原告、目撃者ら「興奮状態」否定|ヤジ排除訴訟で警察主張に反論

 警察官らの証人尋問を終えた首相演説ヤジ排除事件の国家賠償請求訴訟で10日、訴えを起こした排除被害者らが札幌地方裁判所(廣瀬孝裁判長)で証人尋問に臨み、改めて排除が法的根拠を欠いた不当な行為だったことを証言した。同日は排除を目撃した市民も証言台に立ち「現場ではトラブルが起きる兆しもなく、警察はヤジを理由に排除したとしか思えない」などと明言した。

◇  ◇  ◇

 国賠訴訟は、一昨年7月に札幌市で安倍晋三総理大臣(当時)に「やめろ」などとヤジを飛ばして警察に“排除”された同市の大杉雅栄さん(33)と、「増税反対」と叫んで複数の警察官につきまとわれるなどした桃井希生さん(26)が北海道警察を相手どって提起したもの。原告の大杉さんらはこれまで、現場で撮影された多くの写真や映像などを証拠提出、ヤジを飛ばした直後に大勢の警察官に掴みかかられる場面が法廷のモニターや地元テレビの報道などで繰り返し示された。

 複数の「動かぬ証拠」があるにもかかわらず、被告の道警は「原告を睨みつけている人がいた」「原告は興奮して危険な状態だった」「安倍氏支持者と喧嘩に発展するおそれがあった」などの主張を展開、当時の排除行為がいずれも警察官職務執行法に基づく適法な行為だったと弁明し続けている。

 本サイト既報の通り、今月9日には現場にいた警察官らの証人尋問があり、現職の3人がしばしば珍答弁をまじえつつ排除の正当性を主張した。道警はすでにヤジそのものが公職選挙法違反にあたらないことを事実上認めており、このため証人の警察官らはもっぱら警職法4条の「避難」あるいは同5条の「制止」措置として排除が適切だったと論を張ることになる。具体的には、当時の現場で大杉さん・桃井さんと聴衆との間で起こるおそれのあったトラブルを回避する必要があった――、などの主張だ。

 10日の尋問では原告本人らが改めてこれを否定、聴衆らはむしろほとんどヤジに無関心だった事実などを証言した。道警側の反対尋問では、被告代理人が矢継ぎ早に現場の危険性を強調する質問を放ち続け、大杉さんらが苦笑まじりに対応する場面も。大杉さんが安倍前首相に声を届かせるため近くのフェンスに脚をかけた瞬間をとらえては、被告代理人が次のように詰め寄っている。

被告代理人:あなたこの時、フェンスに上ってませんか?
大杉さん:背伸びしていたのは事実ですね。

被告代理人:他人の敷地ですよ、他人の所有物ですよ。
大杉さん:駐車場のフェンスですよ。誰でも自由に入ってますよ。

被告代理人:入れませんよ。私が持ち主だったら怒りますよ!
大杉さん:じゃあ、あなたのフェンスには上りません。

 続く桃井さんの尋問では、被告代理人が繰り返し「あなたは興奮していた」と迫り、当時の警察官の排除行為は興奮状態の桃井さんを落ち着かせるためだったとの結論へ導き続けた。同旨の主張は9日に出廷した警察官の口からも聴かれており、道警は飽くまでこの「興奮状態」に拘泥しているようだが、10日の法廷で桃井さんは、原告代理人とのやり取りの中で「現場の警察官も『興奮』を演出したがっていた」と飽くまで冷静に述べている。主尋問の一部を、以下に。

原告代理人:被告側証人は何度も『興奮』『興奮』と。あなた自身、そう評価されたことをどう感じていますか?
桃井さん:法的根拠を示されないまま取り囲まれたり腕を掴まれたりしたので、それに抵抗して叫んだことを『興奮』と言われているのかな、と思います。掴みかかられなければ叫ぶ必要はないので、叫ぶ理由を作った側が『興奮』とか言わないで欲しい。

 同日は大杉さんの知人女性も尋問に臨み、被告代理人の「危険が生じる場面でもヤジは正しいのか」との挑発に「声を上げることは正しいこと」と毅然と応じた。また桃井さんの排除行為を至近距離で目撃していた女性も同じ法廷で証言、やはり反対尋問で「原告は興奮していた」と水を向けられながらも「囲んで羽交い絞めにしていた警察の行為のほうがよほど危険」ときっぱり答えている。

 提訴以来12回を数えた口頭弁論はこの日で一つの節目を迎えた。原告の大杉さんは尋問後の報告集会で、改めて次のような思いを述べている。

 「声を上げる権利は“憲法が保障しているから”認められるべきというわけでなく、仮に憲法が変えられて『お前には何も言う権利はない』と言われたとしても、ぼくは『権利がある』と言い続けたい。もう“自然権”のように、生まれながらに持っている権利だという認識です」

 次回弁論は12月24日午前、札幌地裁で開かれる。裁判は同日で結審し、年度内にも一審判決を迎える見通しだ。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。
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