「Go To」の危険性

Go To政策で本当に必要な人に補助が渡ったのかどうかは大いに疑問だ。「経済を回す」ことは重要だが、「Go Toトラベル」や「Go Toイート」は一部の旅行業者や飲食店、お金に余裕がある人にだけメリットがあるという不公平な政策で、新型コロナウイルスの感染拡大によって所得が大きく落込んだ人たちや失業して困窮している人々を助けたとはいえない。

コロナの影響で失業した人や収入が激減した人が増えているが、その中でも、もともとぎりぎりで生活していた人――ワーキングプア(働く貧困層)――の人がコロナ不況に直撃されているのが実情である。

日本では、200万円以下の年収で生活する人が1,000万人を超え、6人に1人は「相対的貧困」に該当、就業者の4割前後が低賃金で契約を簡単に解除できる「非正規」の仕事に就いている。

生活保護を受ける資格がある人々の中には、福祉制度を利用することへの抵抗感や偏見に悩まされている人が多数いる。背景にあるのは、「福祉の利用を申請すると、本人の親族にその旨が伝えられる」という規則。これが、生活保護申請を躊躇させている。

■Go Toにこだわる菅政権

緊急事態宣言の発出地域にあって、時短営業に協力する飲食店には「1日6万円」(1カ月約180万円)の協力金が支給されているが、多くの非正規労働者を雇用している大規模店舗には全く足りない金額だ。

一方で、小規模な飲食店には「もらい過ぎ」と言えるくらいの不公平な給付となっており、業界では「協力金バブル」とも呼ばれている。

Go Toも協力金も効果が見込めず、公平さを欠く政策だが菅総理に変更する意思は全くない。

二階俊博幹事長肝煎りのGo Toキャンペーンは現在一時停止中だが、春になってコロナの感染者数が減れば、幹事長からGo To再開の圧力がかかることは間違いない。

世論が反発しても、成立した3次補正予算と予備費があり、国会で予算審議をしなくても実施できる基盤があるため、経済を優先する菅義偉総理は二階氏に言われるまでもなくGo Toを再開するはずだ。

二階幹事長は感染が急拡大していた緊急事態宣言発令直前の1月4日、全国旅行業協会会長としての年頭所感で、「本年も当協会は、旅行・観光産業のコロナ禍からの回復を目指し、一致団結して国内旅行の需要喚起と国内観光の振興に取り組んでまいります」と、観光振興に強い意欲を見せた。

拙速なGo To再開で人の移動が活発になれば、第4波が到来し感染者が爆発的に増加することが予想される。しかも現在の甘い検査体制のままでは、より感染力が強く変異したウイルスが国内に入りこみ、これまでより格段に深刻な被害が出る恐れもある。

しかし与党は一丸となって「Go To」を推進しようとしている。その証拠に赤羽一嘉国土交通相は代表質問で、政府の観光支援事業「Go Toトラベル」の再開に向けた意欲を示し、「新型コロナウイルスの感染防止対策を徹底するなど必要な見直しを行い、事業の再開を目指したい」と述べている。

2月1日、自民党の世耕弘成参院幹事長はブルームバーグのインタビューに「学校が春休みに入り旅行需要が多い時期になるので、Go Toキャンペーンで観光業界をしっかり支えていくことも考えていかないといけない」と回答。緊急事態宣言解除後の春休み期間にあわせてGo Toを再開させ、観光業界を支えるべきだとの認識を明らかにしている。

■与党内からもGo To批判

昨年11月18日、日本医師会の中川俊男会長が「Go Toトラベル自体から感染者が急増したというエビデンスがなかなかはっきりしないが、きっかけになったことは間違いないと私は思っている。感染者が増えたタイミングを考えると関与は十分しているだろう」と述べた。菅総理と加藤勝信官房長官は、この「エビデンスがない」という言葉だけ抜き取って、Go To停止の決断が遅かったとの批判に対して「専門家の意見を聞かせて頂きながら、速やかに判断した」「分科会の提言で、トラベル事業は感染拡大の主要な要因であるとのエビデンスは現在のところ存在しない」と発言している。

しかし、実際にデータを見ると、当初Go Toの対象外だった東京都がGo Toの対象に加えられたのが10月1日。その2週間後にあたる10月後半以降に第3波が襲来した。そして、Go To停止の発表後、駆け込み利用があったと見られる時期の2週間後に、すさまじい勢いで陽性者が増加。それが年末年始の異常なまでの陽性者の数となる。ピークはGo Toキャンペーンの停止日である12月28日から2週間後の今年1月11日、そこから減少が始まっているところを見ると、総理と官房長官の認識は明らかに間違っていたと言うしかない。

政府の新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長も12月16日、「50歳以下の人が移動して二次感染を起こしていることが、ほぼはっきりしてきた。なるべくそうした人の動きを止めることが重要だ」と指摘している。

与党の中堅議員からは、「総理はGo Toにこだわりすぎた。経済が大事なのはわかるが、命あっての経済だ」との声も聞こえる。安易なGo To再開は、国民に壊滅的な打撃を与える危険をはらんでいる。

(国会議員秘書)

この記事をSNSでシェアする

関連記事

注目したい記事

  1. 北海道警察の方面本部で監察官室長を務める警察官が泥酔して110番通報される騒ぎがあった。監察官室は職…
  2. 裏金事件で責任を問われて派閥を解散し、3月に政界引退を発表した二階俊博元幹事長の後継問題に大きな動き…
  3.  三つの衆議院補欠選挙がはじまった。最も注目されるのは東京15区。柿沢未途氏の公職選挙法違反事件を受…
  4. 二階俊博元自民党幹事長の「政界引退」記者会見から約1か月。同氏の地元である和歌山県にさらなる激震だ。…
  5. 在学生の自殺事案で賠償交渉の「決裂」が伝わった北海道立江差高等看護学院のパワーハラスメント問題で(既…




LINEの友達追加で、簡単に情報提供を行なっていただけるようになります。

ページ上部へ戻る