昨年1年間に全国の裁判所などで処分のあった不祥事が少なくとも19件あったとみられることが、筆者の情報開示請求によりわかった。本サイト既報の通り一昨年の処分記録は請求から開示決定まで9カ月以上の時間が費やされたが、今回の請求に対しては3カ月あまりで結論に到り、開示時期について大幅な改善がみられた。ただ昨年同様、書記官などの処分記録については最低限の概要が開示された一方、裁判官の不祥事とみられる記録は日付も含めてほぼ全面墨塗り処理されるなど、開示のあり方としては司法府特有の不条理な閉鎖性が維持された。
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全国の裁判所で昨年1年間にあった懲戒処分・監督上の措置(訓戒、注意)の記録を筆者が開示請求したのは、本年1月18日。翌々日にこれを受理した最高裁判所は2月20日付で開示期限の延長を決定したものの、これを4度にわたって繰り返した昨年の対応とは打って変わり、1度の延長のみで対象文書の一部開示決定に到った。決定日は請求から3カ月強を経た4月20日で、昨年同様『処分説明書』など38枚の文書が大型連休中の5月上旬までに交付された。
開示文書を確認する限り、行政の役所で懲戒処分の当事者に交付されるものとほぼ同じ書式の『処分説明書』が16通あり、これにより懲戒処分が少なくとも16件あったと読み取ることができる。さらに『人事上の措置について』という文書が3通あり、これらがいわゆる監督上の措置の記録だとすれば、昨年1年間の裁判所不祥事は少なくとも19件に上ったことがわかる。なお、このほか『発令について』と題された文書が1通あり、同文書には職員の懲戒処分の「決裁」が記録されているが、事案の概要を確認する限り先の16件のうちの1件と重複していることが認められた。
このうち懲戒処分16件の記録を、昨年の配信記事に倣ってまとめると、以下のようになる(左から「処分日」「処分内容」「当事者の所属」「官職」「事案概要」)。
16件中6件が所属庁を除いてすべて墨塗りとなっており、これらは事務方ならぬ裁判官の処分記録である可能性が高い。
一部開示決定の通知書によれば、墨塗りの理由はこうだ。
《個人識別情報(氏名等)が記載されており、これらの情報は、行政機関情報公開法第5条第1号に定める不開示情報に相当することから、これらの情報が記載されている部分を開示しないこととした》
一見もっともらしい理由づけだが、これは16件中6件だけがほぼ全面不開示とされていることへの理由にはならない。残る10件では処分日や処分量定、当事者の官職などが墨塗りを免がれているからだ。裁判官のみに許される(と思われる)特権を正当化する合理的な理由は示されず、その特権は理屈抜きで維持されなくてはならないもののようだ。なお、これも昨年同様、懲戒よりも軽い人事上の措置についてはいずれも具体的な内容が開示されなかった。
一連の文書の請求時、筆者は「懲戒処分や監督上の措置の概要がわかる文書」及び「各件の発表の有無がわかる文書」という言い回しで当該記録の開示を申し出ている。ところが開示された文書の限りでは正確な件数が特定できる状態になっていない。
これについて5月10日、最高裁事務総局に電話で問い合わせたところ「『概要』に『件数』は含まれない」と虚を突かれる説明を受けた。筆者は同日付で新たな開示請求書を作成し、即日最高裁に送付。それからまもなく2週間が過ぎるが、現時点で開示の可否の決定連絡はなく、それどころか同請求を受理したかどうかの確認連絡も届いていない。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |