拡大するパー券疑惑|億単位のキックバックで揺れる安倍派

自民党の派閥が開いた政治資金パーティーの裏金事件を巡り、安倍派や二階派が、ノルマ以上にパーティー券を販売した議員にキックバックした現金が、過去5年間で1億円を超えることが東京地検特捜部の捜査などで明らかになった。年末になって、政局を揺るがす“事件”になりつつある。

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国会議員の政治資金集めに使用されるパーティー券は1枚2万円が相場だ。安倍派の中堅であるA衆議院議員によると、新人議員で30枚、60万円分のパーティー券をノルマとして割り当てられるという。

11月30日、同派の塩谷立座長は派閥の会合が終わった後、「パーティー券の割り当てで販売してもらうことはある」とノルマを課していたことを認め、キックバックについては「あったと思う」と発言した。後になってキックバックについては「撤回したい」と言い出したが時すでに遅し、安倍派の責任者がキックバックを認識していた形になった。

元安倍派の馳浩石川県知事が「官房機密費を使って東京五輪招致のため、IOC(国際オリンピック委員会)のメンバーに1冊20万円のアルバムを贈った」と講演で話し大炎上。その後「撤回」を繰り返したが、火を油を注ぐことになっているのと同じ展開だ。安倍派はかつての領袖・森喜朗元首相がそうであったように、口の軽い議員が多い。

同派に所属するA氏が、つらそうに話す。
「塩谷座長が言っていた、ノルマもキックバックも本当です。当選回数が増すごとに30枚が40枚、50枚と上がっていきます。閣僚クラスになると100枚とか、私のようなクラスでは考えられないようなノルマになります。私も議員ですから、年に1度は自分自身の政治資金パーティーを開催します。そのパーティー券を売るのも必死なのに、とても派閥の分までは手が回りません。ノルマが達成できないとは口が裂けても言えませんから、自分でカネを出してパーティー券を売ったことにする、つまり“自腹”です」

A議員の場合、派閥のパーティー券では毎回20万円から30万円くらいが“自腹”だという。

「同じ派閥で大臣経験者のB先生と話していると『また自腹しないとさ。100枚なんて売れるわけがない』と苦笑いしていました。自分の政治資金パーティーで利益になったお金を“自腹”に使わざるを得ない。なんのためにやってんだろうなって気もしますね。ただ一方でノルマ以上に売ってくる議員もいます。週刊文春で名前があがっていた池田佳隆議員は派閥でも有名なほどパーティー券をたくさん売っています。ノルマ以上はキックバックとして現金で渡されます。実は私も1度だけ、10枚に満たない分ですが、ノルマを超えて奇跡的に売ったことがあった。後日、派閥の幹部に呼ばれて封筒に入った現金をもらいました。『よく頑張ったね』と幹部は言っていたのですが、それがキックバック分でした」(A議員)

ちなみにA議員の話に出てきた池田氏とは、旧統一教会(現世界平和統一家庭連合)と親密な関係があり、2019年10月、愛知県常滑市で開催された『孝情文化祝福フェスティバル 名古屋4万名大会』では、韓鶴子総裁を前にして政治家では唯一マイクを握り、「韓総裁のご指導で家庭再建、真の家庭運動について、結婚と家庭の価値の重要性を訴え、夫婦の絆を訴えていることに心から敬意を表したい。素晴らしい国家をつくろうじゃありませんか」と絶賛する挨拶をしていた人物だ。そうしたこともあって、永田町からは、「パーティー券大量の販売の影に旧統一教会か?」との噂も聞こえてくる。

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今年、東京地検特捜部は、秋本真利衆議院議員の贈収賄事件や柿沢未途衆議院議員の公職選挙法違反事件など通じて、自民党の“バッジ”をターゲットにしてきた。それが今度は“派閥”狙いだ。自民党のある大臣経験者が次のように話す。
「前代未聞だよ。議員個人の政治資金に問題があれば、当然特捜部がやってくる。しかし、派閥の政治資金、しかもパーティー券となれば、安倍派なら100人の議員がいて、検察はすべてを敵にまわすことになる。昔から派閥のパーティーはある意味、聖域とされてきたから、みんなビックリしているんだよ」

2022年12月、自民党の元外務副大臣・薗浦健太郎氏が、政治資金パーティーの売り上げを除外するなどの手口で約4,900万円を政治資金収支報告書に記載しなかったとして立件され有罪判決が確定、議員辞職に追い込まれた。ある捜査関係者が、今回の捜査について裏話を披露する。
「薗浦の件の捜査過程で、派閥のパーティーでもかなりの金額が不記載になっていることがわかった。薗浦と同様に、現金でパーティー券を売った分が不記載で、派閥ごとに“2割を裏金に”などと、一定の割合を決めていることもわかった。そこが端緒になった」

本サイト既報の柿沢氏の公職選挙法違反事件では、同氏の事務所や東京都江東区の区議、秘書らが強制捜査を受けている。柿沢氏の後援会幹部が訝しがる。
「おおよそ事件と関係ない柿沢の支援者、元秘書らを特捜部が取り調べている。柿沢の疑惑を追及しつつも、政治資金パーティーの仕組みや政治資金収支報告書への記載など、今回の事件の参考にするような聴取も行われていた。『特捜部から呼ばれたけど、ぜんぜん、柿沢のことを聞かないんだよ』と愚痴っている支持者もいました。一体、何を調べているのかと思っていた」

今年9月頃から、安倍派「5人衆」と呼ばれる萩生田光一政調会長や高木毅国対委員長が「ヤメ検弁護士のところに日参して話し込んでいる」と噂になっていた。前出のA議員がため息を漏らす。
「安倍(晋三)元総理のもとで100人を超えるまでに膨張した我が派は、他の派閥の2倍以上いるわけで、仮に派閥のパーティーで2割ごまかしたとします。当然、他の派閥の2倍以上の裏金になります。安倍元総理が健在なら特捜部も見て見ぬふりだったかもしれませんが、今度ばかりはどうなるか……」

ハンターでは、すでに派閥のパーティーにおける裏金のからくりや特捜部が派閥側に事情聴取を要請していたことを報じた(既報)が、「事情聴取の際に、どの派閥も資金を管理する銀行の通帳を持参しているようだ。しかし、安倍派はそれよりも詳しいリストなどの資料まで持って行ったと聞いている」との情報もある。当然、岸田文雄首相が会長の岸田派も捜査の対象だ。

薗浦氏の立件は昨年12月、臨時国会が終わった後だった。2019年に秋元司被告が贈収賄事件で逮捕されたのは12月25日だった。自民党にとっては「魔の12月」。特捜部が派閥に乗り込む「Xデー」は近いとみられている。

 

 

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