2月29日と3月1日、自民党の裏金事件で政治倫理審査会が開催された。初日は岸田文雄首相と二階派の事務総長、武田良太元総務相、2日目は安倍派の西村康稔前経産相、松野博一前官房長官、塩谷立座長、高木毅前国対委員長が出席。岸田首相は内輪の自民党の調査結果を復唱するばかりで、キックバックされた裏金については「関与していない」――。まったくの「茶番劇」だった。

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安倍派の4人は「派閥会長と会計責任者で協議してキックバックや政治資金収支報告書に記載しないことを決めていた」と事前に打ち合わせしていたような答弁が続いた。

2021年に安倍晋三元首相が「キックバック廃止」と決めながら、同年8月の会合では「(キックバックをどうするか)結論は出ていなかった」(西村氏)という。

一方、塩谷氏はキックバック継続について「返してほしいという声があり、継続するしかないという状況でした。今年に限って継続するのはしようがないという話し合った」と発言。こんな中途半端な話し合いで、巨額のキックバックを続けていたというのだから国民をバカにしている。政倫審の舞台を「責任逃れ」の道具に使って、悪くないという「お墨付き」を得ようとしているような内容だった。

安倍派会計責任者の松本淳一郎被告は、すでに政治資金規正法違反(不記載)で在宅起訴されており、過去5年間に安倍派の会長だった安倍元首相と細田博之前衆議院議長はこの世にいない。安倍派の参議院議員が不満そうに「亡くなった人と会計責任者に責任を押し付け、幹部は逃げた」と話す。

安倍派5人衆で裏金2,700万円あまりを受け取っていた萩生田光一前政調会長、裏金約1,500万円の世耕弘成前参院幹事長は政倫審に出席すらしない。萩生田氏が訂正した自由民主党東京第24選挙区支部の政治資金収支報告書(*下の画像)を見ると、3度も訂正印が押され、《収入総額》《支出総額》ともに《不明》とある。

収入と支出を正確に記し、どのような政治活動にカネを使ったかを報告、公開するのが政治資金収支報告書だ。《不明》であるならば、政治活動に使用したかどうか検証ができない。

「萩生田氏は、きちんと政治資金収支報告書を書けないのであれば、個人の収入として申告して、税金を払うべきだ」と立憲民主党の幹部は憤る。

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世耕氏が政治資金収支報告書の訂正をしたのは政倫審初日の2月29日。領収書がない60万円分は《不明》となっている。

世耕氏は学校法人近畿大学の創立者一族だ。身内であるはずの近畿大学労働組合からも《いつまでも収支報告書を訂正しない世耕弘成。政治家としてはもちろん、学校法人理事長としても情けないし、みっともない》と批判を受けている(*下の画像)。

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萩生田氏は、政倫審に出席しなかったことを「党の判断があった」と述べている。しかし、衆議院のホームページには《政治倫理の確立のため、議員が「行為規範」その他の法令の規定に著しく違反し、政治的道義的に責任があると認めるかどうかについて審査し、適当な勧告を行う機関》とある。つまり、政党ではなく、政治家個人に「道義的」な倫理観を問うているのだ。党が何を言おうが関係ない。萩生田氏に政治家としての倫理観が欠如しているだけだ。

「先に他の安倍派5人衆にしゃべらせて様子を見て出席なんて、恥ずかしい。こういう人たちが安倍派を牛耳っていたと思うと、安倍元首相も悲しいでしょう。萩生田さんは派閥内で、世耕さんは参議院で威張り散らし、問題が発覚すると知らんぷりで逃げる。そのくせ2人は安倍派解散と言っているのに『俺がグループをまとめる』と言い出す始末。萩生田さんのそばにいる議員からは『こちらに来てくれるよな』とLINEがきましたよ。世耕さんは、参院幹事長にそのうち返り咲くからとデマをふりまいている」―-安倍派のある衆議院議員、スマホを片手に憮然とした表情だ。

政倫審では自民党が追及されているのに自民党の議員が質問に立つという理解しがたいシーンがあった。武藤容治衆議院議員は西村氏に対して「西村先生とは、議員宿舎では同じフロアで親しくさせてもらっている」「西村先生の輝かしい業績」などと、追及の場にはふさわしくない言葉を連発した。これが自民党の本音なのだろう。

二階派は本来、二階俊博会長が説明責任を果たさなければならないはずだが、事務総長の武田氏が「代理」で出席。「説明責任があるのは事務総長の私だ」とまったく説明にならない答弁をすると、武田氏に質問した中谷真一衆議院議員は「さすがは武田代議士」「武田代議士と私は互いにラガーマン」と意味不明な称賛を展開。

時間と税金のムダであることを証明した政倫審。「偽証」なら罪に問われる証人喚問が必要だ。

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