政治家の活動実態を調べる上で、重要な役割を果たすのが政治資金収支報告書と選挙運動費用収支報告書。前者は政治資金資金規正法の規定に基づき作成・公表が義務付けられており、後者は公職選挙法の縛りを受ける。いずれの報告書も、支出額と支出日、支出先を明記しなければならず、支出を賄うための収入についても同様に記載義務がある。
このうち、支出に関する項目を精査していくと、その政治家の普段の活動の様子や熱の入れ方が見えてくるのものだが、選挙運動費用の支出も、政治団体の支出も「0」という、珍しい政治家がいることが分かった。立憲民主党所属の堤かなめ福岡県議会議員である。
■自己資金ゼロ、収入は130万円の公認料のみ
最初に注目したのは、堤県議の選挙運動費用収支報告書だった。下は福岡県選挙管理委員会に情報公開請求して入手した2019年4月に行われた県議選の収支報告書である。
この選挙における堤氏の収入は、立憲民主党の県連から2度に分けてもらった公認料の130万円だけ。自己資金は一円も入っていない。
一方支出は、公費負担で作成した選挙ポスターとビラの印刷費計67万5,760円のみで、実質的な支出は「0」だ。つまり、公費負担は別として、堤県議は1円も使わずに選挙を終えていた。
支出が少なくて済んだ理由は簡単で、同氏が立候補した博多区という選挙区に、定数となる3以上の立候補者が現れなかったから。つまり無投票当選で、「選挙戦」は告示日の1日だけだった。
カネのかからない選挙になったせいで、立憲民主党からの公認料130万円が、堤県議個人の財布に残った状態となる。よく問題になる「選挙余剰金」だ。そこで資金の動きを確認するため、堤氏の資金管理団体「丘政会」と支援団体「堤かなめ後援会」の同年の収支報告書を調べてみたところ、両団体に対する堤氏からの寄附は皆無。立憲民主党県連の報告書も精査したが、堤氏からの返金とみられる寄附はなかった。
同党県連の「政党交付金使途等報告書」によれば、堤氏にわたった公認料の原資はすべて政党交付金。堤県議は、税金130万円を、そっくりそのまま懐に入れたということになる。
念のため堤氏側に選挙余剰金をどう処理したのか質問したところ、次のような回答が返ってきた。
2年4か月以上前の県議選の余剰金を、『次の選挙』に向けた政治活動資金として別途保管しているという堤氏側の回答。何に使うにしろ、税金を原資とするカネが、堤氏の懐に残っているのは確かだ。
そもそも、次の選挙に向けた“政治活動のため”に終わった選挙の余剰金を残しておくというのなら、いったん資金管理団体などに寄附するのが筋。そうでなければ、政治資金の透明化は図れない。個人の政治活動に資するための資金であったとしても、もらったカネは資金管理団体に収入として計上すべきなのだ。堤県議は、政治資金規正法の趣旨を勉強し直すべきだろう。
■不可解な支出「0」
ところで、堤県議の選挙運動費用収支報告書を見ると、本来あるべき支出の記載がないことに気付く。「事務所費」や「選挙カー」に関する支出が計上されていないのだ。これは一体どういうことか――?
無投票だったからといって、選挙事務所がなかったわけではない。県選管への開示請求で入手した資料によれば、堤氏は告示日に立候補を届け出た際、下の「選挙事務所設置届」を提出していた。
告示日の1日だけとはいえ、堤氏の選挙事務所があったことは否定できない。すると“事務所費の扱いはどうなったのか”、という疑問が生じる。
告示日以前の選挙運動は禁じられているため、前日まで行うことができおるのは後援会活動。活動拠点となるのが「後援会事務所」だ。告示日以降は後援会や資金管理団体から選挙事務所を“借りる”形にするのが一般的で、その場合には貸主である政治団体に日割りで家賃を払うか、「無償提供」されたことにするかのどちらか(もちろん、物件所有者との直接の貸し借りも可能)。ただし、無償提供なら、当該政治団体から候補者が寄附を受けたものとして「収入」にカウントしなければならない。
だが、堤氏の選挙運動費用収支報告書の事務所費は「0」。その場所が堤氏の自宅ならば「0」ということで差し支えないが、確認したところ堤氏の選挙事務所の住所は自宅ではなく、同氏の資金管理団体「丘政会」と「堤かなめ後援会」の事務所と同一だった。
では、「丘政会」もしくは「堤かなめ後援会」からの無償提供ではないのか――。さっそく両団体の政治資金収支報告書を調べてみると、堤議員の、さらに不可解な政治活動の実態が浮き彫りとなる。
(つづく)