【指宿女性教師暴行事件】報告書から省かれた「犯行自白」場面(下)

今年9月、鹿児島県指宿市で市内の公立小学校に勤務する20代の女性教師が、同僚で30代の教務主任(当時・懲戒処分を受け辞職)から性的暴行を迫られ、かろうじて難をのがれながらも身体と心に大きな傷を負うという事件が起きた。明らかに強制性交未遂として裁かれるべき事案だったが、県や市の教育委員会は「セクハラ」と言い募り、校長あがりの豊留悦男市長まで議会で「セクハラ」と断定する状況となっている。

被害者軽視の歪んだ事態を招いた原因は、事を矮小化するために作成されたとしか思えない学校側作成の「事故報告書」にあったとみられる。事故報告書の記載内容はどこまで信用できるのか――被害者周辺への取材を重ねた。

■暴行事件「矮小化」の証明

下は、昨日の配信記事で示した事故報告書の記述について、被害者側が「明らかに事実と違う」と明言した箇所を赤いアンダーラインで示し、番号をふったものだ。少なくとも7カ所が、被害者や被害者の両親が訴えた内容が反映されていないか、あるいは事実と異なる記述なのだという。

まず、報告書の1枚目から見てみたい。の「9月23日 20時00分頃」の記述、校長は「職員室で●●(加害者)が○○(被害女性)に果物はいらないかと声を掛けたところ、○○(被害女性)が応じた」と記している。サラリと流しており、あたかも女性教師が簡単に誘いに乗ったかのような書きぶりだが、実際はまるで違っていた。

女性教師は「申しわけないですから、いいです」と断ったものを、しつこく言われ、上司の勧めだからとして“仕方なく”果物の受け取りを承諾したのだという。のっけから、事件を矮小化しようとする校長らの意図がミエミエとなる報告書の記載内容だ。

次に②の部分の記述だが、加害者が「仕事上のアドバイスなどがしたいとして」引き留めたのに対し、被害女性は「仕事上のアドバイスなら聞きたいと思い」とある。しかし、被害者側は「アドバイス」などと言われた事実は一切ないとした上で、「アドバイスを聞きたいと思ったことなど微塵もない」と断言。校長にも、こんな話はしていないという。

前稿でも指摘したが、これは明らかなでっち上げ。加害男性の創作を鵜呑みにした校長が、女性教師にも責任があったように見せかけるため、裏取りなしで真相をねじ曲げたということだろう。

の「抵抗した」については、詳しく述べるとこうだ。腕をつかんで引き留めようとする加害者に対し、女性教師は「何ですか?やめてください!帰ります!」と何度も繰り返して、引っ張り合いに――。この際、強い力で振り回された女性教師はケガを負っている。これも校長に伝えてあるのだというが、報告書の記述からは省かれていた。意図的なものを感じるのは、記者だけではあるまい。

の「面会した」という短い言葉も、実態を隠したものだった。この日、被害女性の母が校長室を訪ねたのだが、加害者は土下座をして謝っていた。教頭と校長も同席していたはずだが、加害男性が罪を認めたことについては触れられていない。なぜこうも重要な事実が抜け落ちるのか……。女性教師の周辺は、心に大きな傷を受けた彼女を気持ちを代弁する形で「管理職、教育委員会に対しては失望の連続。事件を小さく見せようとする動きばかりが目立つ展開です。被害者への思いやりはかけらもないということなのでしょうか」と憤る。

報告書2枚目の⑤と⑥についても同様。被害者が校長に「明日は加害者は出勤するのですか。出勤されるのであれば、私は出勤したくありません」と伝えたことや、「まだ処分が下りてないから」という理由で市教委が加害者を出勤させようとしていたことなどが抜け落ちており、関係者は「学校や市教委が責任逃れをするため、肝心なところをぼかして報告書を作成したのではないか」と話す。

の記述にしても「謝罪させた」などという簡単な話ではない。この時は、教頭と校長が立ち会い、被害者の両親と加害者が対峙した重要な場面。そこでは無反省に他人事のような発言を繰り返す加害者を両親が厳しく追及し、加害者が「わいせつ」や「下心」を認めていた(参照記事⇒【指宿市女性教師暴行事件】被害者の母と加害男性、緊迫のやり取り)。加害者が“犯行”を認めた場面の記述がすっぽり抜け落ちたのは、明らかな隠蔽と言うしかあるまい。

以上、小学校長名で教育委員会に提出された「事故報告書」は、事件の大まかな状況をたどってはいるものの、「わいせつ」や「強制性交未遂」という真相を覆い隠すための工夫が、随所にみられる内容だった。

この報告書を前提に教育委員会内部の議論がなされた結果、性的暴行が「セクハラ」で済まされ、本来なら懲戒免職にすべき事案が「停職1カ月」となって退職金まで支給されるというふざけた処分で終わっている。「わいせつ」を否定した県教委と記者のやり取りを、再掲しておきたい。

記者:わいせつ行為を行おうとした男が、なぜ懲戒免職ではないのか?”
県教委:わいせつとは認められなかったからです。

記者:何故わいせつではないのか?
県教委:本人に聞いたところ、猥褻を否定したからです。

記者:本人とは、加害者の男性教師のことか?
県教委:そうです。

記者:捕まった人殺しが、「私がやりました」と簡単に言うのか?
県教委:わいせつではありませんから。

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