。カイロ大学卒業問題で追い込まれた。
4月17日、弁護士でもある小島氏は記者会見で「刑事告発することも辞さない」と発言。7月の選挙で選挙公報に「カイロ大学卒業」と記せば、告発される可能性が高い。告発された場合、小池知事は捜査機関に対し「カイロ大学卒業」を立証する責任を負う。
知事は定例会見で「選挙になれば、この話が持ち出される」と選挙妨害といわんばかりの強気で押したが、都庁幹部は「カイロ大学卒業の話が炎上して、都知事選には出馬しない方向という話が都庁内で急浮上しています。おそらく、解散総選挙が近いので国政狙いではないか」と話す。
岸田文雄首相は、国賓としてのアメリカ訪問の実績を強調するが、支持率はほぼ横ばい。「爆上がりを狙ったがまったくの期待外れ」(自民党幹部)で、このままでは9月の総裁選までもたず、一か八かで解散総選挙に打って出るとの声が多く聞かれる。小池知事もそのタイミングを狙っているというのだ。
一方で、意外と支持を伸ばしているのが、「諸派」扱いではあるが日本保守党の飯山あかり氏。作家の百田尚樹氏と名古屋市の河村たかし市長が共同代表だが、選挙戦初日、最も聴衆が多かったのが日本保守党だった。
確かに、亀戸駅近くで乙武氏の演説後に行われたの同党のパフォーマンスには、ほとんど告知もない中で300人以上が集まり、人気の高さをうかがわせた。
びっくりすることに、情勢調査でも乙武氏を上回る3位。自民党の候補がおらず、保守層の支持が流れているとみられている。
「うちは動員もなにも、大きな組織がない。それなのにあれだけ集まってくれた。人数はわからんが、ありがたいことだ。感触から当選も夢じゃない。乙武氏に勝つとなればすごいことだ」と河村氏は自信ありげにそう話す。
3期目も安泰とみられていた小池知事。東京15区と「学歴詐称」で一転して瀬戸際に追い込まれた。