検察審査会がヤジ排除文書不開示|存否そのものを答えず門前払い

一昨年7月に北海道札幌市で起きた「首相演説ヤジ排除事件」で、市民を排除した警察官らを不起訴とした地元検察の処分を「相当」と判断した札幌検察審査会が、筆者の公文書開示請求に対して「存否応答拒否」を決めた。請求する公文書が存在するかどうかを明かさずに開示を拒否した形で、これを不服とする筆者は2月15日、決定の適正性を審査する検審情報公開・個人情報保護審査委員会へ苦情の申出を行ない、改めて関係記録の開示を求めた。

■札幌検審の隠蔽姿勢

筆者が開示を求めていたのは、札幌検審がヤジ排除事件の不起訴処分を審査するにあたって同事務局で作成・取得した公文書(検審行政文書)すべて。検審の会議は非公開で、議事録なども公表されないが、2001年の最高裁判所通達などにより、事務作業に伴う検審行政文書は情報公開の対象となっている。筆者はこれを利用して1月2日に先の開示請求を行なったが、札幌検審は1カ月後の2月1日付で存否応答拒否の決定を出した。

決定通知書によると、求める文書の存否を明かすことは「個人識別情報」(情報公開法5条1号)や「適正な業務の遂行に支障を及ぼすおそれがある情報」(同条6号)を開示することになるという。しかし一般的に行政機関が存否応答拒否を決めるのは、性犯罪の捜査記録など個人の機微に大きくかかわるような情報に限られ、犯罪の容疑者や被害者の個人情報が記された公文書がそのまま開示される、あるいは個人情報のみを伏せて一部開示されるといったケースは決して珍しくない。

また司法機関の裁判所も日常的に個人情報を含む対審を公開し、第三者による裁判記録の閲覧も認めており(民事訴訟法91条1項)、検察審査会のみが過剰に厚い壁に隠されるのは公平性に欠けると言わざるを得ない。とりわけ今回の不起訴相当議決については、排除被害者の大杉雅栄さん(32)自身「ぼくの情報は別に開示してもかまわない」と述べており、実際に本人が何度も記者会見で顔と名前を晒している。また告訴された警察官の容貌も地元報道を通じて繰り返し発信され、さらに全員の氏名が札幌地裁によって公開されている(付審判請求を受けての令和2年(つ)1号事件判決)。

■「苦情申出の教示」の明記なし

筆者は拒否決定後の2月4日、札幌検審を訪ねて「一部開示」で対応できる可能性を指摘したが、同事務局は「存否はお答えできない、というのが理由のすべて」とするのみで、合理的な理由は示されなかった。

検審の情報公開には、一般行政機関のそれと同じく「苦情申出」の制度がある。筆者は2月15日、これを利用して検審情報公開・個人情報保護審査委員会に苦情申出の手続きを行ない、改めて適正な情報開示を求めた。委員会の答申期限はとくに決まっていないようだが、過去のケースを見る限りではおおむね半年間程度で結論に到ることになると思われる。

なお今回、札幌検審は拒否決定にあたって「苦情申出の教示」(申出の権利を告げること)を行なっていない。筆者は申出書でこれに抗議し、今回の不教示が行政不服審査法82条に違反していることを指摘した。

【検察審査会】各地の地裁や同支部などがある全国165カ所に設置。くじ引きで選ばれた20歳以上の有権者11人が審査員となり、検察の不起訴処分の妥当性を審査する。起訴すべきと判断した委員が半数を超えると「不起訴不当」を、8人を超えると「起訴相当」を議決する。同じ事件で起訴相当が2回議決されると「強制起訴」が決まり、検察の結論にかかわらず刑事裁判が行なわれることになる。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。
北方ジャーナル→こちらから

 

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