衆議院の任期満了は今年10月21日、それまでには必ず総選挙が行われることになる。
現在、最も注目されているのは山口3区。自民党二階派の現職で元官房長官の河村建夫衆院議員が10期連続で当選を果たしている選挙区である。
その山口3区に元文科相の林芳正参院議員が鞍替えを模索、無所属でも出馬するとみられており、ガチンコ勝負が確実な情勢だ。
■衆議院への鞍替えは林氏の悲願
「林先生は鼻息が荒いですよ」と話すのは、宏池会所属の衆院議員。林氏の地元は、父親で蔵相などを歴任した林義郎氏が中選挙区時代に最大の地盤としていた下関市。小選挙区制導入に伴い下関市が山口4区となったため、同じ下関市が地盤の安倍晋三前首相の選挙区となり、林氏が参院にまわったという経緯がある。以来、山口3区の議席は河村氏が守ってきた。
林氏は、2012年の自民党総裁選には参院議員として初めて出馬したが、所属する宏池会でも総理・総裁候補といわれてきた同氏にとってネックとなっているのが、“参院議員”という立場だ。“国会議員”なら誰でも自民党の総裁になる資格があるが、戦後の自民党の歴史の中で、参議院議員から総裁になった政治家はいない。
衆参両院で首班指名の議決を経るため、衆議院側の賛同を得にくいという側面があるともいわれるが、衆議院側が参議院を下に見ているというのが実態だろう。解散があり、何度も厳しい選挙の洗礼を受ける衆議院に比べ、参議院はいったん当選すると6年間は安泰。その上、ほとんどの参院議員は選挙の度に地元都道府県の衆院議員から支援を受けることになるのだから、当然“参議院から総裁なんて、とんでもない”となる。総理・総裁を目指す林氏としては、なんとしてでも衆議院への鞍替えを実現させたいところだ。
ある自民党の山口県議は、こう証言する。
「林さんはこれまで、衆議院への鞍替えが噂になっては、断念するということを繰り返してきた。しかし、今回は山口3区に事務所を構えて、無所属でも戦う構えだ。本人が何度も山口3区に入って活動をしている。こうなると林さんは強い」
昨年11月に山口3区の宇部市で行われた市長選では、河村氏と支持基盤が重なる新人候補と一騎打ちになった林氏の元秘書が勝利。林氏が3区内にくさびを打ち込んだ形となった。前出の自民党県議が、次のように解説する。
「衆院への鞍替えが既成事実であるかのように、林氏は宇部の市長選で駆け回っていましたね。昨年から今年にかけて山口3区内の宇部市や萩市に次々と事務所を設置しており、『今回は無所属でも勝負する』と公言しているそうです」
■河村氏の体調次第で違う展開も
一方、山口3区では初の衆院議長誕生を待望する声があり、河村氏としては、そう簡単に引けない。昨年10月には、二階俊博幹事長自ら同派の議員20人を引き連れ山口3区を訪問。河村氏の会合で「売られたケンカは買わねばならない」と凄み、同派幹部が「(林氏が)出馬となれば、自民党を除名になることもある」と牽制する一幕もあった。
しかし、肝心の河村氏は最近体調がすぐれず、地元では「入院説」が流れる始末。自民党のベテラン議員が、今後の見通しを語る。
「河村さんが林さんに選挙区を譲って、親族か側近を林氏の後の参議院にたてる、という“取引”が行われる可能性もある。今の勢いをみれば、林さんが無所属でも、河村さんに勝ち目がないという見方が強い。林氏が押し切って鞍替が実現するかもしれない」
こうした山口3区のドタバタ劇を“対岸の火事”とみていた安倍前首相も、ようやく危機意識を持ち始めたという。山口4区が地元の安倍氏だが、人口減少や一票の格差是正で、将来的には山口3区と4区が合区になる可能性が以前から指摘されているからだ。そうなると、安倍氏は衆院に鞍替えした林氏と争うことになりかねない。前出の自民党ベテラン議員は、先をこう読む。
「安倍さんにとっても、林さんは脅威。林さんは山口4区から出馬するのがベストだから、無所属で出ても強敵になる。将来性のある林さんと、再々登板への道が断たれた安倍さんとを比較すると、やはり有権者が選ぶのは将来性。安倍さんは、心中穏やかではないはずだ。怯えて、なんとか林さんの鞍替えを阻止しようとするかもしれない。安倍さんの動き次第では、河村さんが復活する目もまだまだ残されている。一寸先は闇、だよね」
(山本吉文)