強制わいせつの元警官に求刑2年|法廷では仰天の「ストーカー被害」主張

未成年女性にわいせつな行為をした元警察官の事件が18日、札幌地方裁判所(中川正隆裁判官)で初公判を迎え、被告の男が起訴事実をほぼ全面的に認めた。検察は「性欲の赴くまま犯行に及んだ責任は重大」と懲役2年を求刑、即日結審した。

強制わいせつ事件で起訴されたのは、札幌市に住む元警察官の男(77)。本年3月30日夕、同市内の公園で未成年女性に抱きついてキスするなどし、地元警察に逮捕された。近隣の小学校で約20年間にわたってスクールガード活動(児童の見守り)を続けていた被告は、小学生時代の被害女性と顔見知りだったという。地域で得た信頼を悪用する犯行に被害女性は大きなショックを受け「絶対に許せない。きちんと処罰して欲しい」と訴えている。

■スクールガードの信頼悪用か

被告の男は高校中退後、海上保安庁に職を得たのち1968年に北海道警察に転職(初任科30期)、空知地方の美唄警察署を皮切りに道東の中標津や留萌、札幌などに勤務した。90年ごろ定年を待たずに退職し、前後して札幌市内に自宅を購入、さらに10年ほどを経て先に述べたスクールガードなどボランティア活動に励むようになった。

スクールガードを始めたきっかけは、児童が犠牲になる交通事故が小学校付近で多発したためという。見守り活動を通じて子供たちと親しくなった被告は、登下校中の児童らと「ハイタッチ」あるいは「ハグ」などをし合うこともしばしばだった。これに、地元町内会関係者は「ちょっと過剰なところがあった」と指摘する。

「一部から『女の子とべタべタし過ぎ』『必要以上に触っているようだ』という声が上がっていました。あと、ここ10年ほどは正式なスクールガードとして市に登録されていないことがわかっています」

そのボランティア活動は、純粋な善意によるものだったのか、あるいは別の目的があったのか――。後者の可能性を疑わせるのは、被告と同期の元警察官らの証言。その1人(71)は、はっきり「あれは悪い奴だ」と断言する。

「あれは悪いぞー。たしか札幌の署にいた時、未成年のパンツ脱がしたかなんかで調べられてる筈だ。初任科生の時は、警察学校の風呂場で『おれのはデカい』って自慢するような、どうしようもない男だった」

別の元警察官からは「異動のたびに不倫相手をつくっていた」「近所に住む女性教師の部屋を覗いた」「愛人に家庭教師のバイトを斡旋していた」などの証言も出てくる。のちに筆者の直撃取材に応じた被告自身はこれらの疑惑をすべて否定したが、いずれの言い分が正しいのかは定かでない。ただ、今回の未成年相手のわいせつ事件を知った複数の同期生が「あいつならあり得る」と言い切ったのも事実だ。

被害者となった10歳代後半の女性は、とくに被告の男と親しいわけではなかった。「小学生の時にスクールガードをやっていたお爺さん」程度の認識だったが、高校進学後に一度だけ悩み相談を寄せたことがあったという。被告の男はこの時、女性の携帯電話番号を入手、のちに何度か連絡を試みたものの、通話には到っていない。

被害女性の住まいは、被告の自宅のごく近くに建つ。被告は本年2月、近所でたまたま女性の保護者と顔を合わせ、世間話をする中で本年春に女性の就職が決まったことを知った。被告はその場で「就職祝いをしたい」と申し出、保護者の了承をとりつける。3月下旬には改めて被害女性の携帯電話を鳴らしたが、女性がこれに応答しなかったため、同29日に直接自宅を訪問、翌30日に食事の約束をするに到った。

30日午後4時ごろ、被告は自家用車で被害者宅へ赴き、被害女性と2人きりのドライブに出る。地域の洋菓子店で「就職祝いのケーキ」を買い求めた後、近所の回転寿司店へ。午後6時過ぎにそこを出たのは、被害女性がその夜に友人と会う約束をしていたため。ところが被告の男は女性を自宅まで送ろうとせず、近くの公園に連れ込んだ。被告に言わせると被害女性は小学生時代、その公園でいじめを受けて泣いていたことがあるというが、女性自身にそのような記憶はない。

園内のベンチで男が犯行に及んだのは、6時10分ごろのこと。男は突然「最後にハグしよう」と両手を広げ、女性に迫った。女性は「意味がわからず、何も反応できなかった」という。これを「抵抗していない」と都合よく解釈した男は、正面から女性に抱きついた。のみならず、上着に手を入れて胸を触り、またお尻を揉むなどのわいせつ行為を重ね、さらに恐怖で固まる女性に顔を近づけてキスをした。

被害女性はのちに、次のように供述している。――《強引に舌を私の口に入れてこようとしたので、私も歯を喰いしばって唇を閉じて抵抗しました。しかし被告は無理やり、舌を私の上唇と下唇の間に入れてきて、私の歯をまさぐるように舐め回しました》――再現するだにおぞましい犯行。地域の信頼を悪用して60歳下の女性を弄んだ男は、被害者の心身に深い傷を残すことになる。

《被告のことがとても恐くて、しかもとても近所に住んでいるので、未だに近所のコンビニに行くこともできません。毎日バスを利用しているのですが、このバスを1人で待っていることも恐くてできず、お母さんに一緒に来てもらっている状況です》

当初、「被害を大ごとにしたくない」との考えで捜査機関の聴取に応じていなかった女性は、被告の男がほとんど反省していないことを知るに及んで供述を決意したという。事件後、男は被害女性の保護者に宛てた謝罪文で「近所のスーパーなどの利用は控える」旨を約束していたが、実際にはこれを破ってスーパーで被害者家族と鉢合わせるトラブルを起こしていた。同じく「150万円の慰藉料」「別の地域への転居」などを約束しつつ、これらも現時点で履行していない。

■反省なく“被害”主張

一連の犯行は、筆者を含む複数の報道関係者が把握するまで一切明るみに出なかった。警察が報道発表を控えたためだ。未発表の理由は定かでなく、元警察官にしてスクールガードの男への“忖度”も疑われるところだが、北海道警察はこれを問う筆者の取材に「回答を差し控える」としており、捜査の事実を伏せた理由を明らかにしていない。

事件から2カ月強が過ぎた5月10日に強制わいせつ容疑で逮捕された男は、送検後に勾留満期で釈放、6月2日に在宅起訴された。検察は釈放時、被害者に接近しないよう男に言い含めていたが、近隣住民は「その後も普通に出歩いていて、高齢施設のボランティアとかを続けていたようです」と証言する。

起訴当日に自宅前で筆者の直撃取材に応じた男は、「やったことは間違いない」と容疑を認めた上で、「自制心が飛んでしまった」「癌で余命宣告を受けて厭世的になっていた」などと弁明、あくまで計画的な犯行ではなかったと強調した。警察学校同期生らが証言する過去の女性トラブルについては「一切ない」と全面的に否定、定年前に道警を退職した理由は「上司と揉めたため」と説明している。

8月の初公判では、これに加えて「被害者家族によるストーカー行為」の被害に遭っているとの主張を展開し、検事や裁判官を呆れさせることになる。弁護人による主尋問でのやり取りは、以下の通りだ。

 ――被害者の母親が、後をつけてくると。
「はい。朝の7時過ぎから夜まで」

――ほかには。
「近所のスーパーに車を駐めたら警察を呼ばれ、公衆の面前で『この人は悪い人だから連れていってくれ』と言われました」

――とくに何かしたわけでもないのに。
「その時は何もしていません」

――周りに影響は。
「町内に事件のことが広く知られてしまいました。20年間やっていたスクールガードに行けなくなり、いろんなボランティアを辞めざるを得ませんでした」

――奥さんもメンタルを病んだと。
「はい。ずっと被害者の母につきまとわれているので、医者に言わせるとそれが原因ではないかということです」

あたかも自分自身が被害者であるかのような語り。そこからは、深刻な強制わいせつ被害を受けた女性やその家族の怒りを理解しようとする思いはおよそ汲み取れない。

被害女性の憤りは大きく、法廷で検察官が読み上げた陳述書には悲痛な思いが綴られていた。

《検察官が「必ず裁判で裁いてくれる」と言っていたので、その言葉を信じていました。ですが、見せてもらった被告人の調書は嘘ときれいごとばかりで、自分をよく見せようとしているとしか思えないものでした。小学校4、5年生のころに私がいじめられていたので抱きしめて慰めた、とありましたが、そのような記憶は一切ありません。私が高校で不登校になったということもなく、自殺未遂や家出をしたこもありません。「死にたい」などと相談したと被告人は言っていますが、そんなことを相談したこともありません。被告人の言っていることが嘘ばっかりだったので、真実を知る私が話すしかないと思い、出たくはありませんでしたが裁判で証言する決断をしました》

《常に近くにいるという恐怖。1人で外に出られず、近くのコンビニや自動販売機にすら恐くて行けない。会社でも、どこにいても、男の人が恐いです。仕事中に突然事件を思い出し、恐くなってトイレに逃げ込む、夢に出てくる、ストレスで体調を崩した等々、これが私の置かれている現状であり、生活にとても支障が出ています。被告人が、やったことを認めて反省しているとはとても思えません。人としてあり得ないことをしておいて反省もできない人間を理解するなど、私には不可能です。そんな被告人を許せません。これから先も絶対に許さないです》

検察は論告で「信頼を裏切り、性欲の赴くがまま犯行に及んだもので、経緯動機に酌むべき事情はまったくない」と指弾、「厳正な処罰で臨み、猛省を促す必要がある」として、懲役2年を求刑した。一方の弁護側は、事件が未だに報道発表されていないにもかかわらず「充分な社会的制裁を受けている」などと主張、これまでの地域貢献の実績や癌の持病などを情状として、執行猶予つき判決を求めた。

判決は9月1日午後、札幌地裁で言い渡される。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。
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