「小手先の対応になってはならない」|北海道の看護学院パワハラ対応を弁護士会長が批判

第三者調査により少なくとも52件の被害があきらかになった北海道立看護学院のパワーハラスメント問題で、地元の函館弁護士会が2日間にわたって無料電話相談会を開き、学生・元学生らから寄せられた相談への対応にあたった。同会の会長を務める平井喜一弁護士は「被害は第三者委が認定した事案のみに留まらないことが確認された」と、未だ表面化していないパワハラが多数ある疑いを指摘、道の救済策が限定的なものになってはならないと訴えている。

◇  ◇  ◇

函館弁護士会の無料相談は11月11日から2日間にわたって実施、担当弁護士が元学生など延べ約10人から電話を受け、それぞれの相談に応じた。相談者の中には「相談を寄せたこと自体を公表して欲しくない」と希望する人もいたといい、このため正確な相談件数はあきらかにされていないが、平井会長によると「さまざまな被害報告があり、相談内容も多岐にわたっていた」という。

「弁護士会の場所柄、江差看護学院にかかわる相談が多くなりましたが、(同じくパワハラ認定があった)紋別で被害に遭ったとみられる方からも電話がありました。『わずか数単位を残して退学を余儀なくされた』という深刻なケースもあり、求められる救済も単純なものではないと認識しているところです」(平井弁護士、以下同)

慰謝料を求めたいという人もいれば、奨学金の返済免除などを希望する人などもおり、また先のような退学生から復学を強く希望する声が聴かれた一方、二度と学校に戻りたくないと話す退学生もいたという。

こうした相談者の中には、第三者調査の網の目に引っかからなかった人たちが少なからずいることがわかった。平井弁護士は「実際の被害は、第三者委が認めた52件よりも多いと言ってよい」と言い切り、次のように話す。
「あきらかに第三者調査で被害認定を受けられなかった人のほか、そもそも被害を申告できなかったという元学生もいました。第三者委は道が設置した機関ということもあり『そういう所に相談を寄せると道庁に相談内容が漏れるのでは』と、不安のあまり相談を控えたという声があります。弁護士会としては『そうあって欲しくない』という思いを込めて言いますが、道による救済の対象が『第三者委の認定した被害のみ』に限定されるとしたら、確実にそこから漏れる被害者が出ることになります」

初めての相談会を終えた函館弁護士会は現在、寄せられたさまざまなSOSへの具体的な対応を検討中。道へのアプローチについては現時点で未定だが、場合によっては追加の相談会を設けるなどで引き続き被害実態の把握を進めていく可能性がある。一連の問題について11月8日付の会長声明で「およそ教育に携わる人間が行ったとは思えない人間の尊厳を著しく損なう論外な言動」と厳しく批判した平井弁護士は、説明会への反響を受け「道の対応が限定的な小手先の対応になってはならない」と、改めて幅広い被害救済の必要性を訴えている。

渦中の北海道は11月上旬、第三者委の被害認定を受けた学生・元学生らに宛て「意向調査票」を送付、求める救済や教員の処分などを11月15日までに申し出るよう呼びかけた。すでに同票を提出した複数の保護者によると、道に対して関与教員の刑事告発を求める意見などが挙がっているという。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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