「自民党の3連敗で岸田総理は大ピンチ。そのせいで目立っていないが、うちは幹部が大風呂敷を広げながら完敗。党内でも代表の辞任を迫る動きがあるほどだ」――と人目を気にして話すのは日本維新の会の衆議院議員。同党は、先月28日の衆議院補欠選挙で、注目の東京15区と長崎3区に候補者を擁立しながら、どちらも「午後8時当確」を許す大惨敗を喫した。「身を切る改革」というキャッチコポーを掲げて勢力を伸ばしてきた維新の党内に、軋みが目立ち始めた。
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選挙期間中、同党共同代表で地域政党「大阪維新の会」の代表でもある大阪府の吉村洋文知事は繰り返し東京15区入り。4月27日に行われた門前仲町駅前の演説には数百人の聴衆が集まった。
「政治家は選挙であれやります、これやりますと言っている。実際にやっているかをみてほしい。みなさんに負担ばっかりかけていく政治」と語ると大きな拍手が起こった。ところが、馬場伸幸代表は呆れたことに「立憲民主党を叩き潰す」と野党をターゲットに猛攻撃。自民党にすり寄る形となった。
馬場氏は、立憲民主党が共産党と組んでいるとして「立憲共産党」を連呼してヒートアップ。だが、その声はまったく有権者に届かなかった。吉村知事は選挙後の会見で「政治とカネが大きな争点だった選挙ですが、受け皿にはなれなかった」と発言。馬場代表は「今の党の実力のまま関西以外で、小選挙区で勝つのは難しい」と総括した。
つまり、吉村知事や馬場代表は選挙で負けた責任は取らないということ。維新の所属議員による冒頭の話は、選挙後の記者会見でも他人事のような話ばかりする二人の幹部への不満に他ならない。
維新は創業者である橋下徹氏、松井一郎氏の時代から「政治は結果責任」と語ってきた。しかし、吉村知事は補欠選挙の敗因を「投票率が低い」とあげた。投票率の低さで優位に立つのは自民党であり公明党の政権与党。だが、与野党対決となった島根1区では、低い投票率でも立憲民主党が勝利した。
維新は候補者すら擁立できず、ただ立憲民主党を「叩き潰す」と罵倒するばかり。
元明石市長の泉房穂氏はそんな維新に対して、自身のXで次のように批判した。
《炎上覚悟で、あえて言いたい。維新の馬場代表は、長崎と東京での補選2敗の責任をとって、代表を辞任すべきだ。政治家とは責任を取るのが仕事だ。維新の支持者も声を上げるべきだ。立憲と勝負をして負けた以上、代表に居座るのはどうかと思う。馬場代表よ、潔く辞任すべきだ!》
《維新の関係者に問いかけたい。補選で勝負をかけて大敗したのに、何の反省もなく、責任を取ることもなく、方針を見直すこともしない。そんな代表に対して、声をあげることもなく、沈黙を続けるのは、どうしてなのか。維新には、馬場代表以外に人材はいないのか・・・》
《『与党の過半数割れ』を党の目標に据えたうえで、補選で勝負をかけて完敗した以上、方針を見直すべきではないのか。関西以外での候補者乱立は、自民党の小選挙区での勝利をアシストすることであり、『与党の過半数割れ』という目標に矛盾する対応だ。開き直る場面ではない》
大阪維新の会のある府議も、「泉さんのポストはまさに正論、党内でも拍手喝采です。馬場代表など執行部は責任をとるべき。関西以外では小選挙区がとれない党にあまんじているようでは維新は野党第1党にはなれないし、政権交代があっても相手にされず、第二自民党、自民党の二軍に成り下がるだけ。そういう党運営しかできないことの象徴が、今回の補欠選挙の結果ではなかったのか。泉さんの言う通り、責任論が出ることを回避し、開き直っている」と厳しく批判する。
維新の看板は「万博」と「身を切る改革」。吉村知事は、準備遅れや多額の税金投入など次々と問題が発覚する大阪・関西万博は「選挙の争点ではない」と逃げた。しかし、馬場代表はじめ東京15区で補欠選挙を仕切った音喜多駿参議院議員などの幹部が辞めることが、『一番の身を切る改革』という声が党内では少なくない。
しかし、先の府議はこうも話す。
「批判的な声を党内であげると、私たち議員が叩き潰されます。身内を叩き潰す。そういう党なのです。怖くて何も言えません」
他党や批判者を口汚くののしり、叩くという、まさに「恐怖政治」。維新が関西以外で政治勢力として伸びない理由は、こうした危ない体質に気付く国民が増えているからだろう。維新の看板である「万博」に批判が高まる中、地元の関西でも風当たりは強くなりつつある。