鹿児島市立伊敷中で2019年に起きた「いじめの重大事態」が隠蔽されていたことを速報で報じてから、1年4か月以上が過ぎた。いじめの重大事態とは、「いじめ防止対策推進法」が規定する次のケースにあたる事案だ。
伊敷中のケースについて詳細を報じる中、2例目、3例目となる隠蔽事案が発覚。その後、鹿児島市における重大事態の認知件数は12件にまで増加している。
重大事態についての認識が改まったことは評価できるというものの、数々のいじめを隠蔽してきた鹿児島市教育員会やいじめ発生当時の学校関係者が、被害者やその家族に「謝罪した」という話はまったく聞こえてこない。反省する意思がないということらしいが、それは、いじめの重大事態について文部科学省が定めた「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」が、守られていないことを示している。
■守られぬ「ガイドライン」
ガイドラインは、冒頭の「基本的姿勢」の中で、次のように規定する。
○ 学校の設置者及び学校は、いじめを受けた児童生徒やその保護者(以下「被害児童生徒・保護者」という。)のいじめの事実関係を明らかにしたい、何があったのかを知りたいという切実な思いを理解し、対応に当たること。
○ 学校の設置者及び学校として、自らの対応にたとえ不都合なことがあったとしても、全てを明らかにして自らの対応を真摯に見つめ直し、被害児童生徒・保護者に対して調査の結果について適切に説明を行うこと。
残念なことに、「いじめを受けた児童生徒やその保護者の切実な思いを理解」し、対応に当たってきた政治家や役人は皆無に近い。
「自らの対応にたとえ不都合なことがあったとしても、全てを明らかにして自らの対応を真摯に見つめ直し」た、いじめ発生当時の学校関係者や市教委の人間は誰一人いない。
そもそも、鹿児島市の公立校で起きた「いじめの重大事態」は、ハンターが隠蔽の事実を報じるまで話題にもなっていなかった。これは、ガイドラインの次の規定に著しく反する。
(重大事態の定義)
○いじめの重大事態の定義は「いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき」、「いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき」とされている。改めて、重大事態は、事実関係が確定した段階で重大事態としての対応を開始するのではなく、「疑い」が生じた段階で調査を開始しなければならないことを認識すること。
ハンターが取り上げた問題の3件は、どれも被害者が転校を余儀なくされた重大事態。いじめというより暴行障害事件と言うべき事案もあった。3件とも「疑い」どころか、明らかな重大事態だったにもかかわらず、当時の学校や市教委は積極的に動かず、被害者が転校するように仕向けていた。「「疑い」が生じた段階で調査を開始しなければならない」は、ただのお題目だった。その結果、ガイドライが懸念した「「疑い」が生じてもなお、学校が速やかに対応しなければ、いじめの行為がより一層エスカレートし、被害が更に深刻化する可能性がある」に進んでいた。(*下、参照)
(重大事態として早期対応しなかったことにより生じる影響)
○ 重大事態については、いじめが早期に解決しなかったことにより、被害が深刻化した結果であるケースが多い。したがって、「疑い」が生じてもなお、学校が速やかに対応しなければ、いじめの行為がより一層エスカレートし、被害が更に深刻化する可能性がある。最悪の場合、取り返しのつかない事態に発展することも想定されるため、学校の設置者及び学校は、重大事態への対応の重要性を改めて認識すること。
最大の問題は、ガイドラインに示された、次の指示が守られていないことだ。
被害児童生徒・保護者等に対する調査方針の説明等
(説明時の注意点)
○ 「いじめはなかった」などと断定的に説明してはならないこと。※詳細な調査を実施していない段階で、過去の定期的なアンケート調査を基に「いじめはなかった」、「学校に責任はない」旨の発言をしてはならない。
○ 事案発生後、詳細な調査を実施するまでもなく、学校の設置者・学校の不適切な対応により被害児童生徒や保護者を深く傷つける結果となったことが明らかである場合は、学校の設置者・学校は、詳細な調査の結果を待たずして、速やかに被害児童生徒・保護者に当該対応の不備について説明し、謝罪等を行うこと。
「学校の設置者・学校の不適切な対応により被害児童生徒や保護者を深く傷つける結果となったことが明らかである場合は、学校の設置者・学校は、詳細な調査の結果を待たずして、速やかに被害児童生徒・保護者に当該対応の不備について説明し、謝罪等を行うこと」とある。しかし、鹿児島市のおいて、この規定はただの謳い文句。教育関係者も、政治家も、一顧だにしない。
いじめの実態を隠蔽した学校関係者と鹿児島市教委で、ハンターが報じてきた伊敷中を含む3件のいじめの被害者側に、「対応の不備について説明し、謝罪等」を行った者は一人もいない。重大事態の報告を受けた鹿児島市長も市議会議員も、政治の無策で被害救済ができなかったことについて謝ろうともしていない。ガイドラインどころか、政治や行政の果たすべき責任さえ全うできていないのが現状だ。
鹿児島市教委は昨年6月、『いじめ防止対策推進法』に基づき設置された「第三者委員会」(正式名称:鹿児島市いじめ問題等調査委員会)に3件のいじめについて検証を諮問。第三者委員会が個別の事案に関する調査を続けてきたが、何の進展もないまま、だらだらと会議の回数だけを重ねている。
いじめの被害を受けて苦しんできた子供やその保護者に、なぜ誰も謝らないのか――?答えられる人がいるなら、ぜひ話をうかがいたい。
(中願寺純則)