衆議院の補選3連敗でダメージを負った岸田文雄首相。もう一人、奈落の底に堕ちたのが東京都の小池百合子知事だ。
■色褪せた神通力
東京15区に「五体不満足」の著作で有名な乙武洋匡氏を擁立。4月8日に行われた乙武氏の記者会見は、小池氏とのツーショットポスターが大量に貼られ、まさに「小池チルドレン」を思わせるような内容だった。自民党の幹部からも「自民党では、秋元司、柿沢未途と2人も逮捕者が出ている。乙武さんに乗って小池知事とも協調すべきだ。小池さんをを敵にまわすと、どんな政局になるかわからない」などと声があがり、早くも「当確」という勢いだった。
しかし、選挙戦では、乙武氏の女性スキャンダルが再燃。小池知事は初日からJR亀戸駅前で応援に入るも、別の候補者の「妨害演説」でその声が聴衆に届かない。ハンターの記者が20歳代とみられる有権者に“五体不満足の本、知っていますか”と聞くと、「知らないよ、この人の女性スキャンダルは知っているけど」という答えが返ってきた。ベストセラー作家としての名声は、地に堕ちていたのである。
それは選挙結果にも反映され、乙武氏は当選した立憲民主党の酒井なつみ氏から3万票も離され5位。無所属や維新、さらには諸派の新人にも届かないという惨敗だった。小池知事が特別顧問を務める都民ファーストの都議が、声を潜めてこう話す。
「小池知事が選挙戦で応援に入らなかったのは3日か4日日くらい。とにかく一生懸命だった。しかし、乙武さんというタマが悪すぎた。五体不満足のベストセラーから25年ほどが経過し、賞味期限切れの状態。乙武氏といえば女性スキャンダルというイメージがすっかり定着していた。選挙にめっぽう強い小池知事だが、完全に人選を誤った。当初は自民党と公明党の推薦はいらないとしていた小池知事が、最後は、両党に乙武支援を、と頭を下げていた。残念ながら、まったく功を奏することはなかった」
東京15区の投開票の1週間前に目黒区長選があった。小池知事は都議の伊藤悠氏を推薦したが、約5千票差で大敗。小池氏の「神通力」が色褪せてきたことは明らかだ。
■都知事選から撤退?
今年7月、小池知事は任期満了を迎え東京都知事選が実施される。「小池知事は、東京15区で自民党と公明党に協力させて乙武さんを勝たせ、都知事選で優位に選挙戦を展開しようと考えていた。しかし、思わぬ惨敗で反対に追い込まれつつある」(前出・都民ファーストの都議)
過去2回の都知事選では圧勝してきた小池知事は、毎回「ゼロ」をテーマに、待機児童、満員電車、介護離職などをなくそうと訴えてきた。しかし、東京都の幹部は小池氏の異変に気付いているようだ。
「実現したゼロの公約はありません。4年前の都知事選の直前は『達成できたゼロがない』とあわてている様子はありました。しかし、今の小池知事にはそんな気配さえない。都政への情熱をかなり失っている。ギラギラと燃えるようなものがすっかり失せてしまった知事ですから、電光石火で不出馬となる可能性さえあります」(同幹部)
悪いことは重なるもので、小池知事にも「カイロ大学卒業」を巡る経歴詐称疑惑が再燃。「選挙のたびに同じことが問題視される。おかしい」と記者会見で声を荒げたが、擁立候補の相次ぐ敗戦もあって、知事選からの撤退も可能性ゼロとは言えない状況だ。
当然、自民党サイドにもそうした情報が入っている。
「都知事にはなったものの、小池さんが国政に絡んでいくと失敗ばかり。本当は、今回の東京15区に自身が出馬して圧勝し、都知事選でも後継を勝たせて国政と都政の両方を握って総理を目指すという狙いがまったく逆方向にいってしまった。知事選には出ず、フリーハンドとなって衆議院の解散総選挙を狙ってくるのではないかという情報もある。2005年の小泉郵政解散で真っ先に手を挙げ刺客となった小池さんの当時の選挙区は東京10区。その周辺の選挙区の自民党関係者からは警戒する声も聞かれます。小池不出馬という電撃的な発表があるかもしれません」(東京都選出の自民党国会議員)
そうなれば、自民党も小池知事に代わる候補者の確保が急務だ。これまでなら、太刀打ちできそうもなかった野党だが、衆院補選の3勝で勢いにのる立憲民主党も、小池不出馬となればチャンスと見るはず。東京では人気抜群の蓮舫参議院議員など、有力候補を抱えているからだ。
「東京15区ではいろいろな候補の名前があがった。だが、人物本位で酒井氏を推したことが勝利につながった。都知事選も同様に考えている。今の勢いなら、小池知事の牙城を崩す絶好のチャンス」と立憲民主党の幹部はほくそ笑む。
落日の「女帝」となりつつある小池知事。残るサプライズが、都知事選への不出馬表明となるかもしれない。