先月中旬、自民党の裏金事件に絡み次期総選挙の不出馬を表明していた二階俊博元幹事長の「危篤情報」が飛び交った。実態を取材してみると……。
■心臓疾患で入院か
二階氏は、4月中旬から自民党和歌山県連の会合や、ジャーナリスト・田原総一朗氏の出版パーティーなどを相次いで欠席しているおり、それが噂に信憑性を与えたようだ。
4月24日に二階派の国会議員に問い合わせると、「かん口令です」と硬い表情。さらに聞くと「本当のところは知らないんですよ。ただいらぬことはしゃべるなと言われただけ。体調が悪いことだけは事実のようです」と話した。
その後の取材で二階氏は都内の病院に心臓疾患で入院している可能性が高いことがわかった。
二階氏の親族は「入院はほんまやが、重病だという人もいてびっくり。心臓は前からの持病。おそらくゴールデンウイーク明けには退院するのではと思います」と笑う。だが、二階氏不在に関わりなく、政局は動いていく。
■3男に相次ぐ出馬要請
4月24日、和歌山県町村会は印南町役場に二階氏の三男、伸康氏を呼び「出馬要請書」を手渡した。和歌山県内の21ある町村は、10増10減の区割り改正で新・和歌山2区になる。現在の二階氏の地元、和歌山3区はそのまま新・和歌山2区に入るのだ。
和歌山県町村会の会長、九度山町の岡本章町長から要請を受けた伸康氏は、その後、マスコミに囲まれて「私自身は今、二階代議士の公設秘書という立場であります。この場で私の一存のみで何か重要な決定をすることはできない。二階代議士の政治活動を支えてきてくださった皆様に相談をしなければならない」と述べつつも、「衆議院は常在戦場、その答えに時間をかけてはならない。ご意見を伺った上で、しかるべきタイミングにお返事をしなければならない」と出馬への意欲を示した。
岡本町長によれば「4月16日にはじめて会って、出馬要請の話をしました。その時は固辞していました。しかし、絶対拒否なら今日、要請はしていません」。町村会の出馬要請を境に「勝ち馬に乗れ」とばかりに、漁連、商工会など各種団体からの「要請」が伸康氏に相次いでおり、岡本町長は「ゴールデンウイーク明けあたりには、いい返事をくれるはず」と自信をみせる。
■三つの壁
ただし、伸康氏には「三つの壁」が立ちはだかっている。
まず、一つ目の壁。現在の和歌山3区では、長男の俊樹氏が虎の威を借りる狐のように権勢を誇っている。二階氏の出身地である和歌山県御坊市やその周辺では俊樹氏が陳情の窓口で、その後継に推す動きがあるほどだ。前出の岡本町長も「伸康さんと俊樹さんをケンカさすわけにはいかんが、家族のことに立ち入ることはできません。話し合って伸康さんに一本化をしてほしい」と言うが、俊樹氏を推す支援者は少なくない。ある首長は、「岡本町長は、町村会の総意で伸康氏へ要請と言っているそうだが、うちは知らない。俊樹さんでいくべきと思っている。それに岡本町長は二階氏の意向を確認していないはずだ」と不満を述べる。
次の壁は、裏金事件で自民党から離党勧告で無所属となった世耕弘成参議院議員だ。以前から衆議院への鞍替えを狙っていた世耕氏。出るとすれば二階氏の和歌山3区からだった。
「世耕氏は前の衆議院選挙でも3区から出馬したがっていた。ただ、彼の鞍替えの理由は首相になるため。和歌山や国を思ってのことではなく、自分個人のためです。そんな鞍替えに大義はない。裏金事件は秘書のせいにして、ぬくぬくと議員でいる。本来ならは議員辞職でしょう」と岡本町長は突き放す。伸康氏からも「私、物心ついたときから右も左も前も後ろも政治、選挙の人生。選挙は自分との戦いですが、相手がどうとかではない」と世耕氏をけん制するような発言があった。
これまで和歌山政界では「二階一強」が長く続いてきただけ。それだけに、二階氏の引退を受けて世耕氏に期待する声もある。世耕氏の後援者はこう話して鞍替えを促す。
「衆議院に出たくて仕方なかった世耕さんにとっては、最初で最後のビッグチャンス。二階さんが政界から消えた上に、世耕さんは無所属。自民党のグリップも効かないので、思い切った動きもとれる。ここは世耕さんが立つべきだ。なんなら、俊樹と組んで伸康と対抗すればいい。二階家を二つに割れば世耕さんに勝機が生まれる」
伸康氏に対抗するため、世耕氏と俊樹氏が連合を組んで戦いを挑めば、とんでもない選挙になるのは間違いない。
そして、三つ目の壁が二階氏本人だ。伸康氏は「まだ父でもある、二階代議士には要請を受けたばかりで相談していない」と説明していた。だが、前出の二階氏親族はこう語る。
「外で重病説が流れている? 高齢ですから急変して万が一のこともありますので負担にならないように政治の情報は耳に入れていないはずです。和歌山の選挙区のことも詳しく知らないのではと思います」
二階氏は2016年の御坊市長選に俊樹氏を出馬させたが完敗。今回伸康氏に先を越された場合、「二階氏が引退となれば俊樹氏は秘書でなり行き先がない。伸康氏と俊樹氏は不仲で、その秘書は無理でしょう。また二階氏の体調が急変ともなればこれまた大騒動になる。解散総選挙の次期が遅くなれば、衆議院の和歌山3区の補欠選挙が先に来ます」とは二階氏の後援者。
そして、二階氏の秘書であったことから裏金事件、世襲への批判も高まるはず。
二階氏の後継として新和歌山2区でリーチをかけている伸康氏だが、まだまだ波乱含み。「3つの壁」を乗り越えることはできるのか?