北海道新聞で情報漏洩隠蔽か|北方ジャーナルの取材受け8日にも公表へ

北海道内最大の報道機関・北海道新聞(札幌市中央区、宮口宏夫社長)で2年前、記者の取材メモが外部に漏洩する不祥事があり、同社が早ければ10月8日にも紙面で事実を公表することがわかった。不祥事は本年9月下旬には公知の事実となっており、道新はこれまでその公表を控えていたが、10月初旬に地元誌「北方ジャーナル」の確認取材を受けて急遽、公表を決めたとみられる。

■取材メモ置き忘れ情報漏洩

取材情報漏洩が起きたのは2020年11月。地元小売業者の役員人事をめぐり、道新の記者が関係者に電話取材した内容がその日のうちに別の関係者に漏れ、被取材者が「秘密保持契約違反」を問われることになった。

当時、道新本別支局(十勝管内本別町)の記者が取材したのは、道内で食品スーパーを展開する小売業ダイイチ(帯広市)の前社長。同社の役員会で社長解任が決まった直後のことで、同前社長は道新記者の問いに「とても不本意だ」「仕組まれた気がする」などと語っている。このやり取りをQ&A形式で900字ほどにまとめた道新記者は、ほかの経済担当記者と情報を共有する目的で社内端末から原稿を「出稿」した。形としては「記事」を社に送ったことになるが、それがあくまで内部向けのメモの域を出ていないのは、内容からあきらかだ。

これを受け、道新では帯広支社の別の記者がダイイチ新社長サイドへ取材を試みることになり、同日中に担当記者が新社長を訪ねた。帯広の記者はこの時、先の本別支局から出たメモをA4判紙3枚に出力して持ち出している。取材の参考にする目的だったと思われるが、本来外に漏らしてはならない情報を文書の形で取材先に持ち込んだのが失敗のもととなった。同記者は取材後、くだんのメモを新社長のもとに置き忘れてしまったのだ。

メモを眼にすることになったダイイチ新社長は、これを介して前社長の発言をつぶさに知ることになり、衝撃を受けた。というのもまさにその日、前社長とダイイチとの間で「秘密保持契約」が取り交わされたばかりで、契約書には役員人事の「経緯」や「理由」などを遺漏してはならないとの条文が明記されていたのだ。これを新聞記者に漏らした前社長は、結んだばかりの契約をあっさり破ったことになる。

■民事訴訟で明るみに出た「取材メモ」

企業人や官僚などの公人が旧知の報道関係者とオフレコで情報交換すること自体は、決して珍しいことではない。一定の信頼関係を前提としたやり取りがその日のうちに流出するとは、ダイイチ前社長にとって想像もできなかった筈だ。Q&Aには、新社長を快く思わない前社長の語りなども生々しく記録されている。

この件ではダイイチ側・前社長側のいずれも、筆者の取材にノーコメントを貫いている。ならば、以上の事実がわかったのはなぜか。前社長が退職金の支給時期などを不服としてダイイチを訴える裁判を起こし、審理の過程で先の道新メモが証拠提出されたためだ。裁判によってメモの存在は公知の事実となり、2年前の情報漏洩があかるみに出た。

■隠蔽一転あわてて公表

本年9月末にこれを掴んだ筆者は、10月15日発売の地元月刊誌『北方ジャーナル』でメモ漏洩の事実を報じるべく、同4日付で道新の広報担当に取材を申し入れた。客観的な事実が確認できたとはいえ、当事者である道新の言い分をまったく聴かないわけにはいかない。雑誌の原稿締め切りは同6日の夜。筆者は同日までの回答を道新に求めたが、結果として回答は締め切りに間に合わず、広報担当者は「いつごろお答えできるかもわからない」と説明した。問題はここからだ。

先のダイイチ裁判は昨年3月に前社長が釧路地裁帯広支部に提起したものだが、同支部での審理は本年8月まで12回にわたって非公開の弁論準備手続きが重ねられ、初めて公開の法廷で口頭弁論があったのはつい最近、9月26日のことだった。取材によれば、関係者8人が証人尋問に立ったその弁論を複数の道新関係者が傍聴、法廷でのやり取りを社に報告していた。つまり道新は、遅くともこの時までに2年前の不祥事を把握したことになる。とうにそれを知っていたのだとすれば、この段階でそれが公知の情報となったことを把握した。下世話な言い回しを使うなら「隠しきれなくなった」状況を悟った。

この審理公開を受けて道新は急遽、読者・道民に向けた報告記事を用意、早ければ尋問の翌日にも公表する方向で紙面掲載を検討していた。ところがこれは見送りとなり、今日に到るまで陽の目を見ていない。再び下世話に言うと「隠しおおせる」と踏んだためだ。くだんの尋問を自社以外の報道機関が傍聴しなかったことが確認できたためと思われる。

だがその翌週になって筆者が取材を打診。前週の時点で読者への公表を検討していた道新は、すでに対外的な説明の内容を固めていたことになり、週を跨いだ雑誌の問い合わせに即答を返すことができた筈だ。しかし同社はそれをせず、雑誌の締め切りが過ぎるのを待った上で、同誌の発売前に先回りして自らの紙面で事実を公表することを選んだ。一度は掲載を見合わせた不祥事報告記事を改めて紙面に載せる時期は、早ければ10月8日。おそらくは、あたかも内部調査で過去の不祥事がわかったかのような言い回しが使われることになる。

4日の取材申し入れの僅か2時間半後、道新は筆者に“逆質問”を寄せ、「記事を掲載するのは北方ジャーナルのみか」と尋ねてきている。筆者はこれに「私には言論の自由があり、知り得た事実は将来にわたりどんな形であれ発信する権利がある」と回答。その言葉の通り、これまで知り得た事実を本サイトを通じて伝えることにした次第だ。

2年間にわたって公表されなかった、深刻な不祥事。道新がそれを本年9月の裁判傍聴で初めて知ったとみるのは、いかにも無理がある。信頼する記者とのやり取りを漏らされたダイイチ前社長がただちに道新へ抗議・苦情を寄せなかったとは、とても考えられないからだ。しかし前述のように前社長は現時点で筆者の取材に応じておらず、一方の道新も地元誌への回答時期を示していない。3年越しの不祥事報告となる道新記事の最速の掲載日は、先述の通り今月8日。同日は土曜日で、祝日を含む三連休の初日にあたる。地元の報道各社がこの件に関心を寄せたとしても、道新への確認取材は週明けの火曜日まで不可能となる。

同件では引き続き取材を進めることとし、雑誌発売前の先回り公表の情報を掴んだ筆者が道新の広報担当者に伝えたひと言をもって、本稿を締め括りたい――「御社の役員に『やり方はどうかと思う』とお伝えいただきたい」。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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