「日本大学事業部」代理人からの言いがかり

先週8日、東京地検特捜部が日本大学本部(千代田区)や関係先の家宅捜索に入った。日大医学部付属板橋病院(東京都板橋区)の建て替え工事を巡り、2億円もの学内資金が不正に流出した疑いがあるという。

この日捜索を受けたのは、日大本部の他、疑惑の核心をなすとみられている大学の関連会社「日本大学事業部」(世田谷区)、田中英寿理事長の自宅、田中氏が経営するちゃんこ料理店など。9日までに、大阪市の医療法人グループ「錦秀会」の関係先も事件に関与した疑いがあるとして捜索を受けている。

キーマンは、日本大学事業部の役員を兼ねている同大学の井ノ口忠男理事。田中理事長の側近で、錦秀会とのブリッジ役を果たしているとみられている人物だ。その井ノ口氏が役員を兼任している「日本大学事業部」の代理人だと称する弁護士が、今年2月、ハンターに信じられない内容のメールを送り付けてきた。

■田中体制下で設立され急成長した「日本大学事業部」

田中氏は2008年に日大の理事長に就任。数年経った頃から、同氏の回りには黒い噂がつきまとうようになる。利権あさり、反社との交際、独裁的な学校運営――。2018年に起きたアメリカンフットボールのタックル問題を契機に日大の歪んだ体質が問題視されるようになったが、誰も田中氏の首に鈴をつけることができなかった。「あの時に退任させていたら」――そう嘆く大学職員やOBは少なくない。

大学で生まれる利権をコントロールする装置が日大事業部だ。同社は2010年設立。自販機、大学グッズ、映像・音声ソフトなどの販売から各種コンサル、不動産、冠婚葬祭、理美容院の経営といったものまで事業目的に列記されている。その数は、なんと74項目。日大に関係する全ての利権を網羅している形だ。現在5人いる取締役は全員同大の理事、学長もその中の一人というのだから呆れるしかない。16学部で学生数約70,000人、卒業生100万超というマンモス大学の物品購入は、ほとんど日大事業部を通すのが通例になっている。同社の年間売り上げは70億円に上る。(*下は、日本大学事業部の商業登記の一部)

■日大事業部代理人からお粗末な“削除要請”

その日本大学事業部の代理人だという弁護士が今年2月、ハンターにとんでもない言いがかりをつけてきた。記事の削除申立てなのだが、あまりの内容の酷さに笑いが起きるほど。手っ取り早く済ませようという魂胆だったのか、申立ては内容証明などではなくただのメールで、しかも合理性のない理不尽な主張だった。以下、その文面である。(*太字加工はハンタ―編集部)

当職は、株式会社日本大学事業部より委任を受けた代理人弁護士です。
依頼会社を代理して、URLで示される投稿(以下、「本件投稿」といいます。)について削除の申し立てを致します。

URL:http://hunter-investigate.jp/news/2018/05/post-1202.html

本件投稿は、依頼会社の出資元である学校法人日本大学の大学名及び当該大学の理事長である田中英壽氏の実名が示されていることから同定可能性を有しています。

本件投稿には、田中氏について「黒い噂が絶えない田中体制」「反社勢力との関係が取り沙汰され、利権に関する話も絶えない」等の記載がされております。

当該記載は、田中氏が反社会的勢力と関係があるとの事実を摘示するものであり、一般の閲覧者に対し依頼会社も反社会的勢力との関係があるかのような誤解や不信感を与えるものであることから、依頼会社の社会的評価を低下させるものとして依頼会社に対する名誉毀損に該当します。依頼会社及び田中氏は暴力団との関係はなく、当該記載は事実と異なるものであることから、違法性阻却事由は存在しません。

また、田中氏や過去に依頼会社の取締役を務めた内田正人氏について、「本当に守ろうとしているのは、学生でなはく”体制”」「大学組織がマヒしているのは確か」「組織が腐った」等の記載がされております。

当該記載は、あたかも田中氏や内田氏が学生よりも自身の立場を守ろうとし、田中氏や内田氏の経営により組織が弱体化しているとの事実を摘示するものであり、一般の閲覧者に依頼会社や田中氏、内田氏に対する誤解や不信感を与えるものであることから、依頼会社の社会的評価を低下させるものとして依頼会社に対する名誉毀損に該当します。田中氏や内田氏が学生よりも自身の立場を守ろうとし、田中氏や内田氏の経営により組織が弱体化した事実は存在しないことから、当該記載は真実性がなく、違法性阻却事由は存在しません。

以上により、本件投稿について削除を申し立てますのでご検討の程よろしくお願い申し上げます。

まず、このメールでは、日本大学事業部が田中理事長の名誉に関する事項についてどのような法律上の関係を有しているのかさっぱり分からない。「一般の閲覧者に依頼会社や田中氏、内田氏に対する誤解や不信感を与えるものであることから、依頼会社の社会的評価を低下させるものとして依頼会社に対する名誉棄損に該当します」と記載されているが、田中氏の社会的評価が低下することと、同社の社会的評価が低下することの間に関連性は認められない。

代理人弁護士の削除申立ては、田中氏と日本大学事業部が“一体”であることを前提とした論理構成となっているが、田中氏と同社に法的なつながりはない。田中氏は2012年からから14年までの間、同社の役員だったが、その後は役員から外れている。田中氏と日本大学事業部は、まったく別の存在なのだ。

“田中氏は暴力団とは関係がなく、従って「田中氏が反社会的勢力と関係があるとの事実を摘示」した記事は、日本大学事業部に対する名誉棄損だ”と、この弁護士は主張している。しかし、ハンターの記事では「日本大学事業部」について一切言及しておらず、田中氏と同社を結びつけることは困難。牽強付会も度が過ぎている。

そもそも、反則タックル事件が起きた2018年当時、日大関係者以外で「日本大学事業部」なる会社の存在を知っていた一般人はどれほどいたのか。確かに田中氏は一躍時の人になったが、日本大学事業部が報道の主役になったことは一度もないはずだ。今年2月になって、日本大学事業部が名誉棄損だ、以前の記事を削除しろ、と言い出した真意がどこにあるのか、まるで見当がつかない。

合理性を欠いた「言いがかり」に、当方も代理人を立てて反論したが、日本大学事業部の弁護士からはその後何の連絡もない。当然である。記事の内容は、すべて裏付けがあるものばかりだからだ。特に、田中氏と暴力団組長のツーショット写真は複数のメディアによって報じられており、「田中氏が反社会的勢力と関係があるとの事実を摘示」という記事内容は妥当性を欠くものではない。田中氏が「名誉棄損」だと騒ぎ立てるには無理があるし、法的には別個の存在である日本大学事業部には、なおさら名誉棄損を前提とした削除要請をする資格などあるまい。法的な脅しともとれる日本大学事業部代理人の行為に、改めて抗議しておきたい。

日本大学事業部の代理人が削除を申し立ててきた記事は、リニューアル前のHUNTERが、2018年5月21日に配信したものだ。念のため、再掲しておきたい。

日大反則タックル問題 監督辞任で済まない理由

2018年5月21日

来年、創立130年を迎える伝統ある大学の誇りが、たった一人の指導者の暴走に汚された。
日本大学アメリカンフットボール部(通称:フェニックス)の選手が、関西学院大学との定期戦で危険なタックルなどの反則行為をした問題を巡り、同部の内田正人監督が辞任を表明した。「責任は私一人にある」と格好をつけた内田氏だが、事態は収まるどころか悪化する一方だ。
当然だろう。反則を指示したのは、どう見ても監督自身。その点についての明言を避けたまま、アメフト部の監督だけ辞めるというのは、ただの責任回避に過ぎないからだ。さらに問題を深刻化させているのは、内田氏がオール日大の競技部を統括する保健体育審議会の局長で、常務理事という大学ナンバー2の立場にもあること。日大の経営陣や内田氏が本当に守ろうとしているのは、学生ではなく“体制”なのである。

◆日大の「保健体育審議会」とは

アメフト部の監督である内田正人氏は、日大の人事担当常務理事。事実上のナンバー2である上に、同大学を代表する体育競技部を統括する「保健体育審議会」のトップである局長を兼任している。監督辞任は当然だが、それだけで事を済まそうとする日大の組織自体に、OBはもちろん、学内からも批判の声が上がる状況だ。

日大は、17学部に75,000人の学生を抱えるマンモス大学である。学部ごとに、スポーツ系と学術系のサークル(同好会)がある一方、全学から優秀なスポーツ選手を集めて組織されているのが大学本部が統括する「保健体育審議会」だ。学内で「保体審」と呼ばれる保健体育審議会には、現在次の34の競技部が所属している。

保健体育審議会には、特定のスポーツ種目に優秀な競技記録を有する者のなかから、将来日本を代表するアスリートへの成長が期待できる者を選抜する推薦入学試験制度がある。合格した学生は、保体審各部に所属し、選手として自己研鑽に励むと共に学業に励むこととなる。保体審所属の学生は、“日大生の範”となることが要求される立場なのだ。

その保体審の選手が前代未聞の悪質な反則を行い、指示を出したのが監督だったとすれば、どうなるか――。アメフト部は保体審に所属する資格を失うはずで、これは「廃部」を意味する。しかも、内田氏は保体審のトップである局長。「伝統あるオール日大の競技部を守る意思があるのなら、内田さんは保体審の局長も辞めるべき」(同大水泳部OB)といった声が上がるのは、当然のことだろう。だが、それだけでは済まない事情がある。

◆元凶は「田中体制」
「内田氏は、監督、保体審の局長だけでなく、常務理事も辞任すべき」。そう断言するのは、日大OBの国会議員だ。日大は、1889年(明治22年)に、吉田松陰門下生の司法大臣(当時)山田顕義らが創設した「日本法律学校」が前身。1903年(明治36年)に日本大学へと名称変更して以来、総合大学として発展し、卒業生は100万人ともいわれる。マンモス大学だけに組織も巨大。腐敗の温床となりがちだ。現在の経営トップは相撲部の総監督を兼任する田中英壽理事長だが、黒い噂が絶えない田中体制に不満を持つ職員やOBは少なくない。

日大理事長の下には、総務、人事、財務、企画広報、管財をそれぞれ担当する5人の常務理事がいる。アメフトの内田正人氏は、人事担当だ。理事は5人の常務理事を入れて34人。その下にはさらに、全国から選ばれた126人の評議員がいる。相次ぐ粛清で、田中体制に逆らう役員は少数となっており、組織の正常化は難しい状況だ。

日大の内情に詳しい現役の評議員はこう話す。
「来年は、創立130年という記念すべき年だ。国内企業の社長の出身大学トップは、長年日大。校友同士の絆も強く、OBは日大出身ということに誇りを持っている。それが連日、テレビの報道番組やワイドショーで日大、日大……。問題を起こしたアメフトの監督は、追い込まれてようやく取材陣の前に出てくるという始末だ。日大の恥。そいつが常務理事だというのだから、話にならない。監督辞任は当然。大学としては、保健体育審議会の役職も、常務理事の肩書も、さっさと取り上げるべきだろう。できないのは、内田が田中理事長の側近だから。内田は、話されたらまずいことを知る立場なんだ。これでは、130周年を祝うことなんかできない」

たしかに、内田氏は、田中理事長の側近中の側近。常務理事である内田氏を辞めさせた場合、同氏を重用してきた田中体制が揺らぐのは必至だ。田中理事長としては、内田氏を守らざるを得ない。今月18日に開かれた同大の理事会では、これだけ世間を騒がせているにもかかわらず、アメフト部の問題は議題にすら上らなかったという。大学組織がマヒしているのは確かで、すべての対応が世間の常識から外れていくのには、こうした背景がある。

日大は、田中氏が理事長に就任してから、おかしくなった。理事長自身の反社勢力との関係が取り沙汰され、利権に関する話も絶えない。反則タックルの学生が在籍するスポーツ科学部は田中理事長が強引に作った学部だが、英語講師の雇い止めや、学習塾に授業を任せるという不適切な実態が明らかになっており、「スポーツ科学部と危機管理学部は失敗。教員不足で授業内容も大学レベルに追い付いていない」(日大職員)といった状況だ。かつての日大では、理事長の独断でムダな学部を作るなどという愚行は起き得なかった。それだけ組織が腐ったという証左だろう。学生不在の歪んだ権力を守るために内田氏を庇うというのなら、日大に“最高学府”としての資格はあるまい。

ちなみに、記者も日大OB。内田氏だけでなく、田中理事長にも辞任勧告を出しておきたい。日大の歴史を汚したのは、間違いなくこの連中だからだ。

 

 

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